第四話 勇者と二人
名前がコンプレックスの勇者の末裔、巳継は困っていた。魔王の末裔でよく絡んでくる実はいい人のファラテラルが、自分のせいで怪我をしたと心配して看病しようと家に押しかけてきたのだ。巳継はどうにか断ろうとするが、そこに幼馴染の天川が現れる。
僕の名前は、勇者巳継。勇者の末裔だ。
別に、僕は過酷な試練を経て勇者になったとか、○ワークさんに勇者になることを強いられているんだ! とか言われたわけじゃない。
信じられないことに、苗字が勇者なのだ。絶望した! こんな僕の苗字に絶望した!
女性に看病されるなんてことは、ギャルゲーじゃなければほとんど母親か、身内の人だろう。
僕はそもそもそんなシュチュウェーションは、存在しない幻だと思っている。
美人の幼馴染だとか、アイドルだとかなんだとか。都合のいい妄想の塊だ。
いやそもそもそんなシュチュウェーション、あってたまるかと思っている。
そんなものがリアルであったら、じゃあどうして僕にはそのイベントがないの? と自分に問う羽目になる。そして、ある結論を導き出す。
僕はモテない。
そう、現実とはそういうものさ。ほとんどの女性は一部のイケメソどもに丸ごと掻っ攫われてしまう。
甘々のこっちが恥ずかしくなるようなイベントだって、それは相手がイケメソだから。
つまり、『ただしイケメンに限る』である。だから、
「いや、やはり怪我をさせたのは私の責任じゃ! ということで、泊りがけで看病することにしたのじゃ!」
と言ってきたファラの言葉を僕は、イマイチ信用できない。
何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。いや、それだけじゃないファラの事だからまた問題を何か起こしそうだ。
ここはなんといって断るか。断り方にもいろいろあるけど、今回こいつは自分のせいで僕がが傷ついたと思っている。つまり、こいつ自身も反省しているわけだ。
だからできる限り、やんわりと断ってやりたい。
それに、怪我って言っても大したものじゃない。指をちょっと火傷した程度だ。
火傷程度に看病っていうのも大げさだ。まずはそれを伝えるか。
僕はファラの方に向き直り、真面目な顔をした。
真っ赤なロングヘアーに、金色の大きな瞳。体は華奢なのに、胸は平均以上。
ファラこと穗村ファラテラルは、美人だ。人によって美人の定義もさまざまだろうが、こいつは多分百人に聞けば百人美人だと答えるTHE 美人。
目の前にいるファラを見て、改めてそう思った。って、こんなことを考えている場合じゃない。
ちゃんと、断らないと。怪我は心配ないから、看病しなくていいと。
「ファラよく聞け、僕は……」
そう言いかけて、思わず詰まった。それは知っている奴を見かけたから。
いや、それだけの理由じゃない。そいつはなにやら、おっそわけの煮物を持っていて、こっちに向かっていて。僕を見つけたやいなや、笑顔を向けながら走ってこっちに向かってきて。渡そうとするも、僕とファラの様子を見て何やら勘違いしたような顔をし、煮物を地面に落とした。
「あ……天川?」
「あぁ……僕、僕……っ!」
そう言って天川は反対方向に走り出した。
天川 彪音。小柄で小動物のような容姿で、栗色の髪のセミロング。毛先で若干カールしている。思わず守りたくなるような容姿だ。
そして男の子いや、男の娘である。なにやら嫌な予感しかしないがどうする? ここは追いかけた方がいいか?
僕が、天川を追いかけようと走り出すと、急に誰かに掴まれた。
そいつはファラだった。何やら思いつめたような顔をしている。
「どこにいくのだ? 私はそのゆ……巳継が言いかけた言葉を最後まで聞きたい」
なんだこの状況は。まるでその状況は、どっかで見たようなギャルゲーみたいな状況だった。
何この三角関係みたいな状況? いやいや、おかしい。
僕の目の前に『天川を追いかける』と『ファラに話の続きをする』と言う選択肢が出た。
なんだこれ? まるでギャルゲーじゃないか! こんな状況おかしいぞ。
どっちかの選択肢を選ぶと、それぞれのルートに分岐するみたいな感じになってる。
てか、選べるわけないだろ。僕と天川そして、ファラはただの友達なんだぞ?
