攻略キャラの母に転生しました
リハビリに書かせていただきました。
読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
誤字報告、本当にありがとうございます!!助かりました。適用させていただきました!
異世界恋愛の日刊で22位になりました!皆様のおかげです!本当にありがとうございます!
愛する息子の入学式を明日に控え、私は舞い上がっていたと思う。
使用人達にあれこれと指示を出し、息子にも口煩く『忘れ物はないか確認したの?』と言っていた。
「もう煩いな。確認したよ!」
「本当に? 殿下達と同じ学年になるのよ。恥をかいたりしないようにしなきゃ。一生皆に言われてしまうわ。制服に皺はないかしら」
「何度も確認したよ!」
軽く腕を振り払われた瞬間、運悪くヒールの踵が折れた。バランスを崩した私は倒れ、頭をしたたかに打って気を失った。
遠のく意識の中で、愛する息子の悲鳴と使用人達の足音が聞こえていた。
長い夢を見て、私ことリリアナは、意識を取り戻して目を開けた。
そこには、顔面蒼白な息子ウィリアムと、げっそりと頬のこけた夫アルバートが、私の手を握っていたのだった。
「リリアナー! よかったあぁ!」
「ごめんなさい、僕、僕……本当に傷つけるつもりはなくて……」
愛する息子と夫の姿に、私もほっと息をついた。
「分かってるわ。大丈夫よ。それよりも、明日は入学式でしょう?」
「リリアナ。君は3日も眠っていたんだよ。学校に事情は説明して、入学式は休ませたよ」
「こんな時に、のんびり学校に行けないよ! 」
息子と夫は、涙で顔を濡らしながら叫んだ。私はその言葉に驚いた。
「そんなに気を失っていたの?」
「そうだよ。もう目を醒まさないかと、気が気じゃなかったよ。医者を呼んでくる。いいかい? 君はしばらく絶対安静だからね!」
「僕も明日から学校に行くよ」
「そう……気をつけてね。殿下や聖女候補様には近付いちゃ駄目よ……」
息子のウィリアムは、私の言葉に不思議そうな顔をした。
「どうしたんだよ。殿下にお近付きになれるといいわねって煩かったのに」
「殿下と親しくなるよりも、あなたが無事に生きて成長してくれる方が嬉しいって分かったのよ」
私がそう言うと、ウィリアムは照れ臭そうに横を向いてしまった。
「分かった。ありがとう。僕も本当は気後れしてたんだ。だって超エリートって怖そうだからさ。近付かないよ」
「ええ。そうしてくれると嬉しいわ。それからね、あなたの許嫁のマーガレット嬢は、大人しくて地味だけど優しい娘よ。大事にしてあげてね」
「分かってるよ、口煩いんだから! とにかくゆっくり休むんだぞ!」
ウィリアムは、眉を八の字にして安心したように笑った。
私も彼の言葉を聞いて、安心して再び眠りについたのだ。
長い長い夢を見ていた。
私は日本という国で入院していた。
入院仲間の子が暇潰しに貸してくれた小説が、あまりにも怖い異世界恋愛ものだった。この世界は、その小説の内容によく似ていた。
(……異世界転生というものをしたのかしら? もしそうなら、あの学園で恐ろしいことが起こることになるわ)
平民の少女が希少な光魔法を発動して、特待生として王立魔法学園に入学する。美しく可憐な彼女に、男達は皆夢中になってしまう。ヒロインがちやほやされる王道ストーリーだ。ただし、あまりにも彼女を巡る争いが激しく死者が出るのだ。死の直前になっても、ヒロインに愛を囁く攻略対象者達と、最後まで勝ち残った攻略対象者が、ヒロインの為なら何でも言うことを聞いてくれる夫になる。
さらに大国の皇太子が彼女に夢中になり、その次は魔王が彼女に夢中になっていく。夫は様々な理由でいなくなり、ヒロインは再婚を繰り返して幸せな人生を送る展開だった。
(……娯楽で読むならいいけれど、負けて死ぬ攻略対象者が、私の息子にそっくりなのよ。不安すぎるわ……)
私は深い溜め息をついた。今夜は心配で寝られないかもしれない。明日、ウィリアムが学園から帰ってきたら、話を聞かないといけない。
今の私は、ちょっと裕福な商会をもつ男爵夫人にすぎない。今自分ができることは何かを考えては眠り、魘されては目が覚めた。
次の日、息子は学校に行き、心配性の夫によって私は寝て過ごすしかなかった。
