よくあるラブコメ的な
「彼氏ほしいなぁ」
ポツリとつぶやかれた雪音の言葉を聞いた瞬間、まるで電撃が走ったかのような衝撃に、のんびりとお茶を啜っていた俺の脳内はブルースクリーンと化した。
しかしそこはそれ、学校でもクールなキャラで通している俺は落ち着いている素振りをしながら必死に脳内を再起動させ、ひとまず持っている湯呑を机に置いた。
いま雪音は何と言ったのか、冷静に先ほどの言葉を脳内再生してみる
『彼氏ほしいなぁ』
キタァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
いい年こいて未だにイチャイチャしているお袋と親父は二人で旅行に出掛けている今、俺の家には雪音と俺の二人きりという状況でこのセリフ。
これはまさしくフリに違いない!!
『彼氏なんかほしいのか?』
『うん、だから日向が恋人になってよ』
こんな感じの。
ムードがどうこうとういうツッコミはそれこそ無粋だ。
雪音は感情だけで突っ走って周りの事が見えなくなることが多々ある。
幼いころから俺は雪音に好かれるような努力をしてきた。
雪音が甘いものが好きだと知れば恥や外聞を捨て、周りが女性ばかりの中一人料理教室に通い、雪音の好みなどを探り、さりげない形でアプローチを入れ続けてきた。
その結果、雪音からの俺への好感度メーターが振り切って、ムードなんかよりも早く俺とキャッキャウフフしたい!と思ったのだろう。そうに違いない。
思えばすべての始まりからここまで長かった。幼いころからずっと一緒にいて、小学校に入るころには他の女子なんてどうでもよくなるくらいに雪音にベタ惚れになっていた。
そのころからコツコツと雪音に好かれるように努力をし続けて早十年、高校に入って雪音はお嬢様学校に行き、俺はただの公立高校に通っているが、今では雪音が学校からの帰り道に俺の家に寄らないことの方が少なくなっているくらいだ。
俺の両親も嫁にはぜひ雪音を、という後は俺と雪音が付き合うだけという状態だ。
そしてとうとう、来ちゃったのかこの日が!!
「へぇ、そうなのか?」
ここで焦ってはいけない。
調子に乗って「なら俺と付き合おう!」なんて言おうものなら、ツンデレな雪音はきっと「バ、バカ。なんで私がアンタと付き合わなきゃいけないのよ!」と恥ずかしながら断り、結局この話は有耶無耶になってしまうだろう。
そうなってしまうとこの先が辛くなる。大長編のラブコメ物のように、友達以上恋人未満というじれったい関係がずっと続いてしまうこと間違いなし。それだけは回避しなければ。
それっぽい気を出さないように細心の注意を払いながら、話の続きを促す。
「この前さ、ショッピングモールをぶらぶらしてたら子供を連れて歩く夫婦を見つけたのよ。ああいうの羨ましいなっておもってさ」
と、ここで当初のシミュレーションから外れた。
だがそれもまた想定の範囲内。この会話も別の条件でのシミュレーションで可能性として挙げられていた。
さすが雪音、こんなときでも手堅く攻めようとしているみたいだ。ならばここはあえて俺から攻めてみよう。
「子供がほしいなんて理由で恋人を作るなんて、相手方が可哀想だろう」
「失敬ね。そんなどうでもいい奴と一緒になったらいしないわよ。ちゃんと私は私が好きになれる相手とだけ一緒になるわと」
ほらこの通り。
負けず嫌いなところのある雪音はちょっと突けば面白いぐらい噛みついてくる。
それもタイミング次第だが、幼いころかずっと雪音を見つめている俺には朝飯前だ。
「それじゃあ、雪音の好みのタイプってどんな奴だよ」
「そうねぇ、やっぱりある程度は家事ができて欲しいわね。あと、お菓子を作るのがうまい人じゃないと。私は料理下手だし」
「恋……人……?」
「なんでそこで疑問形なのよ」
「だって、それはむしろお手伝いさんとかホームヘルパーみたいだろ」
「うっさい。好みなんて人の勝手でしょ」
突っ込まれて少し恥ずかしいらしく、雪音はそっぽを向いてしまった。雪音可愛い。
というかこれはやっぱりあれだな。間違いなく専業主夫になれるとまで言われているくらい家事がこなせて、お菓子ももはやお金を取れるレベルで作れる俺のことだな。雪音可愛い。
なんだかこっちを意識するようにチラチラ見ているし。さりげなく様子を見ているつもりなんだろうが、俺の目はごまかせないぞ。雪音かわいい。
最初からわかっていたことだがついに俺の時代がキター!
