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第一話 勇者と魔王

名前がコンプレックスの勇者の末裔、勇者巳継ゆうしゃ みつぐの元に、魔王の末裔ファラテラルが現れる。正直、大迷惑極まりないと思っている巳継は、ファラテラルから距離を置こうとする。しかし、向こうはこっちが勇者の末裔という理由で付きまとってくる。 うざい。そんなこんなしていると放課後になり、勇者部といういかにもな部活が始まった。勇者の末裔という理由で、無理やり入部させられていた巳継は、仕方なく部活に向かうのであった。

 僕の名前は、勇者巳継ゆうしゃ みつぐ。勇者の末裔だ。

 別に、僕は勇者だ! とか、デフォルトで頭文字に勇者がついているとか、そんなわけじゃない。

 信じられないことに、苗字が勇者なのだ。ふざけるな。

 名字が勇者の勇者の末裔なんて、物笑いの種にしかならない。

 イジメの温床だ。けど余りにうざい奴には、エクスペクトパトロォォォォォォナァァァァァァム!

 一応、勇者や魔王やらは、大昔の事になってしまってはいるけど、魔法は存在している。

 それは、当たり前のように歴史の授業で習う一般的なもので、別に禁じられているとかそういうわけじゃない。

 ごく一般的な常識の中に、魔法も便利な道具的な感覚で存在しているわけだ。それってものすごく危険かもしれないけど、実は危険なほど強力な魔法は勇者か、魔王ぐらいしか扱えない。僕には関係ない。

 たとえ、勇者の末裔だからと言って勇者ってわけじゃない。それは、魔王の末裔でも例外じゃない。だから比較的魔法は安全。

 だから、魔法は使っても全然問題ない。つまり、僕の隣にいる魔王の末裔にちょこっと放火しても全然大丈夫なわけで。

「あちゃぁぁぁぁぁぁ貴様っ! 何をすんじゃこの勇者め!」

「こっちみんな。普通に話せ、そして僕を勇者と呼ぶなぁぁぁぁぁぁ!」

 僕は大きくため息をつく。なんで? なんでなの? エリエリマレサバクダニ?

 どうして、僕のとなりに魔王の末裔なんてきやがったわけ?

 周りの視線がクソ痛いわけで。そして、となりの魔王の末裔はすごくノリノリなわけで。

 休み時間になるたびに、『勝負だ! 宿敵の勇者よ!』とか、『世界の半分を貴様に譲ろう、その代り我が下僕になるがいい』とか、はたから見れば中二病丸出しな発言を繰り返しているわけで。

 僕の周りに、ブリザードが吹き荒れている状態なんだ。このままだと死ぬ。

 精神的な意味で。

 普通に黙っていれば、美少女ではある。真っ赤なロングストレートに、キラキラ輝く金の瞳。

 体は普通に華奢なのに、胸の方は平均以上。

 案の定、すぐに男子のアイドルに。女子からも人気だ。

 ちなみに、服はゴスロリ。誰か止めろよ、教師!

 僕にしてみれば、興味が僕じゃなくファラテラル、通称ファラの方に向くのは有難いことだ。

 でも、ファラの方が僕に絡んでくる。余計、僕にも注目が集まる。

 さらに被害は広がるわけで。さっきから僕は、こいつに着火しまくって嫌がらせしているのに。

 全然付きまとうのをやめないわけで。

「だがな勇者よ。私に炎の魔法など効きわせんのだ! 何を隠そう私はあの大魔王イフリートの末裔なのだからな!」

 イフリート。たしか、炎をつかさどる大魔王らしい。歴史の教科書でちらっとしか見ていないので興味ないけど、なんかすごいらしい。

「一言言っておく。自分から弱点をペラペラ喋る奴には、大抵死亡フラグが付きまとう」

「ギャァァァァァァ!」

 僕は顔に水をかけてやった。叫び声をあげてのた打ち回ってやがる。

 その光景はまるで、○キジェットプロをかけられた黒いアイツを彷彿とさせる。

 これで、ようやく懲りるだろう。

「おい、ファラテラル。授業中は静かにしなさい」

 先生が困った顔をしている。

「おぉおのれ……顔がぬれて力が出ない。貴様ァァァ……後で後悔するが良い、この私を怒らせたことをっ! ガクッ」

 ふん。そのまま永遠に寝ていろ。

 しばらくすると寝息が聞こえてきた。どうやらこいつ、本当に寝たらしい。

 馬鹿なのか? 天然なのか?

