プロローグ
勇者といえば聞こえはいいが、そんなものは、時代遅れの時代劇以下の存在。
そんな風に、劣化するくらい未来の話。勇者なんてものは、おとぎ話、昔話になってしまった。
まあそんなこと、正直僕にとってはどうでもいい。
肝心なのは、僕がその勇者の末裔ってことだ。勇者の末裔なんて、すごく聞こえはいいだろう。
現実は違う。もっぱら弄られる、馬鹿にされる。正直僕の性格からいって、勇者に向いていない。
別に、悪人を擁護するわけじゃないけど。だからって、正義の味方を認めるわけでもない。
複雑な心境なんだ。どっち付かずの自分が嫌になることもある。
けど、今はこれでいい。
とにかく大事なことは、僕が勇者の末裔という理由でいじられることであって、正義がどうのこうのと言う議論をしたいわけじゃない。
そう、僕はこの神盟高校に入学して被害にあっている。入学して初日、いきなり僕が勇者の末裔という事がばれる。
理由は、僕以外にも勇者の末裔がいたってことだ。そいつらのせいで、僕は大迷惑をこうむることになった。本当に最悪。
勇者の末裔とばれるといろいろ聞かれるし、『魔法つかってみてよ!』とか、『魔王倒してみろよ!』とか、『勇者の末裔なんだから当然強いよな?』とか無茶ぶりばっかり。
いくらなんでも勇者だったのはもう何千年も前のご先祖様なわけで、お前らが思っているほど僕は勇者じゃないんだよ! と声高々に言いたい。
それに、正直言って僕は勇者とか魔王とか……あんまり興味がない。だから、僕の願いはただ一つ。普通の人間として扱ってほしい。
僕は、勇者じゃない。もう一度言う、僕は勇者じゃない! ただの勇者の末裔なんだ。だから、頼むからほっといてくれ。
「ふふふ、会いたかったぞ勇者よ! この魔王ファラテラルが貴様を焼き払ってやるぞ!」
こっちみんな。頼むからこっちみんな。
僕はいない、ここにいない。僕は空気とにかく空気。透明になるんだ、僕は透明!
心頭滅却すれば、気配を極限まですり減らせる。そうだ、間違いない。
「えぇ、転校生の穗村ファラテラルさんだ。まあ、紹介に預かった通り、彼女は魔王の末裔だから。あんまり質問攻めするんじゃないぞ、ここにきてまだ日は浅いらしいからみんな慎重に」
「どこ出身なんですか!?」
「彼氏いる?」
「どんな魔王の末裔なんですか?」
「ロングヘアー可愛い! 超ツヤツヤじゃん!」
「ファラちゃん可愛い! すごい美人」
すごい人気だな。まっ、魔王の末裔なんて珍しいっちゃ珍しいからな。勇者とどっちが珍しいつったらまあ、魔王の末裔の方が珍しいよな。
だから普通は好機の目が向こうに行って、すんごく嬉しいはずなんだけどな。だからこっちみんな、こっちみんなって! 僕はお前とは何の関係もないんだよ!
「落ち着けい皆の者よ。我が様があるのは、そっちの勇者の末裔なのだ」
真っ赤なロングヘアーの馬鹿は、ビシッっと恰好をつけてこっちを指さす。なんで僕が勇者の末裔なんてばれたんだ? プライバシーの侵害だぞ。
頼むからどっか行ってくれ!
「まあ、なんか仲よさそうだから席は勇者巳継の隣に。みんな席をずらしてくれ」
僕の名前、勇者巳継。そりゃばれる。
ふざけるな! なんで名字が勇者なんだよ! 名字が勇者の勇者の末裔なんて、山田太郎よりも笑えねぇんだよ!
ちくしょう、なんで僕は勇者の末裔なんかに生まれてしまったんだ。せめて名字だけは、まともにしてほしかった。
僕のコンプレックス。それは、僕が勇者の末裔であることと、この名前。自己紹介の時が人生で最も辛い時だ。
必ず笑いを堪えようとして吹き出す奴がいる。それに釣られて連鎖反応のようにみんなが笑いだす。
それを止めようとしている先生も、笑っている。この時僕がどれほど羞恥に晒されている事か。
そして今回、最悪の事態。本物の魔王の末裔。
意味がわからない。こんな展開、ドラマの中だけにしてほしいよ。
この物語は、自分のコンプレックスと魔王と勇者とゆかいな仲間たちとのゆかいな物語である。
どうも初めまして、ぽけると申します。
この作品を読んで少しでも、面白いと思ってくだされば幸いです!
とにかく感想を、貪欲に感想を。
嘘です、すいません。何も気にせず気軽に読んででくだされば幸いです。