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第九話 勇者と武器

激しい戦い、数千年前の勇者と魔物の戦い、そして巳継はピンチに立たされる。勇者が背負わされた罪は、人が測るには重すぎる。

 今から数千年前、勇者と魔王がいた。どちらかがとちらかを滅ぼすまで戦いは続き、結局どちらも滅んでしまった。何かを得るために戦いあっていたのに、結局は失ってしまったんだ。

 ほとんどの生命は失われたけど、力の強い一部の人間や勇者、魔王は生き残った。それが、のちの勇者の末裔や魔王の末裔だ。

 魔物はさらに悲惨。ほとんど知能のない、低級な魔物だけしか生き残れなかった。

 なぜってそれは、力の強い魔物はほとんど勇者に殺されたからだ。

 戦いが終盤になると、もはや勇者に殺すためらいは無かった。だから悲惨なんだ。

 知能の高い魔物は無差別に殺された。それも、理不尽に。

 勇者たちは戦いを終わらせることを急いだ。急ぐあまり結果、たどり着いてはならない結果にたどり着いた。早い話が大量破壊兵器であり、もっと簡単に言うと武器。

『原罪における偉人たちの言葉』そう一括りに呼ばれるものだ。それは、初めて魔法を明確な『武器』として扱った代物。

 僕らの世界の魔法は、『ファイア』『ウォーター』『アース』『エアー』四大元素そして、それらを繋ぐものとして『エーテル』の五つの要素によって成り立っている。

 今ではもっと複雑になったけど、基本的にはこの五つだ。そして、これらはFirst generation Element『ファーストジェネレーションエレメント』と呼ばれた。

 武器として扱うには、もっとも単純かつもっとも強力でもっとも『殺す』ことに適している。

 そして、昔の偉い勇者様はこの魔法に形を持たせた。魔法に形を持たせるという事は、無から有を生み出すことほどに無謀だった。結局、この武器を作るのに何千万の命が犠牲になったか。

 僕が知っているのはここまで。後の内容は教科書に書いてあったけど忘れた。

 そのあと武器はそれぞれ、生き残った最も罪深い一族に預けられる。それこそ過去の『原罪』として。

 その一つ、mens sana in corpore sano『健全な精神は健全な肉体に宿る』をなぜ僕が持っているかというと、それは僕が生き残った最も罪深い一族の一人だらだ。

 まあ、それだけじゃない。こいつのおかげで僕は生きている。いや、生かされている。原罪を背負わされながら。

「君の武器ってちょっと変わってるんだね」

 目の前の白銀色のツーサイドアップの髪型をした、美少女が冷たい笑みでそう呟く。

 僕は自重じみた笑顔を返しながら頭をかいた。

 いや、かけなかった。手に纏わりついた『原罪』が邪魔をする。それは真っ白で、ボクシンググローブの様に僕の両手を覆っているが、それはボクシンググローブより大きく流線型の形をしている。