考えるだけ無駄だ。
「何を迷っておるのだ?」
若干、困ったような表情をするファラ。これ以上悩んでもさらに状況を悪化させるだけか。
うーん、『天川を追いかける』か『ファラに話の続きをする』か。
ってなに選ぼうとしているんだ僕は。こんなもの、選べるわけないし選ぼうと思わない。
人生に二択なんて存在しない。つねに選択肢は、一人一人がそれぞれ持っているんだ。
というわけで、僕はその選択をぶち壊す。
「ちょっとこい!」
「うわわっ! 何をするんじゃ! ゆ……巳継よ!」
僕はファラを連れて、天川を追いかけることにした。
しばらくいった所に公園があり、そこに人影が見えた。
徐々に近づいてくると、だんだん姿がはっきり見えてきた。
まるで、僕を待っていたかのように公園の真ん中で立っている天川。
「きて……くれたんだね」
そう言って天川は振り向くが、直後にびっくりした表情をする。
僕は一人じゃなく、ファラと一緒だったからだ。
「ファラさんも……一緒か。でもいいや」
天川は何やら不機嫌そうな顔をしたが、すぐに持ち直して僕を見る。
夕日のせいで顔が赤く見える。夕日のせいで顔が赤く見える。
大事なことなので、二回言いました。
また何やら、ふわふわした奴が出たけど気にせず僕は天川の方に向かう。
「なん……で、はぁはぁ……いきなり飛び出したんだよ」
「ゆ……巳継、はぁはぁ……もうちょっとゆっくり走ってほしいぞ」
僕とファラは息を荒げる。僕の家からこの公園はちょっと遠い。
それなのに、なぜこの公園にいるってわかったかというと。まあ、思い出の公園って奴なんだ。
昔よく、天川とここで遊んだ。
僕とファラは息を荒げているが、天川の方は全然息どころか、汗さえ出ていなかった。
天川は意外と運動神経はよかった。もう僕の代わりに、お前がW○Iスポーツ対決やればよかったんじゃないか? と今更ながらに思った。
天川は僕の方にゆっくり近づいてくると、僕の目の前に立って僕を見つめた。
「あの……巳継君。僕を追いかけてくれたってことはその……」
天川は急にモジモジし始めた。まるで女の様な仕草だが、男の子いや男の娘だ。
とりあえず僕は息を整え、背をただし、服装の乱れを整えて言った。
「続きは僕の家で話そうか」
「もしもし? 母さん?」
「あ、巳継~? ごめんね、今日もまた遅くなりそうなの。だから、夕飯先に食べてて」
またか。
「きゃっ、ちょっ……も~やったわね!」
背後から悍ましい音がする。何かが引きちぎれる音、破裂する音、砕かれる音。
僕の家は勇者の末裔。そして、僕の両親はそれを誇りに思っている根っからの勇者。
僕の両親は二人そろって、勇者協会というところで勇者をやっている。
そして、今日みたいに魔物の討伐を生業としているわけだ。
つまり、リアルモンスターハンター。現代では、魔王も勇者も過去のものになってしまったし、魔物だって今は人間と普通に共存している。
でも中には悪い魔物もいて、そいつは人間じゃ手に負えない。ということで勇者の登場だ。
僕はいつもこの電話がかかってくると、恐怖で体が震える。
背後から聞こえてくる音が、尋常じゃなくグロテスクなんだ。おかげで僕は、勇者というものを信じることができなくなった。
「わかったよ。じゃあ、勝手に夕飯食べてるから」
「こめんね、これが終わったらすぐ帰ってくるから。あっあなた後ろ!」
直後、鋭い音が聞こえる。何かを切り裂いたような音。
「ふぅ、助かったよ母さん」
「もう、あなた不注意よ?」
ちなみに夫婦中は良好。息子の僕が赤面するほどだ。とにかく、このままではアツアツトークを永遠と聞かされそうだったので、勝手に電話を切った。
さてと、僕はお客さん二人にお茶をだし、席に座った。
僕は問題を順番よく解決する方だ。いきなり一気にやってしまうと、絶対失敗する。
だからここは慎重に。まずは、ファラの方から。
「ええっと、ファラ。つまり僕が言いたいのは、僕は全然気にしてないし看病してもらうほどの怪我じゃないと言いたいわけだ。だから、心配しないで家に帰ってほしい」
「しっ、しかしゆ……巳継」
「いいか? たしかにお前は危ないことをした。でも、それは事故だってみんなわかってる。みんなお前の事信用してるんだよ。だからファラもみんなの事、そして僕の事を信じてほしい」
しばらく黙りこんだ後、ファラは了承したという表情をして頷いた。
よし、これでファラの問題は解決。家でお泊り看病という、ギャルゲーみたいな展開を回避した。
次に天川の方だ。天川の方はとくに面倒そうだ。
いきなり走り出したし、なんかモジモジしてるし、煮物落としたし。
でもとりあえず、こう切り出しとけば大丈夫だろう。僕は天川が落とした煮物をテーブルの上に置いた。
「天川、煮物ありがとう。いつもいつも悪いな」
天川とは昔から家が近所で、いわゆる幼馴染という関係だ。幼馴染というと、美人な女の子を連想するだろうが天川は男の子いや、男の娘。
リア充フラグは、存在しないのだ。まあ、最近じゃあBLなんていうのも流行っているらしいが……。
BLなんて、所詮妄想の産物にしか過ぎない。と、いうことで僕と天川にフラグは立たない。
天川は根っからの人見知りで、幼稚園のころから控えめな性格をしていた。
僕と知り合う前は、もっと酷かったらしい。他人の家のドアですら、怯えていた。
もはや人間じゃない。
そんな天川の性格はやさしく大人しい。道に落ちた空き缶を見つけては拾っているような奴だ。
天川はその性格のせいで、女子と付き合ったことは無いが男子に告白されたことがあるらしい。
まあもちろん断ったみたいだけど。このことから考察するに、天川にそっちのけは無い。
そして、昔から家が近所なのもあって煮物などをおっそわけをしてくれる。
なんと、自分でも作っているというのだから驚きだ。きっといい主婦いや、主夫になるだろう。
だか、最近の天川はちょっとおかしい。なんというかそう、何かおかしいのだ。
幼稚園の頃から友達だったせいか天川の、普通の人が分からない様な変化を、僕は感じ取ることができる。
何かおかしい。しかしその何かがわからない。その変化はごく最近になって表れ始めた。
いきなり可笑しな行動をするようになったんだ。例えば、
『話していると急に赤くなったり』とか『僕の事をじっと見ている事がたまにある』とか『急にせつない顔をする』とか。
僕に何か、隠し事があるんじゃないのか? この機にそれを聞き出したほうがいいのかもしれない。
天川はなにやらモジモジしながら顔を伏せている。
「いや、その……僕、ずっと前から巳継君の事が……僕、僕」
顔を伏せながら何やらぶつぶつとつぶやいているが、声が小さくて聞き取れない。
なんだ? いったいなんて言ってるんだ?
