契約
2話です。
残酷な描写がありますのでご注意を。
では、どうぞm(__)m
「……《終身刑》?」
『ええ』
大層物騒な言葉に、平然と香純は頷く。
『《怪奇現象》にはね、決まって人の負の感情が絡んでくるの。その元になるのは言葉よ。言葉は名前だから、その《元凶》の名前を《言霊》によって封印することで止めることができるのよ。尤も、強力な《言霊使い》にしかできないけれど』
「……そっか」
それ以上聞くのも悪い気がして、遼は黙る。
暫くそのまま歩いていたが、沈黙を破ったのは香純のほうだった。
『………遼、だったわね』
「え?うん」
不思議そうに頷いた彼に、彼女は言う。
『ごめんなさい、一つ断っておくべきだったわ。……私と一緒にいるということは、《怪奇現象》に巻き込まれるということになるの。私は《怪奇現象》の一部であると同時に《言霊使い》だから……でも、《言霊》は今は使えない。私は《怪奇現象》によって《言霊》がぶつけられないの。巻き込んでおきながら、戦いもできない。……それでも私を殺さないの?』
最後の一文だけ、声が震えていた。
彼女はそっぽを向いているが、その表情が目に浮かぶ。
遼は少しだけ微笑み、しかし真剣に言った。
「殺さないよ。絶対に」
『……じゃあ遼。早速だけど…逃げなさい』
逃げる?
一瞬理解が遅れた。
何から逃げろと言っているのだろうか?
恐る恐る振り向くと、それはいた。
塀に不似合いな大きな眼球が、こちらを見ていた。
「………!!」
それが目だとわかった瞬間、ぞわりと鳥肌が立った。
そして塀の目が大きく瞬きをした。
反射的に、遼はその場を後にしていた。
縺れそうになる足で、何とか走り出す。
しかし、
『……囲まれたわね』
悔しげな香純の声と同時に、周りのあらゆる塀や壁から一斉に目が見開かれた。
「…………!!」
恐怖で声も出せない遼に、極めて冷静に彼女は言った。
『貴方このままじゃ死ぬわよ?……たった一つだけ、生き延びる方法があるけれど』
しかし、それに対する遼の答えは予想外だった。
「その方法を使ったら……香純を守れる?」
『……………っ!?』
香純が頬をみるみるうちに紅潮させていく。
何だ。
何なんだ。
この男は何を言っている?
『……言いたいことはわからないけど、そうね。2人で生還できるわ』
言うと、彼は真剣な顔で頷いた。
『……じゃあ目を閉じて』
香純は告げ、唱えた。
『貴方の弱さを私の鍵に!!』
遼はそれを聞くと、心を掻き回されているように感じた。
ありとあらゆる思考が渦巻き、脳を満たしていく。
そして、閉じている瞼の裏に一つの記憶がくっきりと浮かんだ。
『遼だけは裏切らないよね…?』
「ぅ……あぁ…ああああ!!」
遼の絶叫。
それに呼応するように、何かが紡がれていく。
糸より細い透明な筋が、光を乱反射して集まっていく。
それは、1本の鍵だった。
鍵は、本に半分ほど吸い込まれるように刺さり、ガチャリと捻られた。
バサリ、と本が地面に落ちる。
と同時に、
『契約完了ね』
普通の人間と同じ大きさになった香純が、本から文字列を伴って飛び出してきた。
「……香純?」
まだ動悸の収まらない遼が、確認するように尋ねる。
「そうよ。コイツらさっさと片付けるわね?」
彼女は足を開き、言った。
「《貴方たちにこの言葉を贈るわ》、《刃》」
刹那、周りを囲んでいた目が一斉にぐちゃりと潰れた。
血が辺りに撒き散らされる。
見れば、それぞれの目の中央に
ナイフや鉄パイプが刺さっている。
思わず遼は目を覆いたくなる。
胃の中身が迫り上がってくるような感覚を覚え、その場に踞った。
「大丈夫?」
少し視線を上げると、香純が覗き込んでいた。
「何とか……」
不甲斐ないと思うが、強がるほどのプライドも精神力も生憎持ち合わせていなかった。
「飲み物いる?」
「いや、大丈夫」
彼女はそう、と素っ気なく返事をして、隣に座り込んだ。
「……《言霊》ってさ、耳の聞こえない相手にも効果あるの?」
遼は疑問点をぶつけた。
黙っていると思い出してしまいそうだったからだ。
「《言霊》の発動条件は言葉の伝え方と同じよ。言葉は文字や読唇術で伝わるでしょ?」
「ああ……そっか。それと、契約って何?」
そう聞くと、香純は立ち上がって微笑んだ。
「私の《終身刑》を軽減してくれたでしょ?私と契約した相手は、私の《言霊》を有効にして私を本から呼び出せるようになるの」
はにかみながら続ける。
「これでも私、感謝してるのよ?」
それを聞いて、遼は弱々しく笑った。
かくして、浅野目遼は妹尾香純の契約者となった。
いかがでしたか?
今回の《怪奇現象》の元凶は誰なのか…
そこに着目して話は進んでいきます(多分←)。
では、また3話でお会いしましょうm(__)m