「おまえが奴隷のごとくこき使える奴がタイプなのは俺には関係ないけど」
「いくら働いてくれてもいらないわよそんな奴。それより、私に釣り合う美形なのも条件ね」
「私に釣り合う美形(笑)」
「おい、表に出ろ」
おっと、いけない、いけない。調子に乗って雪音を弄りすぎた。
雪音はちょっとからかえば実に良い反応を返してくれるものだから、ついついからかってしまう。
ちなみに、言うまでもないことだが、天上天下において雪音に敵うビジュアルの持ち主はいない。そういう意味では釣り合う相手などいないのは事実。
ともかく話を戻そう。このままでは雪音とのちゅっちゅルートを逃してしまう。
「それで、家事が上手とか、お菓子作りをできるとか以外にどんな奴がいいんだ?性格とかには触れてないけど」
「サラっとスルーしやがって……性格はそうねぇ、馬鹿な男子みたいなのとは違って頭柔らかくて、優しくて、私の言うことを何でも聞いてくれて、お金持ちで、いざという時には身を挺して私を守ってくれるようなタイプかな?」
「うっわー……」
「いや、冗談だから。そんな『なんなのコイツ、マジで引くわー』みたいな反応しないで」
冗談とは分かっているけれど、そんな言葉がすらすら出てくるあたり、雪音の自己中心的な性格が垣間見れる。根っこか我儘な奴じゃないんだが、基本的に俺様気質。まぁ、そんな小悪魔じみたところもかわいいんだけどね!
「まぁ、好み性格なんて好きになるまで分からないもんだよな」
「そうそう、その通りよ。さっき言ったのも適当だし。もしかしたら好きになった奴が日向みたいに意地の悪い性格だったりね」
その言葉で俺は三度勝利を確信した。このタイミングで俺を意識するかのようなその発言。
これはもうフラグが剣山のごとくビンビンに立っているに違いない。
「……それで、雪音は好きなやついるのかよ?」
笑みが浮かぶのを堪えながら、とうとう俺は勝負に出た。
さぁ来い雪音。この胸は飛び込んでくるお前を受け止める準備はできているぞ。それよりも先にキスか?いやいや、実は雪音は案外奥手だし、もう少し段階を踏んでからの方がいいだろう。その場合は近くのショッピングモールにデートに繰り出して、買い物や食事を楽しんで、最後に夜景のきれいな丘に行くのがベストだろう。星空の下で紅く染まった雪音の唇をそこでようやく奪うのだ。俺は当たり前だがファーストキス。雪音もそうだと思うけれど、そういう話はあまりしていないのでよくわからない。幼馴染だって聞きにくいことぐらいあるのだ。もし悪くても親としたことがあるとかその程度だろう。それならばノーカンだ。誰が何と言おうとノーカンだ。雪音は周りに付き合っていることを伝えるだろうか。恥ずかしがって隠したがるかもしれないが、俺としては雪音は俺、藤原日向のものだと示すために是非公言したい。なにせ雪音ちゃんマジ天使。いつ何時雪音を狙って悪い虫がすり寄って来るか分からない。無論、そういう輩がいた場合一人残らずデストローイするが。そして二人が行き着く先はやっぱり結婚。結婚式は和風?それとも洋風か?個人的には奥ゆかしい和風の方が好みだが、洋風のウエディングドレスも捨てがたい。挙式が終わればハネムーン。どこに行くのがいいだろうか。二人で世界中めぐるのも悪くない。
いや、列車に乗って二人で向かい合って座って、外の景色を眺めながら「俺のどこが好きになったんだ?」なんて話をしたりするのもいい。ただ、その質問を雪音にされた場合、俺の雪音への想い言葉で言い表せるかどうか。いや、できるはずがない。それほどまでに俺の雪音への想いは大きくなってしまっている。待て、何か重大なことを忘れていないか?そうだ!結婚しょy……
「いたらこんな話してないわよ。あー、どこかにいないかなー、そんな大人の男性」
ゴーン、と鐘を突いたかのような衝撃が脳内に鳴り響いた。
身体全体を丸ごと巨大な鉄槌に叩き潰されたような衝撃を感じ、吐き気を感じて呼吸もままならない。
目の前は真っ白に染まり、おおよそ言葉を口にできる状態ではなくなる。
「って言っても、そんなに都合よくいるわけ……あれ、ひなたー?」
真っ白な頭の中で、少しずつ、時間をかけて思考が戻ってくる。拙い思考状態の中で、俺は何とか雪音が口にした言葉を思い出す。
『あー、どこかにいないかなー、そんな大人の男性』
『あー、どこかにいないかなー、そんな大人の男性』
『そんな大人の男性』
『大人の男性』
「…………めない」
「どうしたの日向。死んだ魚みたいな目をして」
「認めねぇぞ、大人の男なんて!せめて小さな子供とかだったらまだ眺めてまったりほのぼのできるのによりにもよって大人の男だと!」
「え、なに、えっ」