僕は天川の方に、顔を近づけて声をよく聞こうとした。
「ぼ……僕、ふぁ、あっぁぁぁぁぁぁぁ!」
急に顔を真っ赤にする天川。急に立ち上がろうとしたせいで、足がもつれて後ろに倒れてしまった。
ファラと僕はびっくりして駆け寄る。
「おっ……おい! 大丈夫か?」
「お主大丈夫か? 顔が真っ赤じゃぞ!?」
天川は顔を真っ赤にして目を回していた。やっぱり変だ。
僕は、天川を起こし僕の寝室まで連れてくる。そしてしばらく寝かせた。
ファラは何か飲み物を買ってくるぞ! と飛び出していった。
本当に魔王っぽくない、魔王の末裔だな。そんなことを思いながら笑っていると、
天川はう~んと言いながら起き上ってきた。こうして見ると本当に女の子にしか見えないな。
「あれ? 僕、なんでこんなところに? ファラさんは?」
「あいつなら、何か飲むものを買ってくるって言って飛び出していったよ。いきなり倒れたから驚いていたぞ?」
「そっか、じゃあ今二人っきり……」
天川はまた真っ赤な顔をすると、僕の方を向いた。
真剣な、青い瞳を僕にまっすぐ向ける天川。その真剣なまなざしに僕は緊張した。
今までこんなに真剣な天川を、見たことがない。人見知りで気の弱いあの天川が、こんなに真剣に僕の目を見ることなんて、想像すらできなかった。
僕は覚悟を決めた。天川が、『僕宇宙人なんだ』とか『二千年後の未来から来たんだ』と言っても信じようと思う。
それほどまでに、天川の目は真剣だった。そして意を決した表情で口を開く。
「僕、僕……実は僕……き……君の事が君の事が……」
天川は、小さな声で何かをつぶやいている。よく聞こえない。
「僕……僕……き、きみのこと……が……す……」
「おい大変じゃぞ!」
ハイパーグッドタイミングで現れたのは穗村ファラテラルだ。
血相変えた表情をしながら、息を荒げている。手にはビニールに入ったペットボトル。
ちゃんと買えたんだな。僕はちょっと安心した。ってそうじゃない、何を慌てているんだ?
「どうしたんだよ、一から説明しろ」
「現れたのじゃ!」
「なにが?」
「悪い魔物が!」
へぇ悪い魔物がか。へ? 魔物?
まものってあれか? あの魔物か? いやいや聞き間違いかもしれない。
「悪い何が現れたって?」
「魔物じゃ!」
ま……魔物。やっぱり魔物だったぁぁぁぁぁぁ! あれだろ? 鉤爪とか騎馬とか持ってて、すっげぇグロイ外見しててそして……。
すごく危ない! 人間には手のおえない生物だ。だから、悪い魔物を退治するときには勇者が必要になる。それほど危険な生物なんだ、魔物は。
「で、その魔物はどこにいる!」
「いや、その実は……」
ファラは申し訳なさそうにこちらを見る。何やら嫌な予感しかしないんだが。
いや、もしかしたら違う可能性も……! 僕は天に祈った。
なにやら遠くから聞いたことのない生物の鳴き声が聞こえる。
「お前……まさか……」
「てへっ!」
「てへじゃねぇぇぇよぉぉぉ! 何僕の家に魔物連れてきてるんだぁぁぁぁぁぁ!」
はぁ……いい予感は外れるくせに、悪い予感は本当によく当たるよな。
こうして僕とファラと天川は、迫りくる恐怖と戦う羽目になった。