お昼過ぎになると、お医者様が診察にきてくれた。夫が大金を払って、王宮務めをしている医者を呼んで診察をうけさせてくれたのだ。夫の愛情深さには感謝しかない。
私を診察してくれた後、お医者様と少し世間話をすることができた。
「大丈夫ですよ。これなら後遺症もなく日常に戻れますよ」
「ありがとうございます。先生は本当に名医ですわ」
「お褒めにあずかり恐縮です。しかしながら、医者でも恋の病とやらはお手上げなのです」
「まあ! 謙遜なさらないでください」
「本当ですよ。恋に落ちたら、たった一目で身分も知性も関係なくなるんですなあ……」
遠い目をして語る医者に、私は思い当たることがあった。
「そういえば、先生は魔法学園にもお勤めだとか。学生だと甘酸っぱい恋もあるのでしょうね」
私は柔らかい言葉で探りをいれてみた。
「……そんな可愛らしい恋であれば良かったでしょうが……。いや、何でもありません!」
口を滑らしてしまったとでも思ったのか、医者は立ち上がると、慌てて帰っていった。
(私が思っているよりも、学園での恋愛事情は過激になっているのかしら)
私は、息子のウィリアムが無事に帰って来てくれることを祈った。
夕方になるとウィリアムが帰宅して、私の部屋に顔を出してくれた。
「おかえりなさい。学校はどうだったの?」
「……学校に行きたくない……」
「何があったの?」
「先生も男子達も、聖女候補の女の子の周りに固まってて、授業どころじゃないんだ。それでさ、その聖女候補の女の子がさ、僕に話かけようとしてきて、殿下や先生達に睨まれたんだよ。殺されそうな目付きだった。僕はすぐに教室から出るしかなかった。マーガレットが僕に付いてきてくれて教えてくれた。入学式の日から、ああいう状態だったらしい。殿下の婚約者達とも喧嘩状態なんだ。マーガレットと僕は、それからずっと一緒にいて、殿下達から逃げ回ってた」
「それは酷い状態ね……」
(王族には影の護衛も付くというわ。王宮にも報告はあがってるはずよね。さっきのお医者様の態度からして、殿下達はもう忠告をきける状態じゃないんだわ。攻略者の家族側から見たら、まるで東洋の呪いみたい……。壺に入れられて競争して生き残る呪い……)
私は恐怖で、ブルッと震えた。
「学園が授業どころじゃなくなっているのなら、無理に行かなくていいわ。他にも道がないか、アルバートと相談するからね」
「ありがとう。僕本当に怖くて……男として情けないけどさ」
「きっと大丈夫よ。大変だったわね。今日はゆっくり休みなさい」
「うん。お母さんも休んでね」
「ええ。ありがとう」
心配そうに何度も振り返る息子に、私は元気な笑顔を向けて安心させる。
呼び鈴を使って侍女を呼び出す。身支度を整えて、夫のアルバートの執務室へ向かう。ドアをノックして来室を告げると、仕事中にもかかわらず、夫は時間を作ってくれた。ありがたい。
「急な相談なのに時間を作ってくれてありがとう、アル」
「大丈夫ですよ、リーナ。あなたが急な相談に来る時は緊急事だと分かっていますから。私は、甘えたい時に来てくれてもかまわないですよ」
夫の甘い言葉に赤面してしまう。アルバートは私の隣に座ると優しく微笑んだ。
執事はお茶の用意を指示する為に出ていった。気を利かせてくれたのだろう。
「ウィリアムとマーガレットが通っている学校の騒ぎは知ってる?」
「ええ、平民の聖女候補に学校中の男共が夢中になってる騒ぎですね。殿下もそうらしい」
「ウィリアムが、聖女候補に声をかけられて殿下に殺されそうな目で見られたそうよ。学校は授業どころじゃなくなってるんですって。……私はウィリアムに学校を休んでいいと言ったわ。本当に危険を感じたの」
「この国で王立学園を通えないのは、狭い貴族社会で己の根をはる派閥を作れないことになります。……しかし、本当に身の危険を感じるならば、まず身の安全を計り、別の安全な場所で立て直すのが良策です。リーナは、私にウィリアムの安全な場所を探してほしいんですか?」
「ええ、そうなの。それと……不思議な夢を見たのよ。信じられないかもしれないけれど、聞いてほしいの」
「もちろんです、リーナ」
私はアルに、眠っている間に見た前世の話をした。この世界では、嫌悪される可能性が高い話だった。しかし、この世界では女性ができることが少なすぎるのだ。女性は財産とみなされ、男性に頼らなければ殆ど何もできなかった。
