事実ベースで
翌朝。
ミレイユは、いつもより静かだった。
歩幅が、わずかに狭い。
視線が、下がっている。
――でも、来た。
それだけで、状況は十分に語っている。
「……座って」
応接室で、私はそう言った。
ミレイユは、躊躇いながら椅子に腰掛ける。
「体調は?」
「……大丈夫、です」
声は小さい。
だが、嘘ではない。
「首元、見せて」
命令ではない。
確認だ。
ミレイユの指が、ペンダントに触れる。
外さない。
「そのままでいい」
私は、机の引き出しから、
小さな魔導具を取り出した。
「記録を、再生するわ」
ミレイユの呼吸が、止まる。
「……聞きたくないなら、
ここで止める」
選択肢は、渡す。
彼女は、数秒沈黙し、
小さく首を横に振った。
「……聞きます」
「分かった」
私は、魔力を流した。
空気が、わずかに震える。
――音が、立ち上がる。
「分不相応なものを身につけて!」
「お前ごときが侯爵令嬢の真似事をするな!」
(衝撃音)
「口答えするんじゃない」
淡々と。
切れ目なく。
感情の混じらない、
そのままの事実。
ミレイユは、途中で目を伏せた。
だが、耳は塞がなかった。
再生が終わる。
部屋に、沈黙が落ちる。
私は、すぐには何も言わなかった。
――評価しない。
――憤らない。
ただ、確認する。
「時間、場所、言動。
全部、記録されている」
事務的な声だった。
「これは、
“感情の訴え”じゃない」
ミレイユが、ゆっくりと顔を上げる。
「……え?」
「事実よ」
それだけ言う。
私は、記録媒体を机に置いた。
「これを、
どう扱うかは――
あなたと、私で決める」
即、動かない。
だが、止めもしない。
「一つだけ、伝えておくわ」
リアナは、はっきりと言った。
「あなたは、
間違っていない」
それは慰めではなく、
確認だった。
ミレイユの肩から、
力が、すっと抜けた。
涙は、出なかった。
その代わり、
呼吸が、深くなる。
私は、記録媒体を指で軽く叩く。
「さて」
静かな声で、続ける。
「ここからは、
制度の話になるわ」