「どうせおっさんなんて雪音の身体が目的で寄ってきてるだけなんだ。飽きたら捨てられるんだ。そんな奴らと雪音とを一緒にしていいというのか。否!そんなことは天地神明の理においてもありえない。否!!たとえ天地がひっくり返ってもあってはならない!!」
「いやちょ、ひな……」
「こうなったら、この世に存在するありとあらゆる年上のジジイ共を抹殺してでも!!」
「落ち着けぇ!」
「ぶべらっ!?」
またもや頭部に衝撃。ただし今度はリアルで痛い。
いきりたったところに雪音が鞄から取り出した辞書で殴られてしまった。
「落ち着いた?」
「ああ、落ち着いた。今から冷静にこの世から年上の男を抹殺するための作戦を……
「えーっと、この壺でいいかしら……」
「わかった、落ち着くからその鈍器を下ろしてくれ」
流石に壷で殴られるのは勘弁したい。壷が割れてしまうだろうし、何よりマジでヤバイ。
これが直に雪音から踏みつけられるのはむしろありかもしれないが。
「それで何なのさっきの」
「さて、何のことだ?」
「この期に及んでシラを切るとか馬鹿じゃないの」
ぐぅ、雪音に馬鹿にされるなんて。しかし、これはかなりまずい状況なのでは。先ほどの雪音の言葉、恋人に大人の男性を探しているのは心苦しいが認めよう。すると、ともすれば簡単な、かつ、とてつもなく重大な事実が浮かび上がってくる。
雪音は同年代の男には興味がない
ここでもし俺が「実はあなたのことが好きです」なんて暴露したら、雪音は俺のことをどう思うだろうか。もし雪音に「あ、ごめん。日向のことはただの幼馴染としか思ってないから。というかそんなこと考えてたの、キモイ」なんて言われようものならその場でショック死する自信がある。
この場を自然に、雪音に俺の好意を気付かせずに切り抜ける方法は……!
「……から」
「から?」
「昔、年上の男性に女性が捨てられるドラマを見てからなんだかトラウマになって……」
「ヘぇ、それなら仕方ない……のかな?」
苦しい嘘だが案外雪音は簡単に信じてくれたようだ。変なところで純粋なのだ、雪音は。
「それにしてもいきなり叫びだすからびっくりしたわよ。日向でもあんなに興奮することあるのね。」
「それは雪音の口から信じられないような言葉が飛び出したもんだから」
「彼氏が欲しいなんて、そんなに珍しい話じゃないでしょ」
ひとまず今の嘘でやり過ごせたが、依然として状況は何も良くなっていないことに気づく。雪音がその気になってしまうと遅かれ早かれ男の相手を見つけてしまうだろう。いや、想像以上にその時は近いのかもしれない。なんせ小学生の時に、暇だったからという理由で「第一回、チキチキ真夏のウォーターサバイバル」を全校生徒も巻き込んで開催するようなやつなのだ。ちなみに、そのせいで学校中がびしょびしょになったことについて、なぜか俺も一緒に怒られた。そんな雪音のバイタリティをもってすれば、男と出あい果たしてしまう可能性もある。
それだけは絶対に阻止しなければない!
「でも俺は雪音が付き合うなんて許さんぞ」
「あんたは私のお父さんか」
おっと、またヒートアップしてしまった。
「なに、そんなに私が年上の彼氏作るのがいやなの?」
「それはもちろん!」
「いつになく力強く答えたわね……」
実際のところ誰がどんな男と付き合おうが、それで本人が幸せならば、俺には口をはさむことができないと思っている……が、雪音となると話は別だ。
好きな相手だから、それだけは譲れない一線だ。
「とにかく年上との交際はお勧めしないからな。甘い言葉で騙されて貢がされて、毛の一本まで毟り取られて。最後にはゴミみたいに捨てられて身も心もボロボロになるのがオチだ」
「ないから。男に対して偏見持ちすぎだからそれは」
「チッ」
「むしろ逆に聞くけど、そんな悪い男が擦り寄ってきたとして、この私が騙されると思うわけ?」
それを言われると言葉に詰まる。
確かに、雪音は直情的だし、抜けてるところも多々あるが。肝心なところで聡い奴なのだ。
もし今言ったような男が近づいてきたら、逆に利用して骨の髄までむしゃぶりつくすくらいのことはやってのけそうだ。
「いや、その油断は危ないぞ。過去どれだけの者がそう思い込んで裏切られてきたか。いかな賢人であっても、心奪われて骨抜きにされる可能性はある」
それでも何としても雪音の好みから年上の存在を駆逐したい俺は、思ってもないことを口にした。いや、事実ではあるんだろうけども、現に今の俺がそうだし。
しかし雪音は口うるさく言われたのが気に食わなかったようで、不満げな表情を浮かべている。
「なによもう、私に恋人を作るなって言ってるわけ?そんなの私の自由じゃない」
「逆に考えるんだ」
「ん?」
「男がだめなら女に走ればいいだろう」
「頭沸いてるんじゃないの?」
ウジ虫を見るような、水も瞬く間に凍りつくような目で見られた。
やめてくれ!確かに今のは自分でも言っていてないな、と思ったけども!