アルは頭のいい男性だ。そして私を愛してくれている。政略結婚が当たり前の貴族社会で、とても運のいいことだ。
そして女性同士のネットワークを使うには、ウィリアムの問題は緊急性が高かった。お茶会を開いてる間に、殿下にウィリアムが決闘を申し込まれて死んでしまうだろう。前世の日本のように、スマホも発達した交通機関もないのだ。
アルは私の話を信じてくれた。夢のお告げや不思議な現象や魔王もいる社会だから、受け入れてもらえたのだろう。
「リーナの夢は、国家転覆を予言する夢かもしれません。私以外に他言しないように。私は私で情報を集めます。ウィリアムには、将来に活かせそうな留学先を調べて行かせましょう。それまでは、家庭教師に学ばせます。マーガレット嬢も一緒に学ばせていいと、向こうの家に伝えます」
「本当にありがとう! アル」
私は嬉しくて、アルに抱きついた。安心したのだ。親の対処能力で、子どもの安全が決まる社会なのだ。ウィリアムとマーガレットは、これで大丈夫。
アルは、他国への移住も視野に入れるらしい。
将来、他国の王や魔王が、聖女候補の娘を攫いにくるのなら、この国も安全ではないと考えたらしい。
次の日から、ウィリアムとマーガレットは、仲良く家で一緒に学ぶことになった。勉強後のお茶会で、仲を深めている。
他の家々でも、子どもを休ませて自宅学習や留学させる者が増えてきた。それだけ、王立学園が酷い逆ハーレム状態になっているらしい。
アルからの話では、殿下や高位のご子息達は聖女に夢中で、婚約者や王からの忠告も耳に入らないらしい。
聖女候補が微笑めば盛り上がって叫び、彼女が悲しめば誰かの責任にされて断罪が始まるという。
(……なんて恐ろしい。息子達が巻き込まれなくて良かったわ)
そして遂に、聖女候補を巡る決闘がなされたと聞いた。私はアルにお願いしていたことがある。決闘で死亡者がでるかもしれないから、学校に警告してほしいと。
アルが学校に寄付をして、学校に警備強化をさせてくれたおかげで、死亡者はいなかったらしい。寄付がなければ学校は動かなかったと、アルは苦笑していた。アルのおかげである。アルは表彰されないけれど、私がたくさん甘やかしてあげた。
決闘をした殿下と原因になった聖女候補も処分された。それは、とても珍しい処分のされ方だった。この世界は、権力や財力、教会などの力を持つものは罪を問われないことが多かったからだ。
殿下は王位継承権を失って、男性だけの修道院で学ぶことになった。聖女候補は、女性だけの修道院で女性相手だけに癒しの光魔法を使うことになったのだ。
「……不思議だわ。小説の展開と違うけれど」
私は膝の上のアルの頭を撫でながら、ポツリと呟いた。執事と侍女は、壁際で空気になっている。できた二人だ。
「私のネットワークを使って、あなたの夢を本物の聖女が見た夢として、王に申告させたんです。その結果ですよ。私の財布がすっからかんです。慰めてください。私はよくやったでしょう?」
私は驚いてむせてしまった。
「……いつの間に!?」
「将来魔王を呼び寄せる聖女と、他国に負けることが分かっている王子などいらないと、王が判断されました。リーナは自分が救国の夢を見た名誉が欲しかったですか?」
「いらないわ、そんなもの。私はあなたやウィリアム達が元気でいてくれたら、いいの。勿論執事や侍女達も含まれるわ」
「そんなリーナだから、私は結婚したんです。何度でも私はリーナに恋をします」
アルは起き上がり、私を抱き上げると寝室へ向かう。私は赤面して動けなくなってしまった。
(小説に出てきた甘い言葉よりも甘いわ……!)
氷のような無表情だった執事と侍女が、ほっこりと微笑んでいた。
ウィリアムとマーガレットは、学校に復帰した。この国で根をはる派閥作りを始めたのだ。
子ども達が安心して育てる環境があるといい。それは理想なのかもしれない。
私が出来ることは、とても小さく少ない。それでも、小さな一歩一歩を歩いていく。それでいいのかもしれない。
私はアルと抱き合って、ウィリアムが学校へ向かう馬車を見送ったのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
評価を頂けると幸いです。
執筆のモチベーションになります。