 簡単に言うと、トンファーの前面に手を覆う盾の様なものがくっついていると言う感じ。

 そして、僕の周りには羽のようなものが六枚浮いている。

 本当は、さっき一つ使ってしまったおかげで今は五つ。それぞれに能力があるけどそれは後で。

 今まさに恐怖を感じている。目の前の美少女から、人とは思えないほどの殺気を感じる。

 実際、人じゃない。吸血鬼だそうだ、美少女の吸血鬼って……どこのエロゲーだよ。

 実は、フラグをいくつか立てている。といっても『過去の話を聞いた』だけだけど。

 意外と淡泊に語ってくれた。彼女によると僕の祖先の勇者は、彼女の一族を滅ぼしたらしい。

 まあ、定番っちゃ定番な動機だ。でもそれだけじゃない。

 彼女は自分の一族を滅ぼした憎い敵の血を飲みたいと言っていた。それがとても興奮するのだそうだ。

 僕にはあるニ文字が浮かんだが思い直した。いや、『ある意味よくあること』だ。

 周りの住宅街は、相も変わらず静かそのもの。空に浮かぶ雲はよく見ると動いていない。

 本当に彼女の言っていた、疑似空間『影の世界』って奴なのか。魔法が存在する世界にいる人間として言っちゃ駄目なんだろうけど、ありえない。

 ぶっちゃけ空間に関する魔法なんて、歴史にもほとんど乗っていない。

 これも、吸血鬼のなせる技なのか。魔物の中でも最強ランクだもんな。

 …………いやいやそれはない。空間に関する魔法なんて、国どころか魔王クラスだ。

 例え彼女に技術があったとしても、それを補う魔力はどっから出ている?

