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不愉快な男

作者: 北田大地

悲しい言い訳をする女性の話です。


言い訳の嫌いな人はご注意下さい。

 清潔感がないからといって毎日お風呂に入っていないわけじゃないということは知ってはいた。


でも他人に不快感を与えないように毎日努力している自分から見ればやっぱり努力不足にしか見えなかった。


人として当然の努力をしていない人が見下されていたとしてもそれは仕方がないことだ。そんな風に思っていた。


 だからVRMMOで知り合った人がクラスメートの”彼”だと知った時は驚いた。何故ならばゲーム内ではこちらの事情にも配慮してくれる気遣いができる人という印象だったからだ。ダサい格好をしても平気な顔をして周囲が不愉快でいるのも気づかない無神経な人だと思っていたのに、親しく話をするようになってから知った彼の実態はそうではなかった。


 ゲームで知り合いだということは誰にも言うつもりはなかった。だから彼を友達がけなしているのを見てもかばうようなことは言わなかった。私だって話をしたこともない状態では同じように彼の悪口を言っていただろう。あんな外見なのが悪いのだ。思うところがなかったわけではないけれども、当時の私には関係ないことだった。


 私に好きな人がいなかったことも原因だったろうと思う。誰が好きなのと聞かれてもあいまいに応えていた私のことを友人達が不満に思っていたのはわかる。でも何もよりによって彼に告白させようとしなくても良かったのに……。


 今となって思えば私は彼を見ながらゲームのことを考えていたことがあったのだろうと思う。友人も私が彼に好意を持っていると思ったわけではないだろう。恋愛に縁のないような顔をしている私をちょっとからかってやろう。その程度の思いだったに違いない。


 私が本気になって嫌がれば無理強いするようなことはなかったと思う。今でも私は彼女達を大切な友人だと思っている。でも私は彼の”ちょっといいところ”をほんの少しだけ知っていた。だから罰ゲームとして”彼に告白すること”という命令を本気になって断ることができなかったのだ。


 何でもないことだと私は思った。彼に告白しても受け入れられることはないだろう。だから何かが変わってしまうわけじゃない。友人達も私が振られるところを見れば悪かったと言ってくれるだろうと思った。


 でも結果は悲惨だった。


 彼は私を怯えた目で見ていたのだ。


 後から聞いた話では、こういうことが何度かあったのだと言う。彼が困った顔をして告白を断るのを見て告白したばかりの女性が、実は罰ゲームだったんだと冗談めかして笑うなんてことが。


 本当のことはわからない。本当に罰ゲームで告白したのかもしれない(私もその一人だ)し、彼があまりにもつらそうな顔で困っているのを見て雰囲気を和らげたくて嘘を言ったのかもしれない。


 はっきりしていることは、ある時私が彼をいきなり怒鳴りつけたことだ。何を言ったのかはよく覚えていない。彼が私を見て怯えているのが許せなかった。彼の笑顔を私は知っていたから。


 彼の友人は私が彼に近づくことを許さなかった。それも当然かもしれない。あの後彼がどうなったかを考えれば、元凶となった私を近づけるわけにはいかなかったのだろう。罰ゲームで告白したということが周囲に知られていたのもまずかった。


 私が彼をいきなり怒鳴りつけたという評判が広まった。事実だから否定することはできない。でも私だって傷ついていたのだ。もし彼と直接話をさせてくれさえすれば、事情を話すことだってできただろう。


 私は彼を殺したくなるくらい憎んでいるのだそうだ。みんながそう噂している。私は何を言えば良かっただろうか。彼は女に嫌われるのが当たり前で、私が彼を嫌うのは理解できるけどあれはやりすぎだよと言われれば言い返すことはできなかった。


 ゲームで知り合いだったということが言えれば話は違ったのかもしれないけれども、その時にはゲームでも会うことができなくなっていた。彼が転校したと聞いても何とも思わなかったのは、いつかゲームで再会できると信じているからかもしれない。


 その時彼に言ってやるのだ。怯えた目で見られて悲しかったということを。そしていつか二人で笑って話せるようになれたらいいのにね……。

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[良い点] 嫌な女をきちんと描写出来てる点 [気になる点] 嫌な女はどこまでいっても嫌な女な点 [一言] 個人的な意見ですが、恋人どころか友達にもしたくないタイプかなというのが第一印象。 相手に対…
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