「駄目って言ってるのは日向だけだし、話が飛躍しすぎてるから。そもそも同姓じゃ子供作れないじゃない」
と、その言葉に頭の隅で疑問に思っていたことを話題に出してみる。
「そういや雪音がそこまで子供に固執するなんて珍しいな」
事の発端も子供連れを見たことが影響しているし、先程から雪音の恋人談義には子供の存在がたびたび顔を出してくる。
当の本人はそのことに気付いていなかったようで、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。驚いた顔も可愛い、天使か。天使だ。
「そうかなぁ、別に普通だと思うけど」
「女として子供が欲しいって気持ちか?それにしても恋人の話で率先して子供の話が出るのは変じゃないか」
「あー、もしかしたらおじいちゃんのせいかも」
と、雪音は思い当たる節があるのか自分一人でしきりに頷き、納得している。
「いや、私の家って結構有名というか、ずっと昔から続いている由緒正しい家柄なのよ」
確かに、昔子供のころに雪音の家の蔵で遊んでいるときに巻物を見つけて開けてみると人の名前らしきものがずらずらと書かれていた事があった。今にして思えば、あれは家系図だったのだろう。ちなみに、俺と雪音は雪音のじいさんに蔵に勝手に入ったことでこっぴどく叱られた。
「私、一人っ子じゃない。親が子宝に恵まれなくてさ。男の跡継ぎが欲しいって小さいころから何度もおじいちゃんに聞かされてたからからだと思うわ」
確かに、何代も続いてきた家系を自分達の代で終わらせる訳にもいかないだろうし、子供を産ませることの大切さについて教え込まされていても不思議ではない。
「一度小学生の時にお見合いの話が出たこともあったらしいわ。まぁ、私がほんのちょーっとだけ活発な子供だったからそれはなしになったらしいけどね」
「そのころからお転婆だったもんなぁ、お前」
いつもいつもいつも雪音に振り回され、山に探検に行ったかと思えば、海に遊びに行き、街の中を駆けずり回り、いろいろな人にいたずらをして回った日々を思い出す。それにしても、なぜか怒られる時は俺が怒られていた気がする。なぜだ、主犯はいつも雪音だったのに、理不尽だ。
「まったく。大体跡継ぎなんて女でも十分よ。仕事なら私でも出来るし、むしろそこらの凡人よりかよっぽど上手くやってみせるわ」
ぷりぷりしながら話す雪音は、そこだけ聞くとただの世間知らずのお嬢様のようだ。
だが実際にはただのお嬢様ではなく、その自信に見合った才能を持ち合わせている。
だからこそ、自分の存在をないがしろにされて、勝手に話を進められたりすることを雪音はとても嫌う。
「それに勝手に相手を決められるのも嫌だったし。今は昔と違うから、絶対に自分で気に入る奴を探すつもりよ」
「……そう、いい相手が見つかるといいな」
どうやら雪音は、そういった相手を探す気が満々のようだ。
ここはやはり、雪音が気に入るような相手の条件をより深く調べる必要がある。該当する者が雪音に近づいてきた場合に先回りして闇討ち……ゲフンゲフン、邪魔をし……ゴホン、もとい釘を刺しておくために。
「それで、雪音はどういった奴となら一緒になりたいんだ?」
「なによ、またそれ?それならさっき答えたじゃない」
「あんなふざけた感じの答えじゃ答えてないも同じだろ」
「あー、確かに適当に答えたしね。そうねぇ……」
「あ、こんどはちゃんと真剣に答えてくれよ」
「うーん、真剣に……」
今度は真面目に答えようとしているようで、雪音は人差し指を立ててプニプニの頬っぺたに添えた。
わざとやってるのか、それとも天然なのか、どちらにしろ真剣に思い悩む姿はマジプリティ。その頬と指に吸い付けと私の中のゴーストが囁いてきて、実行に移すのを必死に耐えた。
「どうしても当たり前の答えしか出てこないけどそれでいい?」
「……え、ああ、いいんじゃないか?」
内なる自分と戦いながら雪音に見惚れていると、そう切り出されて我に返った。
雪音が真剣に話してくれるというのだから、俺も真剣にならねば。そう思い、姿勢を正して心を平静に戻す。現在の西暦は? 2012年。893.496×1.771.104は? 1.582.474.339.584。雪音は? 正義。よし平静だ。
真剣に話を拝聴しようとしている私に向かって、雪音はゆっくりと言葉を口にした。
「やっぱり、付き合う以上は自分も相手も、一緒にいて楽しいって思えないと」
静かに唱えられたそれは、俺の胸に素早く滑り込んできて、ストンと収まるべき位置に収まった気がした。
「楽しい?」
「うん……幸せって言ってもいいと思う。ほら、恋人って一緒にいる時間が増えるわけでしょ? だから付き合う相手なんかとは長い間一緒にいるわけだし。好きとか嫌いとか考えなくても、気が付いたら肩を寄せ合ってるような関係になりたいわ。だったら、一緒にいて楽しいって思えるのが一番でしょ。私も、もちろん相手もね」
彼女としては珍しく、控え目がちに紡がれた言葉に、俺は本日何度目かもわからない衝撃を受けていた。
「楽しくて、幸せ……」
「あーもう、繰り返さないでよ。なによこれ、恥ずかし」
隣にあった座布団を抱えて頭を伏せる雪音を尻目に、俺は言葉を失っていた。
確かに雪音が今言ったことは当たり前で、一番大切なことだった。
それなのにさっきまで俺は何を考えていた?
