第二話 二度目の出会い
第二話です!ブックマークが全然つかなくて悲しいですね...
「……え、あの? 私になにか御用ですか?」
ライブハウス前の交差点。自転車のハンドルを握りしめ、陽葵が困惑した声を出す。
無理もない。さっきまでステージでギターを抱えて歌っていた「天音蓮」が、息を切らして自分一人に駆け寄ってきたのだから。
(……本物だ。高校の頃の陽葵だ)
24歳の俺が死ぬ間際まで後悔していたのは、同じ高校だった当時、一度も彼女に話しかけられなかったことだ。
地味で目立たない音楽オタクだった俺にとって、学園一の超美人である彼女は、あまりに眩しすぎた。
「……初めまして。じゃないな、ええと」
あまりの緊張に、天音蓮の完璧な喉が震える。
前世の俺なら、おどおどして目を逸らしていただろう。でも今の俺は、数人を黙らせるオーラを放つ美少年だ。
「蓮! 何やってんの、早く機材片付けて!」
仲間のバンドメンバーが呼んでいる。ファンの女の子たちも「あの美少女、誰?」と遠巻きにこちらを伺い始めた。
俺は咄嗟に、ポケットに入っていたライブの告知用ステッカーを陽葵の手に押し付けた。その裏には、今の俺の、誰にも教えていない連絡先を走り書きしてある。
「それ……後で見てくれ。俺、お前のこと、ずっと……」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。今の俺は、彼女にとっては「今日初めて見た、少し歌のうまい同級生」でしかない。
俺は強引に背を向け、ライブハウスへと戻った。バックミラーのない視界の中で、呆然と立ち尽くす陽葵の姿が遠ざかっていく。
翌日。天音蓮が通う名門私立・誠稜高校。
普段は音楽活動に明け暮れ、クラスでも浮いた存在の俺が教室のドアを開けると、わずかなざわめきが起きた。
「あ、天音くんだ。昨日もライブだったのかな」
「最近、動画サイトでバズってるよね。かっこいいけど、ちょっと怖そう……」
周囲の視線は、憧れよりも「好奇の目」に近い。まだスターではない、多感な時期の距離感だ。
俺は自分の席に座り、昨日から鳴らないスマホを眺めていた。
すると、一人の下級生が教室の入り口で、上級生たちに囲まれているのが見えた。
1年生の一ノ瀬めいだ。派手な見た目で目立つ彼女は、生意気だと目をつけられ、先輩女子たちに絡まれているようだった。
「ちょっと、あんた。さっきから色目使ってんじゃないわよ」
「……別に、そんなんじゃないです」
普段は強気なはずのめいも、集団相手では肩をすくめている。
前世の俺なら、関わらないように目を逸らしていただろう。だが、24歳まで理不尽なバンド社会で揉まれてきた今の俺には、放っておく選択肢はなかった。
俺は席を立ち、女子たちの輪の前に立った。
「……そこまでにしておけよ。彼女、困ってるだろ」
「天音くん……。関係ないでしょ」
「俺に用があるなら、彼女じゃなくて俺に直接言ってくれ。……いいだろ?」
冷たいようでいて、包み込むような落ち着いた声。24歳の経験に裏打ちされた「大人の制止」に、女子たちは毒気を抜かれたように去っていった。
「……大丈夫か?」
俺がそっと声をかけると、めいは呆然と俺を見上げた。
彼女にとって、天音蓮は「顔はいいけど近寄りがたい先輩」でしかなかったはずだ。だが、初めて触れた彼の「打算のない優しさ」に、彼女の胸が大きく跳ねた。
「……あ。ありがとうございます、先輩……」
頬を染め、俯くめい。小悪魔な彼女の恋心が、本気に変わった瞬間だった。
その後、俺は「校内での騒動」を理由に生徒会室へ呼び出された。
待っていたのは、眼鏡をかけた完璧主義の生徒会長、神代聖。
「天音くん。貴方の行動は称賛されるべきですが、校内の秩序を乱す要因にもなり得ます。……少し、お説教が必要なようね」
厳格な態度の彼女だったが、その手元はわずかに震えていた。連日の会議と受験勉強で疲れ切っているのが、24歳の俺の目には一目瞭然だった。
俺は黙って、生徒会室の隅にあったケトルで茶を淹れた。
「……何をしてるの? 私は説教をすると言ったのよ」
「まぁ、飲みなよ。会長、顔色が悪い。……頑張りすぎるのもほどほどにしないと、体壊すぞ」
湯気の立つカップを差し出し、俺は彼女の向かいの席に腰掛けた。
「生徒会長」という重責を一人で背負う18歳の少女に、24歳の包容力で語りかける。
「……っ。な、なによ、貴方に何がわかるの……」
強気な言葉とは裏腹に、彼女の瞳からは涙がこぼれ落ちた。
誰にも見せなかった「弱さ」を、この瞬間に初めて、天音蓮という男に預けてしまった。
「……後で、ゆっくり話聞くから。今はこれ、飲めよ」
優しく微笑む俺を見て、聖の表情が綻ぶ。
学校中の憧れの的である彼女たちが、次々と俺の「中身」に惹かれ始めていた。
だが、俺のスマホが震えたのは、その日の放課後だった。
『陽葵:今日の夜、少しだけ会えますか?』
心臓が、天音蓮の最強の肺を突き破らんばかりに跳ねた。
修羅場の予感。それでも俺は、彼女に会うためだけに駆け出した。
いかがでしたか?
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余談ですが、筆者ミセスのライブが当たりました!来月国立競技場に行ってきます!
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