第八話 葛藤と決意
ストックがどんどんなくなってきましたね...
「ソロデビューの件、返事は決まったかしら?」
生徒会室。神代聖が冷徹なトーンで問いかける。
彼女の手元には、国内最大手レーベル『フェニックス・レコード』との契約書。
その横では、めいがSNSへ投稿する「重大発表」のカウントダウン画像を確認していた。
「……ソロになれば、今のバンドメンバーは全員切り捨てだ。そういうことだろ」
「ビジネスよ、天音くん。貴方の今の歌唱力は、周りの凡庸な演奏を殺している。一人で頂点に立つべきなのよ」
聖の言葉は正しい。だが、俺の胸には鉛のような重さが居座っていた。
「お前の歌には華がない」と俺を捨てた恭介たちと同じ道を、俺は今、選ぼうとしている。
その時、ポケットのスマホが震えた。
非通知の着信。俺は聖たちの制止を振り切り、廊下へ出た。
「……もしもし」
『……よう、天音。いや、お前に訊きたいことがある』
電話の主は、恭介だった。声は低く、激しく震えている。
『……九重氷斗を覚えてるか? 俺たちの高校の同級生で、一ヶ月前に事故で死んだ、あの暗い音楽オタクだ』
「…………」
『あいつの四十九日も終わってないのに、お前はあいつがずっと隠し持ってたメロディを歌った。昨日、あいつの親から遺品のデモテープを聴かせてもらったんだよ……。天音、お前、死人から曲を盗んだのか!?』
恭介の叫びが、鼓膜を突き刺す。
皮肉なものだ。生前、俺をゴミのように捨てた奴が、皮肉にも俺の死後、俺の「遺作」を必死に守ろうとしている。
「……盗んでなんていない。あれは、俺の歌だ」
『嘘をつけ! あんな血を吐くようなメロディ、お前みたいな恵まれた奴から生まれるはずがない!』
電話が切れる。
俺は壁に背を預け、崩れ落ちた。
俺が俺であることを証明すればするほど、俺は「九重氷斗の死」を冒涜する悪魔になっていく。
「……天音くん?」
振り返ると、陽葵が立っていた。
不安げに揺れる瞳。彼女の手には、白いガーベラの一輪挿しが握られていた。
「どうしたの、その花」
「……一ヶ月前の今日、九重くんが亡くなったから。……私、一度も彼と話せなかった。でも、彼の歌う姿を遠くから見てた時、すごく……一生懸命で。だから、お花だけでもって」
陽葵だけは、一ヶ月前のあの悲劇を、九重氷斗という存在を忘れていなかった。
俺は衝動的に、彼女を抱きしめた。
天音蓮の完璧な身体が、陽葵の温もりに触れて、本当の自分の居場所を見つけたように震える。
「陽葵。……もし俺が、お前が知っている天音蓮じゃなかったら。それでも、俺の歌を聴いてくれるか?」
「……え?」
「俺は、ソロでデビューする。……でも、それは『天音蓮』としてじゃない。一ヶ月前に死んだアイツの、届かなかった叫びを世界に叩きつけるためだ」
俺の瞳に、昏い炎が宿る。
聖とめいが用意した「完璧なスター」の台本を、俺は心の内で破り捨てた。
翌週。ソロデビュー発表の記者会見場。
詰めかけた数百人の報道陣の前で、聖が満足げに微笑む。
「さあ、天音くん。用意したコメントを」
俺はマイクを手に取り、集まったカメラのレンズを真っ直ぐに見据えた。
「今回のソロデビューにあたって、一つだけ条件がある。……俺の1stシングルのタイトルは、『レクイエム・フォー・H』だ。これは、一ヶ月前に死んだある男に捧げる曲だ」
会場が騒然となる。
聖の顔から血の気が引き、めいの撮影するスマホが止まった。
自分の葬送曲を、世界一の歌声で歌い上げる。
それが、死んだ俺にできる唯一の、そして最大の反逆だった。
いかがでしたか?
本日の曲は「天国」
「もしも僕だけの世界ならばそう誰かを恨むことなんて知らなくて済んだのにどうしてもどうしてもあなたのことが許せない」
だれかを憎む気持ちありますよね...
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