雪音の邪魔をする策ばかり練って、なんて矮小で意地汚かったのか。
「……そんな、恥ずかしがることないだろ」
「お世辞とかは良いわよ」
「世辞なんかじゃねぇよ。当たり前だけど、それに気付けない人も沢山いるんだ。それをわかっているのは凄いことだろ」
恥ずかしいのは俺のほうだ。
自分のことばかり考えて、雪音のことを全く考えていなかった。
これでは雪音のことを自己中心だなんて馬鹿に出来ない。表面だけ取り繕って中身がそれでは、俺の方がずっと酷い奴じゃないか。
「俺もいま気付かされたところだしな」
「……じゃあ日向の好みのタイプはどんなやつなわけ?」
「えっ」
などとショックを受けて落ち込んできたところに、思わぬ質問してきちゃったよこの不良jk。
座布団に顔を埋めていた雪音は、わずかに顔を上げるとギロリと俺を睨みつけてきた。
「私だけ恥ずかしい思いして、日向は何にも無しっていうのは不公平じゃないの?」
「いやいや、それとこれとは話が別……」
「いいから吐け! 吐けぇ!」
「まぁ、俺ほどのイケメンにもなるとどっちかっていうと引く手数多でな」
しかし俺は努めて冷静に、ふざけているように見えるように振る舞った。
こうすれば、いつも雪音をからかっている俺だ。こうして雪音を怒らせて有耶無耶にしてしまおうというわけだ。
「……もしかして、日向って好きな人がいるの?」
心臓を握りしめられた感覚とともに、血の気が引いた。
「やっぱりいるのね」
「まだ俺は何も言ってないだろ」
「言ってなくても挙動を見てればわかるわよ。目線、呼吸、その他諸々の挙動。私が聞いたとき、本当のこと言われて焦ったでしょ」
俺は雪音の性格と思考パターンをほぼ完全に把握しており、その上で完璧な対応をしたつもりだった。
だが現実はそう上手く行かなかった。俺の予想を軽々と飛び越して、制止など効かず彼女は俺の核心に迫ってきている。
「他のクラスメイトなら分からない。日向のおじさんやおばさんでもわからないでしょうね。でも私にはわかるわ」
時として、そして大体において最悪のタイミングで予想を裏切ってくるのが雪音という人間だった。
もうこの流れは変えられない。煙に巻こうにもこういう時の彼女は惑わされずに突き進んでくる。
「それで、誰のことが好きなのよ。教えなさいよ」
嘘を言ってもきっと無駄だろう。言葉を偽れば即座に見抜いてくるに違いない。黙っていても次々に質問を浴びせ、強引に答えを引き出してくるのが目に見えていた。
だからと言って実力行使で話を終わらそうとすれば、雪音が腹を立たせて躍起にさせるだけに決まっている。きっと何日も何ヶ月もかけてこの話の答えを知ろうとする。
何もリスクを負わずに、無難にこの場を逃れることは無理だろうと俺は悟った。
「い……」
「い?」
「……今は言いたくない」
気が付いたら口からこぼれ落ちた言葉は、自分でも驚くほど重たかった気がする。
目の前に座っている雪音は目を丸くして驚いたあと、眉を潜めて肌に付くような粘っこい視線を送ってきた。
「なんか気に入らない答えね。理由のほうを聞かせなさい」
「聞いたところで退屈な話だぞ」
「そんなの決めるのは私よ。誤魔化してないでさっさと話しなさいよ」
膝の上から座布団を下ろした雪音が、苛立たしそうに机を指で叩いて催促してくる。
本当はこれも黙っていたいけれど、雪音が引き下がってくれるなら少しぐらいは打ち明けてもいいかもしれない。
「……俺が好きになった奴はな、話を聞く限りずっと良いことがなかったみたいなんだよ」
雪音から聞いてもてもないのにぺらぺらと述べられた学校や街での愚痴を思い出す。
やれあの娘はお転婆すぎると陰口をたたかれている。やれ学校は何もなくてつまらない。
学校の話で口を開けば不満しか出てこなくて、そんな場所で過ごしている彼女の学園生活は退屈なものなのだろう。
「だけど、最近そいつが楽しそうにしてるんだよ。最近はいつも笑ってくれてるんだよ。もし俺が想いを打ち明けたら、その幸せを邪魔してしまいそうな気がしてきたんだ」
「……どうなったら告白して不幸になるって言うのよ」
「お前は言ったよな、自分も相手も幸せにならないと意味がないって。さっきまで俺はそのことが頭から抜け落ちていた。どうしたら彼女が手に入るか狡賢い策ばかり練って、障害になる存在があれば最悪の場合排除しようだなんて考えていた。そんなことをしても相手のためにならないのにな。まったくもって酷い奴だよ」