 しばらくファラは寝続けていたのだが、昼休みの鐘が鳴ると同時に起きた。

 こいつ、やっぱり馬鹿かもしれない。

「ぬぉぉぉぉぉ! 飯じゃ! 飯じゃ! 勇者よ、どちらが先に焼きそばパンを買えるかどうか勝負じゃ!」

「わかった。はーい、よーいどーん!」

 勢いよく走っていくファラ。僕はそれを遠目に見る。

 近年まれに見る馬鹿だな。

 僕は机に戻り、鞄から弁当を取り出す。周りのクラスメイトはファラの方に行っているし、今日は落ち着いて昼飯が食べられそうだ。

 そんなことを考えていると、目の前に人影を感じた。

 控えめな胸。あいつか……。

「勇者巳継! お前の隣に魔王の末裔がいるとはどういう事だ!」

「フルネームで呼ぶな、あっちいけ。周りが変な目で見るだろ」

 この漆黒の髪のツインテール少女は、同じ学年の別のクラスの勇者の末裔。

 輝盟寺こうめいじ 凛廻りんね。まるで中二のような名前だ。

 僕はいつもメイジと呼んでいる。それをいつも怒って訂正するのがちょっと可愛いので、病み付きになる。

 だが、こうして教室に来られるとすごく困る。僕は目立ちたくないんだ。

 こいつは一部の男子にものすごい人気がある。ファンクラブがあるなんて、今時ラブコメでも無い設定だぞ。

 そして、こいつも勇者の末裔。同じ教室に二人も勇者の末裔が並ぶと、死ぬほど目立つ。

 だから極力こいつとは会いたくない。

「教室にはくんなって言ったんだけど」

「そんなことは覚えてない! そんな事よりもどういう事なんだ! 説明しろ!」

「大声出すな。いきなり転校してきたんだよ、い・き・な・り! 僕にもよくわからない」

「勇者巳継! これはチャンスだぞ! 勇者が今まさに団結する時だ!」

 そういえばこいつもノリノリだった。はぁ……、厄介な奴が二人もいるとなんていうか、心臓に負担だ。動悸が激しくなる。

「時に勇者巳継、今日も勇者部に来るのだろう?」

「えっ!? そそそそうだな……今日は用事が」

「放課後呼びに行くからな! 絶対に逃げるなよ?」

 釘を刺された。

 勇者部。名前の通り、勇者の末裔が集まる部活だ。

 僕は強制的に入部させられた。なんで? わからない。

 勇者の末裔という理由だけで、入部させられた。大迷惑だ。

 具体的な活動は、中二談義。聞いているだけでこっちが恥ずかしくなってくる。

 というか、この勇者部に入っている奴は僕以外みんなノリノリなんだ。

 死ぬほど寒い。精神的な意味で。

 エターナルファースブリザードってレベルじゃねぇぞ! 僕はいつも凍え死んでいる。

 だから極力行きたくない。死ぬほど行きたくない。

 勇者部は毎日やっているんだけど、僕は毎日、用事があるからと誤魔化す。

 ありとあらゆる工作妨害行為で、難を逃れている。

 それなのに、最近三連続で呼ばれている。最悪だ、ひどいひどすぎる!

 いや、それだけじゃない。僕の席の隣にうざい魔王の末裔もやってきた。

 僕の高校生活は、早くも崩れ始めている。どうすればいいんだ。

 はぁ……、考えても仕方ない。今日の勇者部をとにかく生き残ろう。それだけ、だただそれだけを考えよう。

 そう思って、僕が弁当箱の蓋を開けようとすると。

「ヌハハハハハハ! 全ての焼きそばパンはこのファラテラルが全て買い占めてやったわ!」

 背後で悍ましい声が聞こえる。はぁ……僕はいない、ここにはいない。

「きっ……貴様、魔王の末裔!」

「むっ!? まさか、貴様も勇者の末裔か!」

 あっ、そういやこいつもいたんだっけ。メイジは口をパクパクさせながら指をさしている。

 厄介だな。僕は果たして、無事に弁当を食べられるのか。

 二人は睨み合った末に、メイジが何か魔法を放った。

 それに合わせてファラは焼きそばパンを投げる。食べ物を粗末にするなよ。

 メイジの放った魔法と、焼きそばパンが当たり火花を散らす。

 おい、火花の要素どっから出た!