 いろんなことが頭の中を駆け巡っていると彼女、高町アリルがまた突進してきた。

 早い! けど、さすがにもう何回も正拳食らってるんでな。多少は見切れる。

 僕はとっさに体を横にずらした。そして、つっこんでくるアリルに向かって左手を突き出した。

 当たる。そう思った瞬間、彼女の動きが止まる。いきなり動画から静止画に変わったような感じだ。

 驚く間もなくアリルの、白く細い左足が顔面に飛んでくる。

「黒……!?」

 そのまま僕は数十メートル吹き飛んだ。何やら鈍い音がした気がするけど、気にしない。

 今のところ痛みは感じていない。『勇者おすすめ! 飲む鎮痛剤スーパー!』のおかげか。

 すぐさま僕は立ち上がる。と、目の前にアリルが。

「ちょっと早すぎ……」

 今度は回し蹴りだった。意識が吹き飛びそうになるが、寸前でつなぎとめる。

 意識が切れたらお仕舞だ。『健全な精神は健全な肉体に宿る』のおかげで意識を保っている間は、僕の体は死ぬ寸前で保たれる。

 しかし、意識が一瞬でも途切れたらリアル○斗の拳になってしまう。

 つまり、ひでぶ! だ。もうちょっと便利な能力が欲しかったんだけどな。

 民家を二~三件吹っ飛ばしながら僕は吹き飛び地面に叩きつけられる。まずいな。

 僕は顔を上げるともう目の前にアリルがいた。どうやら、彼女は本気らしい。

 アリルは僕の顔に思いっきり正拳をぶちかましてきた。僕は自分の腹に右手を当てた。

「イクスフラっ……! が……はぁぁぁ!」

 衝撃波で僕は吹き飛び、アリルの鉄拳を回避した。僕は数十メートル転がり、起き上る。

「危な……あんたリアル格ゲーキャラか」

「何言ってるの? 君がデリカシーが無いからちょっと怒ってるだけだよ」

 ちょっと? どこがちょっとなんだ。ちょっと怒ったくらいで人を殺すのかお前は。

 アリルは深緑の光のない目を向けながら、突進する。

 加速はさっき一回使ってしまった。次はどうするか……。

 アリルは猛スピードで目の前に来たと思ったら、そのままジャンプし僕を飛び越えた。

 そして、次の瞬間肩に何かが当たる感じがした。それはどうやら足の様だ。

 ガッチリ、僕の首を挟み込んだ足は惨い音を立てながら、僕の首を締め上げる。

 次に起こす行動はきっと、そのまま絞め殺すか。足で首を絞めながら足を引き、地面に叩きつけるか。

 どっちにしても、僕は死ぬ。僕は自分の首を殴りつけた。

「イ……クスフラ……レクタ……!」

 真っ直ぐ衝撃波は、僕の首を貫通し彼女の白く細い足を貫通する。

 骨が折れる鈍い音がした。多分アリルの方だろう、僕の首は折れる寸前で止まっている。

 顔に真っ赤な濃い液滴が付いた。僕は激しく咳き込みながらその場に倒れる。

 アリルもそのまま地面に倒れた。

「ごほっごほげはぁっ……はぁはぁ……」

 アリルの足は見るも無残な状態だったが、すぐさま再生された。さすが吸血鬼。

「君の能力、それってなに? 爆発系では無いよね。衝撃波を飛ばしているってことは風系かな?」

 ご名答。残念ながら僕が一番好きな炎系じゃないんだよね。正確には『エアー』に形を持たせた武器。

 エアーは確か、不屈を司る。逆は怠惰。

 魔法と精神は密接に繋がっている。僕は同じ一族の中でも一番、不屈だったから。『原罪』を背負わされることになった。

 ちなみに、僕が好きな炎系『ファイア』は、勇気を司る、逆は臆病。僕には勇気が足りなかっただろうか。まあ、理由はそれだけじゃないんだけど。

「じゃあね、今度は私の番」

 アリルは何やら円を描く。そして、そこに何やら文字を書いた。今までに見たことのない言語だ。

 円が輝きだし、中心から真っ赤な剣のようなものが出てきた。

「レーヴァテイン」

 アリルはそう言った。レーヴァテインってあれか? 神話に出てくる。

 まさか……『神層兵器』か? 冗談じゃない。

 アリルはレーヴァテインを取ると、一振り。たった一振り。

 それで、自分の視界半分が炎の海に消えた。凄まじい爆音とともに消え去った。

 神を模した兵器。なんで……お前が持ってんだよ。国家規模の兵器だぞ?

 戦車どころじゃない、一個大隊以上の戦力だ。

 レーヴァテインを握っている右腕が余波で燃えている。しかし、アリルは何事もなかったように消した。腕はすぐさま再生。

 絶望を深く味わった。これを食らったら一溜りもない、『健全な精神は健全な肉体に宿る』ですら意味がないんじゃないか?

 まったく、相手が悪すぎる。レーヴァテインのデメリットも意味がない。相手が不死のノスフェラトゥーなんだから。

 だったら、時間稼ぎはしない。相手の隙に漬け込み一気に突破する。

 アリルに勝つことはほぼ不可能。残念ながら、浄化系の魔法は苦手でほとんど出来ないし、吸血鬼を殺せるような武器は持ち合わせていない。

 だったらどうするか? この空間から脱出するだけでいい。

 空間系の魔法は膨大な魔力を食うだけじゃなく、精神にも負担が来る。

 死なないなら、その精神が乱れるまで痛みを与えてやればいい。空間系の魔法は繊細だ、ちょっとの綻びからでもドミノ倒しのように崩れる。

 問題は、あいつの精神が乱れるほどの痛みをどうやって与えるか。

「ふ……」

 僕は諦めにも似たような笑いを浮かべた。命がけだな。

 ユーナスアーラの加速はまだ残ってる、後二回。チャンスは後二回だ。

「ユーナスアーラ!」

 僕は右足を踏ん張り、加速する。瞬間目の前に熱波。辺りが炎に包まれる。

「あれ? 死んだ?」

「残像だバーカ! イクスフラマキシム!」

 両手を彼女の背中に突き立てる。僕の拳を中心に衝撃波が起きる。

 周りの民家の残骸、破片そして、炎が吹き飛ぶ。僕は確かな手ごたえを感じた、アリルの顔が若干歪む。さすがにこの痛みには耐えられなかったみたいだ。

 そして、僕はもう一度踏ん張る。二回目の加速。

「インスピラティオレクタ!」

 アリル顔面目掛けて腕を引き、一気に加速する。そして、直撃する瞬間空間が爆発した。

 目の前が真っ白になる。瓦礫の中を吹き飛び、転がる。

 ボロボロの体で起き上ると、辺り一面何もない。瓦礫、瓦礫、そして、炎、瓦礫。

 世紀末にタイムスリップした感覚を覚えた。しかし、相変わらず空の明るさは変わらず雲は動かない。

 まだ……足りないのか? それとも、僕の予想は外れた?

