私の居場所は私が選んでもいい。
決断は、
思っていたよりも静かだった。
書類に囲まれた部屋で、
リアナと向かい合って座る。
養子縁組の話は、
何度も説明された。
急がなくていい。
断ってもいい。
形に縛られる必要もない。
全部、分かっている。
それでも。
「……私……」
ミレイユは、
少しだけ言葉を探してから、続けた。
「……リアナ様の……
そばに、いたいです……」
リアナは、驚いたように瞬きをした。
「それで、いいの?」
「はい」
頷く。
「でも……
ただ、守られているだけじゃなくて……」
小さく、息を吸う。
「……私も……
誰かの役に立ちたい、です……」
リアナは、しばらく黙っていたが、
やがて、静かに言った。
「……それなら」
⸻
話は、
王都外れの小さな教会へと繋がった。
以前訪れた、
中庭に木のある教会。
神父は、話を聞いて、
少し驚いた顔をしたあと、笑った。
「お手伝い、ですか」
「はい……」
「掃除や、炊き出し、
書庫の整理くらいなら……」
ミレイユは、
その言葉に、ほっと息を吐いた。
特別扱いされない。
期待されすぎない。
ただ、
“そこに来ていい”という許可。
⸻
教会での仕事は、
本当に地味なものだった。
床を掃き、
花に水をやり、
疲れた人に、お茶を出す。
お菓子を焼くこともある。
量は控えめ。
そしてなるべく淡々と作る。
効きすぎないように。
それでも。
「……あれ?なんだか、
少し楽になった気がします……」
そんな言葉を聞くたび、
胸の奥が、静かに温かくなる。
力は、
意識しなくても、そこにある。
押し付けない。
誇らない。
ただ、
生活に溶けている。
⸻
そうして時がたち
ミレイユ・アルデハイト。
それが、
私の新しい名前になった。
朝は、教会へ行き、
夕方には、邸に戻る。
リアナは、相変わらず忙しいが、
時々、教会に顔を出す。
「今日は、どう?」
「…すこし忙しかったですが穏やかでした…」
それだけで、
十分だった。
ある日、
中庭の木が、また花を咲かせた。
誰かが世話をしたわけでもない。
祈りが捧げられたわけでもない。
ただ、
そこで安心して過ごしていた。
それだけ。
ミレイユは、
ほうき片手に空を見上げて、思う。
必要以上に自分を低く見積らなくていい。
かと言って何か特別な事をして、奇跡と呼ばれなくてもいい。
私は、私のまま生きているだけで良い…。
そしてそんな私とここで、
誰かが少し楽になるなら。
それで、充分すぎるくらい幸せな事だ。
だから今日も、静かに、生きていく。
目立たないけれどじんわりと染みるような幸せを感じながら。
なんか、派手な感じにはしたくなくて、地味な幸せを書きたかったんですが、難しかったです_:(´ཀ`」 ∠):




