第十二話 危機
なんでこんなことん...
ソロライブ当日。会場となる有明アリーナは、デビューしたばかりの新人とは思えない熱気に包まれていた。
バックステージで、俺は鏡の中の「天音蓮」を見つめる。
今日、このステージの最前列には陽葵がいるはずだ。聖たちの妨害を跳ね除け、彼女を招待した。そこで、世界中に宣言する。俺の歌は、彼女のためにあると。
「レン、時間よ。……顔色が悪いわね。緊張?」
冴子が心配そうに声をかける。
「……いや、大丈夫だ」
胸騒ぎが止まらない。
聖とめいが、あまりに静かすぎる。あの執着心の強い彼女たちが、俺の独断を黙って見過ごすはずがないのだ。
ライブが始まった。
暗転した会場に、1万人の地鳴りのような歓声が響く。
1曲目、2曲目と、天音蓮の最強のスペックを解放し、観客を熱狂の渦に叩き込む。
だが、中盤のMC。俺は、最前列の「関係者席」に目をやった。
そこには——聖と、勝ち誇ったように微笑むめいしかいなかった。
陽葵の席は、ぽっかりと穴が開いたように空いている。
(陽葵……!?)
動揺を押し隠し、バラードのセクションに入る。
俺はマイクを握りしめ、予定していた告白の言葉を口にしようとした。その時だった。
会場の巨大スクリーンに、予定外の映像が映し出された。
暗い路地裏。誰かの隠し撮り映像だ。
そこに映っていたのは、泣きながら誰かに詰め寄られている陽葵の姿だった。
そして彼女を取り囲んでいるのは、恭介と、その仲間たち。
「……なっ……」
歌が止まる。会場がざわめきに包まれる。
スピーカーから、恭介の歪んだ声が流れ出した。
『……おい、陽葵ちゃん。教えてくれよ。天音蓮が、どうして死んだ九重の曲を知ってるのか。あいつ、死んだ九重の部屋に忍び込んでたって証言があるんだぜ?』
『……違います、天音くんはそんなこと……!』
『じゃあ何だ? 幽霊か? お前、あいつに騙されてんだよ。あいつは九重の才能を食い物にしてるだけの、人殺しの化け物だ!』
映像の中の陽葵が、恭介に突き飛ばされて地面に倒れ込む。
その瞬間、俺の頭の中で何かがブチ切れた。
「……っ、ふざけるな」
俺はマイクをスタンドから引き抜き、観客席ではなく、舞台袖で冷ややかに見守る聖に向かって吠えた。
「神代聖! これもお前の仕業か!? 恭介を陽葵にぶつけたのは、お前なんだろ!」
聖は眼鏡を指で上げ、冷徹に言い放った。
「……貴方が公私混同をするからよ、天音くん。彼女を消去すれば、貴方は音楽に専念できる。……さあ、ライブを続けなさい。このスキャンダルも、演出の一部にしてあげるから」
「……死ねよ」
俺はギターを手に取り、予定されていたセットリストを完全に無視して、コードを掻き鳴らした。
前世、九重氷斗が死ぬ直前に、裏切ったメンバーに向けて書き殴り、結局披露することのなかった呪いの曲。
タイトルは**『デス・バイ・ジェラシー(嫉妬による死)』**。
「♪ 華が欲しいか 泥を舐めろ 俺の魂を 奪えると思うな」
天音蓮の喉から放たれたのは、これまでの「美しさ」をかなぐり捨てた、血を吐くようなデスボイスと絶叫。
観客は恐怖に凍りつき、聖は初めて、自分が「怪物」の鎖を解いてしまったことに気づき、顔を蒼白にさせた。
ライブの途中。俺はステージを降りた。
スタッフの制止を突き飛ばし、陽葵が囚われている場所へと駆け出す。
「レン先輩、どこへ行くんですか!? 戻ってください!」
めいが泣きながら追いかけてくるが、俺は振り返らない。
17歳の身体が、24歳の怒りに燃え上がる。
恭介。聖。そして俺を笑ったこの世界。
今度こそ、すべてを音楽で、あるいは暴力で、完結させてやる。
評価してよおおおおお




