第五話 新曲
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「……はぁ」
登校早々、下駄箱の前で俺は深いため息をついた。
目の前には、腕を組んで仁王立ちする生徒会長の聖と、俺の袖を掴んで離さない後輩のめい。そして、背後からは松本先生が「あわわ」と書類を散らしながら近づいてくる。
「天音くん、昨日の件、まだ納得していないわ。生徒会室へ来なさい」
「先輩! 私のランチの誘いを無視して、会長と密室なんて許しません!」
24歳の精神年齢を持ってしても、この若さゆえの熱量には圧倒される。
だが、今の俺には彼女たちの相手以上にやらなければならないことがあった。
「……ごめん。今日の昼休みは、音楽準備室を借りるよ。新しい曲のイメージが湧いたんだ」
俺が少しだけ声を低くして、天音蓮の持つ「切実な色気」を混ぜて告げると、三人は毒気を抜かれたように静まり返った。
「音楽」という言葉を出されると、誰もが期待を抱いてしまう。それが今の天音蓮という男の引力だ。
昼休みの音楽準備室。
俺は一人、使い古されたアップライトピアノの前に座った。
(……華がない、か。笑わせるな)
脳裏に浮かぶのは、前世で俺を捨てたバンドメンバーの冷たい顔。
そして、月明かりの下で震えていた陽葵の、あの儚い美しさ。
俺は鍵盤に指を置いた。
前世で24年かけて磨き、誰にも届かなかった感性。そこに、今の天音蓮の「神の喉」を掛け合わせる。
ポーン、と一音。
空気が震える。
旋律が、洪水のように溢れ出してきた。
「……っ」
歌い出した瞬間、自分でも鳥肌が立った。
圧倒的な声量、絹のような質感のハイトーン。
前世の俺が血を吐く思いで目指した場所に、今の俺は、息をするように立っている。
曲のタイトルは『月光のレジスタンス』。
高嶺の花に恋をした、弱くて情けない男の、けれど何よりも純粋な叫び。
ふと気付くと、音楽室の扉がわずかに開いていた。
そこには、弁当箱を抱えためいと、厳しい表情を崩した聖、そして涙を浮かべた松本先生が立ち尽くしていた。
「……なに、今の歌」
聖が呆然と呟く。
「先輩……。私、あんなに切ない声、聴いたことない……」
めいの瞳からは、いつもの計算高い輝きが消え、純粋な敬愛だけが宿っていた。
スペックや顔じゃない。
俺の「中身」が、彼女たちの魂を直接揺さぶった瞬間だった。
放課後。
ライブハウス『シェルター』。
そこには、天音蓮の現在のバンドメンバーたちが集まっていた。
「……遅いぞ、蓮。また学校のファンに捕まってたのか?」
不機嫌そうにギターを鳴らすのは、リーダーの健斗。
彼は今の俺の才能を認めてはいるが、同時に激しい嫉妬を隠しきれずにいる。
「悪い。いい曲が書けたんだ。……聴いてくれ」
俺がデモテープを渡そうとした、その時。
ライブハウスの入り口から、見覚えのある男たちが数人、肩をそびやかして入ってきた。
「よう、天音蓮。……いや、九重氷斗か?」
心臓が跳ねた。
そこにいたのは、前世の俺を「華がない」と言って捨てた、かつてのバンドメンバーたちだった。
この世界では、彼らもまた17歳の、デビューを夢見る血気盛んな若者として存在していた。
「……お前ら」
「最近、この辺で調子いい奴がいるって聞いてな。面貸せよ、天才くん」
過去の因縁と、現在の才能。
そして、自分を捨てた者たちとの再会。
天音蓮の皮を被った俺の、本当の「復讐」と「証明」が、ここから始まる。
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