エピローグ 夢の世界からの目覚めと崩壊
一人だけの空間。
何もない部屋。
全てを失った僕は、ただ“空”になっていた。
――その時だった。
部屋が、唐突に光に包まれる。
「お待たせ致しました。この世界に絶望した貴方様に、素敵なプレゼントをご用意させて頂きました。」
軽い声。
僕はゆっくりと顔を上げる。
目の前には――光に包まれた男が立っていた。
「貴方には選択肢があります。このままこの世界で生き続けるか。それとも――別の世界へ転生し、力を得て、魔王を倒すか。」
沈黙。
「……どうしました?私としては転生をおすすめしますよ。自分を変えるチャンスですからねぇ。こんな退屈な世界、未練もないでしょう?」
――思わず、笑ってしまった。
「なら……壊すよ。」
「……は?」
「この世界も、お前らも。」
一瞬、空気が止まる。
「……何を言っている?」
男の声に、わずかな揺れが混じった。
「やっとだよ。」
僕はゆっくりと立ち上がる。
「どれだけ待ったと思ってるんだ。絶望したフリして、何年も――ずっと、この時を。」
「……貴様……何者だ」
「気づいてないのか?」
一歩、踏み出す。
「この世界も、お前らの“前提”も、あれ全部嘘だろ。」
「ッ――!!?」
「制限してるんだろ。使える能力を。」
男の空気が変わる。
「……なぜ、それを知っている」
「簡単だよ。」
僕は笑う。
「お前らが自分たちの娯楽のために遊んだからだろ。」
沈黙。
「……答えろ。貴様は誰だ」
その声は、さっきまでとは違っていた。
余裕は消えている。
「忘れたのか?魔王の力を持つディアセントを。」
僕は、男の目をまっすぐ見た。
「随分と見下してくれたよな。」
男は何かに気づいた。
口から自然とその名が出ていた。
「まさか貴様は...ッ!!!アレン・レヴィオス!!? 」
空気が、凍りつく。
「久しぶりだね。」
「ありえん……ッ!!何故記憶を持っている!?どうやってここに――」
「ローダルス。」
その一言で、男は息を呑んだ。
「……まさか……あの失敗作が……ッ!!! 」
「失敗作、ね。」
僕は肩をすくめる。
「おかげで全部思い出せたよ。」
――あの日のことも。
全ての絶望はコイツらの娯楽のせいで引き起こったことを。
「さて。」
一歩、距離を詰める。
「始めようか。」
「ま、待て――」
その言葉は最後まで続かなかった。
僕は男の喉を掴む。
「なっ……!?や、やめろ!!! ......我々は“神”だぞ!!! 人間風情がッ!!!! ――」
「ふっ...。やめろって?やめるわけがないだろッ!!! 」
僕は力を込める。
「ずっと、この瞬間のために生きてきたんだから。」
男の身体が、崩れ始める。
「クソ...がッ!!! 」
光が砕け、体が徐々に塵となっていく。
「……やめろ……ッ」
「無理だね。」
静かに告げる。
「あの日の絶望も――全部、お前らの遊びだった。
全部……お前らが僕らを笑いながら作ったんだろ。
今度は、お前らが作った力でお前らが殺されるんだ。
...飛んだ皮肉だよな。」
――光が消える。
完全に。
静寂だけが残った。
「……待たせたな。」
ぽつりと呟く。
「今、迎えに行く。」
僕は目の前に手を伸ばす。
【崩れろ】
――命令は、拒絶されることなく世界に刻まれた。
空間に、微かな歪みが走る。
ピシッ、と音が鳴る。
“世界そのもの”に、ひびが入る。
「まずは……みんなに、謝らないとな。」
小さく、息を吐く。
⸻
壊れた世界の、その先。
――そこに、彼女はいた。
「お待たせ。」
ゆっくりと、歩み寄る。
「マリカ。」
「……え?」
彼女は目を瞬かせる。
「誰……?それに、私は――」
言葉が止まる。
「……あぁ。」
僕は小さく息を吐いた。
「そうだったね。」
一歩、距離を詰める。
「今の君は、“アイネ”だった。」
「……なんで、私の名前を……」
彼女の表情が、強張る。
気づいたのだろう。
距離が、近すぎることに。
「いつの間に……目の前に……」
後ずさる。
足が、逃げ場を探している。
「アイネ。」
僕は静かに告げる。
「復讐を、手伝ってほしい。」
「……は?」
理解が追いついていない。
「何言ってるの……」
一歩、さらに下がる。
「貴方、何なの……」
声が震える。
恐怖に変わっていくのが、はっきり分かる。
――それでも。
「大丈夫。」
僕は、優しく笑った。
「ちゃんと、思い出させるから。」
「……やめて。」
「僕の過去を見せる。」
手を、ゆっくりと持ち上げる。
少しだけ、間を置いて。
「マリカ。」
「――ッ」
彼女の瞳が揺れる。
「……貴方は……本当に……何なの……」
その問いに、僕は――
「アレンだよ。」
短く答える。
「アレン...。」
そして。
――指を鳴らした。
次の瞬間。
世界が、組み替わる。
音も、光も、景色も。
全てが再構築されていく。
逃げ場は、もうない。
「行こう。」
彼女の手を取る。
「――あの絶望の過去へ。」
━━━
これは――
全てを奪われた僕が、
全てを取り戻すために、
神を殺しに行く物語。