例えば雪音の身近な人物が彼女に恋をしたとして、それを脅しつけて引き離せば彼女は困惑して落ち込むだろう。
そこに付け込んで俺の物にするのは簡単だろうけれど、本当に彼女のことを大切に思うならばそんなことはしてはいけない。
「そんな俺が好きだといっても、本当に幸せに出来るか不安になってきたんだよ。むしろ彼女のためになら大人しく身を引いたほうが……」
「バーカ」
しんみりと話を語り終えたとき、突然雪音にそんな言葉を言い放たれた。
気が付いてみれば、俺のことを非難するような目で睨みつけている。
「えっ」
「アホ、気にしすぎ、マヌケ、日向のくせに、スカポンタン、背も無駄にでかくなったくせにちっさいことで悩んでるんじゃないわよ」
「最後のは関係ないよな」
「うるさい!いいからら黙って雪音様の忠言聞いときなさい!」
何故だか凄くバカにされている上に理不尽だ。
雪音は思い悩むように頭を抱え込んでいたが、やがて顔を上げて鋭い目をしてこちらを睨みつけてきた。
「狡賢いことばかり考えてた酷い奴?そんなの当たり前じゃない。本物の聖人君子だろうが何だろうが、誰だって卑しい考えの一つや二つ考えるわよ」
「いや、でも」
「でもじゃない。第一さぁ、実行に移したところでどうなのって話よ。一時的に相手が落ち込んだりしてもさ、最終的にどうなるかはわからないじゃない。大事の前の小事、過程なんて捨て置きなさい」
「そんな奴が相手を楽しませて、幸せにできる自信が無いんだ」
自信が無い、ならばより彼女を幸せに出来るものが現れるのを待つのが得策ではないか。
なにせ雪音はまだ高校生だ。これから彼女の人生において時間はたっぷりとある。
猪突猛進で何でも押せ押せの彼女は、こんな俺の姿勢を保守的だとか臆病だとか言うかもしれないが、それでも最後により良い結果が出るのなら間違ってはいないのではないか。
「できる」
そんな俺の考えを、一太刀で切り捨ててきた。
「私にはわかる」
真っ直ぐと俺を鋭いの眼光で射抜いて、力強く言い放つ。
自分の言っていることに間違いはないと、絶対の自信を持ったその態度に、俺としたことが一瞬気圧された。
雪音自身も力が入りすぎていることに気付いたか、ふぅと息を吐いて力を抜いて言葉を続ける。
「そもそも相手のことを全く考えてないなら、大人しく身を引くなんて選択肢すら思い浮かばないし迷いもしないっていうの。その時点で私なんかよりよっぽど相手の身を案じてるわよ。……日向さ、もしかして初恋だったりするの?」
「そうだな、こういう気持ちは初めてだと思う」
「無駄に大人びてるてるくせにそういう経験はないわけね。らしくもなく悩んでるわけだわ」
はぁー、と重たい溜息を吐かれた。
らしくもないか。長く振り回されてきた経験と頭脳で大抵の問題には即座に解決法を見出す俺が、こういう風に何かに悩むというのは久しぶりかもしれない。
それに対し、目の前にいる俺の想い人はブレない。
「……お前って、何にでも真っ直ぐで必死だよな」
「必死って、何が」
「だって必死じゃないか? 他人の恋路にそんなに腹を立てて、声を荒げて反論して」
それが雪音のいいところだと思う。最近の人間にはあまり見られないその瞬間、一瞬一瞬を生きようとするその姿勢。時折それが目をくらませたり、周りが見えなくなって突っ走ってしまうのが難点だが。
もし俺もそうだったらなら、何も考えず彼女に想いを伝えられただろうか、なんて思ったりした。
「……他人じゃないわよ」
さっきまで落胆していた雪音が、今度は膨れっ面になっていた。
コロコロ表情が変わるなぁと呑気に構える俺に、可愛く睨みを利かせてきた。
「これが他のヤツだったら適当に流すわよ」
「は……?」
「いや、だからその……ちょっと今回は特別っていうか……」
「よく聞こえないんだが。なんて言っているんだ?」
「あーもう! ニブチンが!!」
どもった声でもごもごと聞こえない声を呟いていた雪音がが、一転していきり立って怒声を上げてきた。
「日向だからここまで躍起になってるって言ってるんでしょうが! 私は別にいつどこで誰が幸せになろうが不幸になろうがどうだっていいけど、あんたの場合は話が別なの! 日向がどうでもいいことで悩んで幸せを逃したりするのが嫌。いつかそのことをふっと思い出して後悔したりするかもって思うと苛々する!」
