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弟の婚約者がどうみてもドアマットヒロインなので愛でることにしました。  作者: ちょこだいふく


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護身のペンダント

それは、小さなペンダントだった。


 銀色の縁に、簡素な魔法陣。

 装飾としては控えめで、

 目立つ宝石もついていない。

 けれどどこか美しかった。


「…これ…は?」


 ミレイユが、恐る恐る問いかける。


「記録用よ」


 リアナは淡々と答えた。


「防犯用。

 一定の魔力変動と音声を、

 自動で留める」


「……防犯、ですか」


「ええ」


 それ以上、説明はしない。


 “何から守るか”も、

 “誰を記録するか”も。


「常に身につけて」


 命令ではない。

 でも、選択肢のない言い方だった。


「外さないで。

 これはあなたのためのものよ」


 ミレイユは、しばらくペンダントを見つめていた。


 分不相応だと思った。

 高価そうに見えるわけではないのに。


 それでも。


「…ありがとうございます。」


 そう答えて、首にかける。


 冷たい感触が、鎖骨に触れた。



 屋敷に戻ったのは、いつも通りの時間だった。


 玄関をくぐった瞬間、

 継母の視線が、ミレイユの胸元に留まる。


「……何、それ」


 声が、低い。


「首につけているものよ」


 ミレイユは、反射的に背筋を伸ばした。


「……アルデハイト侯爵家で、

 防犯用に、と……」


「防犯?」


 継母が、一歩近づく。


「伯爵家の娘が?

 何を警戒する必要があるというの」


 指が伸びる。


 ペンダントを奪い取ろうとする。


 その瞬間、

 リアナの言葉が、はっきりと頭に浮かんだ。


 外さないで。

 身につけていなさい。


 ミレイユは、思わず一歩下がった。


「……これは……

 リアナ様から、身につけるよう言われたものです」


 口に出した瞬間、

 胸が強く打ち鳴らされた。


 言ってしまった。


 言い返してしまった。


 継母の目が、細くなる。


「……口答え?」


 次の瞬間、

 頬に、鋭い衝撃が走った。


 視界が揺れる。


「分不相応なものを身につけて!」


 もう一度、強い力。


「みすぼらしいお前ごときが侯爵令嬢の真似事をするな!」


 床に、膝が落ちる。


 耳鳴りがして、

 何を言われているのか、はっきりしない。


 ただ――

 胸元のペンダントが、微かに熱を帯びたのを感じた。


 ミレイユは、両手でそれを押さえる。


 外さない。

 奪わせない。


 それが、

 今の自分に出来る、唯一の抵抗だった。


「……ごめんなさい……」


 声は、震えていた。


 けれど、

 自分を否定する言葉は言わなかった。



 小さく震えるミレイユを見て、それ以上

 継母は何も言わなかった。


 ただ、吐き捨てるように言う。


「……部屋へ行きなさい」



 夜。


 ミレイユは、布団の中で、

 胸元のペンダントを、強く握りしめていた。


 痛みは、残っている。

 身体も、心も。


 それでも――

 奇妙な確信があった。


 今夜のことは、きっと

 “なかったこと”にはならない。


 誰かが、知る。


 誰かが、

 事実として扱ってくれる。


 そのことが、

 初めての安心だった。


その頃ミレイユの継母は自室にいた。


胸の奥が、ひどく苛立っていた。


 あの首飾り。

 装飾らしい装飾もない、つまらない代物。


 なのに。


 触れようとした瞬間、

 あの娘は――拒否した。


 今まで一度も、そんな反応をしたことはなかった。


「……リアナ様に言われた?」


 口に出してから、気づく。


 あれは、

 “言い返し”だった。


 分不相応なものを身につけ、

 分不相応な名を出して。


 頬を打った。

 力も、弱くはなかった。


 それなのに。


 胸元のそれを、

 あの娘は外さなかった。


 ――奪えなかった。


 苛立ちは、そこからだ。


 暴力で黙るはずの相手が、

 …黙ってはいたが、

 従ってはいなかった。


「…忌々しい。ミレイユごときが侯爵家の真似事を」


 吐き捨てるように呟く。


 だが、胸の奥に残る感覚は、

 嫌なものだった。


 


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― 新着の感想 ―
>「…忌々しい。ミレイユごときが侯爵家の真似事を」 ??? 嫁いだら義母より地位が高くなるのに、何言ってんだ?
バレたら困る悪事を平然とやらかしてるクレイジーは、叩き潰され徹底的に無力化されないと、止まりません。 他所の某書籍化・アニメ化作家先生が中途半端な事を書いててイライラした覚えが有るのですが(笑)、こち…
ミレイユ、踏ん張るんだ……!!
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