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弟の婚約者がどうみてもドアマットヒロインなので愛でることにしました。  作者: ちょこだいふく


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19/23

発想力

その話を持ってきたのは、父だった。


 夕方の執務室。

 書類に目を通しながら、何気ない調子で言う。


「研究室の者が、お前に会ってみたいそうだ」


 リアナは、ペンを止めた。


「研究室?」


「王都の。

 例の教会の件で、少し噂になっているらしい」


 噂、という言葉に、

 重さはない。


 父も、特に気にしている様子はなかった。


「話を聞いてみたいだけだそうだ。

 時間があるなら、顔を出してみるか?」


 命令ではない。

 確認だ。


「……会うだけ、ですか」


「それ以上は求めていない」


 父はそう言って、書類に視線を戻した。


「嫌なら断ればいい」


 リアナは、少し考えてから頷いた。


「……一度くらいなら」


「そうか」


 それで、話は終わった。



 研究室は、思っていたよりも雑然としていた。


 整然とした学問の場、というより、

 人が出入りして、物が増えて、

 整理が追いついていない場所。


「こちらが、アルデハイト侯爵令嬢の……」


「リアナ様ですね!」


 紹介してくれた研究所の人が言い終わる前に、

 若い研究員が身を乗り出した。


「記録魔法を防犯に使うなんて、

 よく思いつかれましたね!」


 リアナは、少し目を瞬く。


「……思いついた、というほどでは……」


「いやいや!」


 別の研究員も、勢いよく頷く。


「記録魔法って、

 式典とか、資料保存とか、

 そういう用途ばかりで」


「“証拠として残す”発想、

 誰もやらなかったんですよ!」


「やろうと思えばできるのに!」


 口々に言われ、

 リアナは少し困る。


「……防犯用の試作でしたから」


「それが素晴らしいんです!」


 主任らしき人物が、笑いながら言った。


「実用から入るこの発想!」


「理論は後からついてくる、

 こういうの、好きなんですよ」


 研究者たちは、

 評価というより、

 純粋に楽しそうだった。



「記録の精度、

 どこまで想定されてます?」


「改竄防止は?」


「再生条件、

 複数人設定できます?」


 質問が、次々に飛ぶ。


 難しい話ではない。

 実務的な話だ。


 リアナは、自然に答えていた。


「完全再生は、

 必要な場面だけでいいと思っています」


「普段は、

 “ある”という事実が分かれば十分です」


「…なるほど!」


 誰かが、感心したように呟く。


「その割り切り、

 研究室だと忘れがちなんですよね」



 一通り話が終わる頃。


「今日は、ありがとうございました」


 主任が、そう言うと


「もし、

 また気が向いたら」


「新しい使い方、

 思いついたら」


「雑談しに来てください」


みんな口々に言った。


 リアナは、少し拍子抜けしながらも頷く。


「…はい、あの…また伺う時はよろしくお願いいたします…」



 帰り道。


「……賑やかでしたね」


 ミレイユが、少し笑って言う。


 今日は、同行していた。


「ええ」


 リアナも、同意する。


「研究者って、

 だいたいああいう人たちみたいね」


「……怒られたり、

 難しい話をされるのかと……」


「…実は私も、少し思っていたわ」


 そう言って、

 リアナは肩をすくめる。


 ミレイユは、ほっとした表情を浮かべた。


「…でも、…リアナ様が、

 楽しそうで……よかったです」


 その言葉に、

 リアナは一瞬だけ立ち止まる。


「……そう?」


「はい」


 胸の奥で、

 また、あの温かさが広がる。


 力は、静かだ。

 でも、確かにある。


 ミレイユが幸せでいること。

 リアナが、無理をしていないこと。


 そのどちらもが、

 この空気を保っていた。


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― 新着の感想 ―
保護と学び。侯爵令嬢によるノブリス・オブリージュて感じでよいね。まぁ侯爵当主の許可の下だけどね。 ところでびっくりするほど 主人公の弟と、伯爵当主の気配が無いな 二人ともそれぞれの家に住んでないの?…
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