 死ぬまで空間に取り残されるなんて嫌だ。その心配はすぐに消えた。

 空が赤くなったと思ったら、目の前に何か落ちてきた。衝撃と炎で吹き飛ばされる。

 中心には燃え盛る人影。アリルだ。

「さっきのはなかなか効いたわよ。でも、それじゃあ全然駄目」

 どこのラスボスですか? あんたは。でも……これでいい。

 もう……疲れた。僕の精神はもう、ボロボロ以上にボロボロだった。

 眠りたい。死んでもいいから眠りたい、でも、寝れない。僕の中の不屈が諦めるなと囁く。

 いや、叫ぶ。目の前が殆ど見えなくなりかかっているのにもかかわらず僕は立ち上がる。僕の中の不屈の言う通りに。

 アリルは僕の目の前までゆっくり近づくと、炎を纏った腕で僕の髪を掴み引き上げる。

 か弱そうな女の子に髪の毛引っ張られている僕は、最高にかっこ悪い。

「気分はどう?」

「さい……こうだよっ!?」

 腹が熱い、血が出る寸前で止まる。腹の中が燃え盛っている様だ。

「どう? レーヴァンテインをお腹に突っ込まれた感想は?」

「おま……え……最悪の……Sだな」

 意識が飛びそうになる。ところどころ記憶があいまいだ。今何回腹を刺された? かき回された? 引き裂かれた?

「それじゃあ、一気に焼却処分! 意識が飛んで死ぬまで燃え盛っちゃえ」

 レーヴァンテインが青く輝く。僕は腹に刺さったままのレーヴァテインに両手をつける。

「残念……焼かれるのはお前の方だ。デュオアーラ 反射……しろぉ!」

 残った五つの羽の内、一つが変形し僕の両手に輪っか状にはまる。そして、高速で回転する。

 直後僕の体に炎が放たれる。炎は僕の体を腹を伝って焼き尽くす。

「がぁぁぁぁぁぁ!」

 しかし、炎はそのまま全身にに行きつく前に、僕の両手に吸収される。そして、吹き飛ぶ。

「えっ? 何それ」

 凄まじい爆発音と爆風と衝撃波。僕の意識はまだ健在だった。アリルは全身燃え盛りながら何かを叫んでいる。

「なにそれぇぇぇ!? なに!? なにしたのぉぉぉぉぉぉ!?」

 今までに見たことない表情で苦しんでいる。僕はよろよろ立ち上がる。

「デュオアーラの……反射は……ダメージを……身体だけじゃなく……精神にも……及ぶんだ。ざっ……まーみろ」

 アリルは鬼のような表情でこちらを睨み叫ぶ。そして襲い掛かる。

「勇者巳継ぅぅぅぅぅぅ!」

 僕の胸ぐらを思いっきり掴むアリル。残念、安い挑発にかかってくれたな。

 この位置からは外さないぜ。絶対外さない。残念ながら、僕はお前のために死んでやることはできない。絶対にできない。

 お前のために使える命なんて……これっぽっちもねぇんだよ。僕の先祖がお前の一族を滅ぼしたのは確かに罪だ。変えようのない『原罪』だ。

 だから、背負う。背負わされたからには、最後まで背負わなきゃなんねぇ。だから……。

「僕はお前の分まで罪を背負う」

「なに言ってるの? わかんない……わかんないわよぉぉぉ!」

「トレスアーラ……装備」

 僕は右腕を引く。三つ目の羽が輪っか状に変化し、腕に絡みつく。

「一撃必殺の……インテレクシオインクタムァァァァァァ!」

 今まで受けたダメージ分を、エネルギーとして、衝撃波として、威力として……打ち出す!

 辺りが吹き飛ぶと同時に、空間の中心からひび割れていく。

 気が付くと僕は道のど真ん中で倒れていた。横には真っ裸の美少女……。

 はぁ……。どうしたものか。

 そのあとの展開はお察しください。えっ? いかがわしいって?

 まさか、ありえないね。僕を殺そうとした殺人鬼だよ? ありえない。

 次の日、真っ裸の死体を運ぶ落ち武者の幽霊を見たという都市伝説が流れた。

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