押さえ込んでいた激情が開放され、一気にまくし立ててくる。
俺は雪崩のように押し寄せるその激情に、ただ圧倒され何も言えなかった。
「まだ幸か不幸かどっちに転ぶかわからなくても、自分から動かないと不幸のままよ。だからとにかくやるだけやりなさいよ。これはもう忠言なんかじゃなくて命令よ。私が嫌だからやりなさい!」
雪音の言葉が止んで、しばしの間はポカンと呆気に取られていた。のだが、段々と腹の底から耐え難い衝動が込み上げてきた。
「プフッ、ククク……アハハハハハハ!!」
「うわ、日向が笑っている。気持ち悪っ」
気持ち悪いとは失礼な。
でもまぁいいか、こんな愉快な気分になったのは久しぶりだ。
「ハハハ、自分が嫌だから悩むなだなんてお前らしいな全く」
「あれ、今のって私のこと笑ってたの?自分の馬鹿さ加減に気付いて笑ったとかじゃなくて?」
「当たり前だろ」
「うがー!」
笑われているのが自分だとようやく気付いた雪音が奇声を上げる。
「自分の気持ちに気付いてくれなくて腹を立てていたのに、いざ言えばまた怒るなんてわがままだよな」
「うるさい! せっかく人が忠言してあげてるのに!」
「忠言じゃないって言ったばかりだろ。言ってることがコロコロ変わって面倒な奴だな」
「うるさーい、面倒で悪いか!」
「でも」
そう言って俺は右手を雪音の頭に置く。ここ数年で頭ひとつ分くらい俺の方が高くなっていたのだといまさらながらに実感する。
そして、頭に置いた右手で雪音の頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
「ひゃっ!? ちょっ、いきなりなにすんのよ!くすぐったい!」
「なんだよ、そんなに慌てて。可愛い奴だな」
「か、かわいっ!?」
「ほらほら、よーしよしよし」
「うわわ、気色悪いからやめなさいよ!」
調子に乗って雪音の頭を撫で回したりしてみたけれど、あえなく振りほどかれてしまった。
「む、気持ち悪いやら気色悪いやら、こんな好青年向かって」
「どこが好青年だ、変態! それで、結局どうするのよ」
「何の話だったっけ?」
「あんたが好きなヤツを諦めるかどうかって話よ!」
これだけ弄っても、なんだかんだで俺の心配をしてくれる雪音マジプリティ。
「少し頑張ってみようか、なんて思えてきたところだな」
「……あっそ。なら良いわ」
俺を見る雪音は腕組をして少し不満げだったが、とりあえずは俺の答えを認めてくれたようだった。
「それでだが、なんなら今からその子にアプローチしてみようかなんて……」
「あっそ、じゃあ精々頑張りなさいよね。私は私で良さそうな男でも探しに行こうかしら。それじゃあね、バイバーイ」
「え、ちょ」
この流れに乗って良い感じの雰囲気に持っていこうと思っていたのに。
帰ろうとする雪音を俺は引きとめようと、ってもういない。はやっ!?
「嵐のように去って行ったな……」
今から追いかけて帰るのを引き止めれば試合続行可能だけど、向こうはもうその気はない以上は続ける意味がないし。
仕方ないから、アプローチの続きはまた今度からすることに決めた。
「……それにしても、俺、意中の相手から応援されたわけなんだよな」
雪音は俺が好きな相手を別の誰かだと思っているようだし、その恋を応援されたと考えると微妙な気持ちにもなった。
というかそれって脈なしなんじゃ……いやいや、諦めるにはまだ早い。
「そうだよ、やると決めた以上はありとあらゆる手を使って彼女を惹きつけてみせる」
雪音の愚直なまでのあの想いに、どこか焚き付けられたみたいだった。今まで以上に雪音をモノにしようと言う想いが胸を焦がさんばかりに燃えているのを感じる。
今はただ、雪音のように真っ直ぐ走り抜けてみよう。その想いを成就させるために、がむしゃらにやってみよう。
たとえあまりに非道な策に、人から見てドン引きされようが。
「まずは雪音の恋愛対象を大人から同年代にシフトさせるか!」
その第一歩として目標を設定し、それを達成する方法を脳がフル回転してはじき出した。
相手は雪音なんだ、やるからには徹底的にやらねばならない。
もはや年上を忌避するほどにまで!