 そして二つ同時に弾けた。焼きそばパンが変な放物線を描いて吹っ飛んだ後、廊下を歩いていた男子の口の中にクリーンヒット。ご愁傷様、そいつは仰向けに廊下に倒れた。

 そして、メイジが放った魔法は僕の目の前をかすめる。

 僕の机と弁当が消えた。さっそく僕の嫌な予感が的中した。

「なかなかやるな魔王の末裔」

「そっちこそ、私の焼きそばパンを弾くとはなかなかやるではないか」

 二人とも妙に爽やかな笑顔をしているのが、僕にとってすごく腹立たしい。

 とりあえず、僕はメイジの制服に軽く着火させて、ファラの顔に水をかけた。

「あちゃぁぁぁっちゃちゃちゃ!」

「メガァァァァァァワタシノメガァァァァァァ!」

 どうやら、ファラの目に水が入ったらしい。いい気味だ。

 メイジはこっちを涙目になって睨んでいる。

「勇者巳継! 僕の制服が焦げるだろ!」

 ちなみにメイジは僕っ子だ。

「うっさい、僕の弁当と机を今すぐ弁償しろ。今すぐしないと、慰謝料も請求するぞこの野郎!」

「勇者メェェェェェェ……毎回毎回、顔に一酸化二水素をかけおって……絶対許さぬぞ」

 気が付いたら僕たちの周りに人だかりができていた。

 はぁ……頭が痛くなってきた。僕は馬鹿二人を無視して購買に向かった。

 本当に、どうしてこうなった。

 放課後、チャイムが鳴るのと同時にさっきまで爆睡だったファラが立ち上がる。

「よし! 今日もいい一日だったぞ!」

 お前……仮にも魔王の末裔の癖にそんなセリフいっていいのか?

 僕は一抹の不安を感じながら、鞄にファラからこっそり盗んだ焼きそばパンを入れる。

 まっ馬鹿だから気づかないだろう。

「仮にも勇者とあろうものが窃盗を働いてよいのか?」

 な……に……? 気づかれた。

「わかったわかった。金払えばいいんだろ」

「どこの万引き犯だ! お主は!」

 プンすか怒りながら僕に指をさす。なんかちょっと可愛く見えた。きっと気のせいだ。

 すると急に腕を組み、ニヤリと不敵に笑った。なんだろうすごく怪しい。

「お主、そんなに私の焼きそばパンが欲しいのなら勝負じゃ!」

「悪かった返すよ」

 僕は、ぽいっと焼きそばパンをファラに投げる。

「ななななっ!?」

 驚愕の表情をするファラ。まさか断られるとは思っていなかったんだろう。口をパクパクさせながら僕に向かって指をさす。

 僕はそのまま教室を出ようとすると、肩を掴まれた。

「お主それでも勇者か! 普通決闘を申し込まれたら受けるのが常識じゃろ!」

「僕の常識とお前の常識は違う。僕の常識では、相手が馬鹿なら決闘を断ってもいいってことになっている」

「ななななっ!? 私は馬鹿ではない!」

「じゃあ、ニシンって十回行ってみ?」

「ニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシン」

「子供を産むことは?」

「妊娠!」

「残念、出産だ。ということで、アデュー!」

「ちょっとまてぇー! 卑怯じゃぞお主!」

 僕は、静止してくるファラを振り切り教室を出ようとする。

 本当に馬鹿だなこいつ。僕が盗んだ焼きそばパンが一つだけだと思ったのか?

 僕は懐に入れた焼きそばパンをチラッと確認する。

「計画通り」

 僕は不敵にニヤリとあくどく笑った。我ながら勇者には絶対向いていないと思う。

 僕が扉に手をかけようとして、ふとしたことを思い出した。

『放課後呼びに行くからな! 絶対に逃げるなよ?』

 ………………。はぁぁぁぁぁぁ。

 僕はその場にうずくまった。

「むむむ? どうしたんじゃ勇者? そうか、ようやく私の偉大さに気づき恐れ戦き」

「帰れ」

 勢いよく隣のドアが開く。大抵予想はついた、きっとあいつだ。

 勢いよくドアを開ける奴なんてアイツ以外にいない。

「勇者巳継! 迎えに来たぞ!」

 うっさいぞ……メイジ。となりの馬鹿に聞こえるだろ。

 僕は落ち込みながらいそいそとメイジの方に向かう。

 後ろから、不思議そうに眺めるファラ。絶対くんなよ絶対。

 余計ややこしくなるから。本当にくんなよ、ふりじゃねぇぞ!

 僕はただひたすら念じながら、連行される犯人の様に教室を出た。

『勇者部』すごくカッコいい看板がそこには掛けられていた。

 もともと、伝統ある部活で本物の勇者が入っていたという伝説もある部活だった。

 今や、中二病丸出しの変態どもの巣窟になってしまったけど。

「みんな、つれてきたぞ!」

 そこには、数えるくらいしかいない部員。全然人数に合っていない広さ。

 結構、高そうなものも飾ってあるけど全然雰囲気に合ってない。

 僕はため息をつきながら部室に入る。

「ほう、ここが勇者共の拠点か」

 聞いちゃいけない声が背後から聞こえた。

 なんでだよ。絶対ついてくるとは思ったけど、もうちょっと後からにしてくれよ。

 今日はもう勘弁してくれ。なんてこいつらに説明すればいいんだ。

「きけ! 勇者の末裔どもよ! 私の名前は魔王の末裔ファラテラル! 貴様らを滅ぼす存在よ!」

「きっ貴様! いつの間に!?」

 メイジが驚愕した表情をする。

 僕は心の底からのため息をついた。あぁ、やっぱりこうなるのね。

 この後の展開はお察しの通り、僕はただこの後の展開を予想して嘆くことしかできなかった。

「神妙にお縄につけい!」

「それなんか間違ってるから」


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