第十一話 衝撃
きゅうてんかいがつづきます!
『レクイエム・フォー・H』の衝撃は、音楽業界の地図を塗り替えた。
発売初週で新人歴代1位の売上を記録し、街の至る所で天音蓮の歌声が響いている。
だが、光が強まれば影も濃くなる。俺の「唯一の安らぎ」を奪おうとする魔の手は、身近な場所から伸びてきた。
「……ねえ、天音くん。これ、読んでくれる?」
昼休み。屋上に呼び出された俺に、陽葵が震える手で一通の書類を差し出した。
それは、彼女の父親の急な転勤に伴う**「他県への転校届」**だった。
「……急すぎるだろ。まだあと1年以上あるのに」
「お父さんの会社に、有力な出資者から強い要望があったみたいで……。逆らえないって、お父さん困ってた」
俺の脳裏に、眼鏡を光らせて不敵に微笑む聖の顔が浮かんだ。
昨日の生配信での、俺と陽葵の抱擁。あの瞬間、生徒会長としての、そして一人の女としての彼女の「独占欲」が、越えてはならないラインを越えたのだ。
「……会長、どういうつもりだ」
放課後。俺は生徒会室のドアを乱暴に開けた。
そこには、優雅に紅茶を啜る聖と、スマホで俺のSNSの反応をチェックしているめいがいた。
「あら、何のことかしら? 私はただ、誠稜高校の看板である貴方の『集中力』を削ぐ要因を、適切に排除しただけよ」
聖は冷徹なプロデューサーの目で俺を見据えた。
「天音くん。貴方はもう、ただの高校生じゃない。一人の少女に現を抜かして、スキャンダルに怯える日々を過ごさせるわけにはいかないの。彼女の転校は、彼女の家族にとっても好条件のキャリアアップになる。……win-winだわ」
「先輩……私も賛成です」
めいが、珍しく真剣な表情で顔を上げた。
「陽葵さんは、先輩の『過去』に近すぎる。今の先輩に必要なのは、未来を作る私と、地盤を固める会長だけなんです」
24歳の俺は、彼女たちの歪んだ愛情に吐き気がした。
スペックや社会的地位を利用して、力ずくで運命を操る。それは、俺を捨てた恭介たちと何が違うというのか。
「……俺を誰だと思ってる」
俺は聖のデスクに両手をつき、彼女の顔を至近距離まで近づけた。
天音蓮の持つ圧倒的な威圧感。聖の瞳が、恐怖と、それ以上に抗えない欲情で微かに潤む。
「俺は九重氷斗だ——なんて言っても、お前らにはわからないだろうな。……言っておく。俺の歌を支配できると思うな。俺が歌うのは、俺が愛する奴のそばにいるためだ」
俺は聖の目の前で、生徒会が用意していた次回のスケジュール表を破り捨てた。
「ソロライブの初日、俺は陽葵をステージに上げる。そこで全世界に発表してやるよ。——俺の歌のすべては、彼女のためにあるってな」
「正気なの!? そんなことしたら、貴方のキャリアは——」
「キャリアなんて、一度死んだ身にはどうでもいいんだよ」
その夜。俺は陽葵を呼び出し、夜の学校の音楽室へ忍び込んだ。
「天音くん……。転校、私、断れないかもしれない」
「いいよ。転校したって、俺が世界中に声を届けてやる。……陽葵、聴いてくれ。新曲だ」
俺はピアノの前に座った。
かつて24歳の俺が、誰にも告げられずに墓場まで持っていこうとした、究極のラブソング。
タイトルは**『プラトニック・リベリオン(純潔の反逆)』**。
「♪ 運命を書き換える ペンは折れた なら俺は この喉で世界を塗り潰す」
天音蓮の声が、静まり返った校舎に響き渡る。
陽葵は俺の背中にそっと顔を寄せ、静かに泣いた。
だが、音楽室の影。
その様子を、めいが持たせた隠しカメラがすべて記録していた。
そしてその映像を、聖は震える手で握りしめ、ある「禁じ手」を思いつく。
「……そこまで彼女が大切なら、壊すしかないわね。天音くん……貴方を、私だけのものにするために」
聖が電話をかけた相手は、因縁の男・恭介だった。
「……恭介くん? 貴方の探している『九重氷斗の死の真相』。それに近づくための、特別な取引をしましょうか」
躍進の頂で、聖の嫉妬と恭介の執念が手を組んだ。
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