そうときまれば早速作戦を開始しなければ
俺の戦いは今ここから始まるのだ!
「ハァッ、ハッ……!」
日向の家を出た私は、力の限り脚を動かした。
全力で走ったせいで髪が乱れて、汗で髪が額にまとわり付いても構わず走り続けた。
日向の家から十分に離れて、ようやく私は木にもたれて一息吐く。
「ハァハァ……ハァ……」
ゆっくり呼吸を整えながら、周囲に気を配った。
日向が追いかけてきていないことを確認し、万が一にも遭遇することがないことを確かめる。
「フゥー……」
安心した私はもたれかかっていた木に両手を突いて思いっきり頭を振りかぶると
「私のバカーーー!!!!」
あらん限りを振り絞って石頭を振り下ろした。
木の幹がみしみしと音を立てるが、それでも私の叫びを消すことはできない。
あの時、悩んでいる日向に「じゃあ諦めれば?」とでも言っておけば良かったのに、どうしてか余計なチャチャを入れてしまった。
あそこで日向が諦めれば、必ず隙が生じたはず。そうすればその隙に付け込んで、あいつの心を捕らえることが出来たのに。あろうことか自分でチャンスを潰してしまった。
でも仕方ない。仕方ないじゃないの。普段弱みを見せないあいつが、珍しく辛そうな顔をしていて、口では何だかんだ言っていても嫌なんだなとわかってしまったんだから。
気が付いたらアレだ。よりによって日向の恋を後押ししてしまった。
「あー、もうやっばいなぁ。あいつが本気になったらホイホイっと好きなやつ手篭めにしちゃうでしょ」
私よりも頭の良く回るあいつのことだ。その気になればきっと簡単にやりとげる。
そうすれば、日向とその恋人の間には誰にも邪魔できないくらい強固な壁が張られ、二人の愛を邪魔することはできなくなるだろう。
もはや状況は詰みなのではないかとすら思えてきた。というか事実そうである気がする。
しかし、だとしてだ、そんな日向を好きな人物はその恋を諦められるか……?
「……ムリね。絶対無理」
思い出す。日向と初めて会ったあの時を。
小さなころから我儘ばかり言っていた私と遊んでくれる子はいなかった。一人ぼっちでブランコを漕いでいるときに差しのべられた手を、私は今でも鮮明に思い出せる。
「手に入れてやるわよ、どんな手を使ってもね」
小さなころからなにがあってもずっと傍にいてくれた。どんな時でも日向だけは私の見方をしてくれた。
初めは情けない奴だと思っていた。私が我儘を言うといやな顔をしながらも渋々言うことを聞いてくれた。そんな風に引っ張りまわして、我儘を言っているうちにみんなと同じように私を見捨てるんだと思っていた。
でも、そうはならなかった。そのうち我儘よりも会話をすることの方が多くなって、ついには足しげく家に通うような仲になった。
そのころは日向に対する想いを家来として大切に想っているのだと、ペットを大切に想うようなものなのだと思っていた。
でも、今なら分かる。私が日向に感じていたのは恋とか愛そういうものだったんだ。
それを今更諦めきれない。
たとえ日向が別の相手と結ばれていたってやることは変わらない。略奪愛上等。壁が高ければ高いほど燃えるってものよ。
幸い今日話していて分かったことだが、日向も女の子に興味があるのだと判明した。とすれば私にもチャンスがあるはず。
なにか取っ掛かりがないか、今日の会話を思い返した。
「……そういえば、今日の日向ったら変な顔が多かったわね」
私が日向に意中の人がいると見抜いたときと、日向が相手を幸せにできる自信がないと漏らしてそれに私が絶対にできると答えたとき、日向は珍しく間抜け面を披露していた。
「私にはわかるわよ」
初めて会った日以来、私はずっと日向の事を見てきたんだから。
その程度のことくらいわからなくてどうする。
「あんな超優良物件世界中探しても他にないわよ。日向に惚れられたやつが羨ましい」
いつもはそっけない態度を取ったりしていても、その実深い愛情を持って接しているのが日向だ。
あいつはそれが日常化し過ぎて意識できていないけど、行動の端々にそれが滲み出てる。
その愛情を一身に受けるやつは、世界で一番の幸せ者だと思った。
「妬んでも仕方ない。また明日にでも帰りに寄るかな。誰が好きなのかわかれば計画が立てやすいし」
そしてその世界一の幸せ者になるためにも、私は一層頑張ることを胸に誓った。
「日向のアレもこれも、全部私が独り占めしてやるわ」
時間はある。
たとえ何十年かかろうが諦めない。
最後に日向の隣にいるのはこの私だ。
とある夜に二人の人間の決意を固めた
お互いに何をしてでもお互いを手に入れようとし、お互いのことを深く愛している
しかし、お互いのその気持ちに気づき結ばれるかどうかは神のみぞ知る……