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#033 熱狂!魂のガチライブ♡

「――続きましては、本日最大の注目株! 彗星の如く現れた、超新星アイドルユニット、『アステリズム』の登場でーす!」

 ショッピングモールの吹き抜けに設営された、特設ステージ。司会の軽快なアナウンスが響き渡り、僕、と、杏那さん、そしてルナさんの三人は、ステージの袖でその出番を待っていた。

 今日は、僕たちのアイドルユニット『アステリズム』にとって、記念すべき初ライブの日。MV撮影の甲斐もあってか、ステージの前には、既に大勢の観客が集まり、僕たちの登場を今か今かと待ち構えている。

「晴人さん、いよいよですわね。練習の成果、存分に発揮しましょう」

「う、うん……。が、頑張ろう……」

 杏那さんの落ち着き払った様子とは対照的に、僕の心臓は、今にも口から飛び出しそうなくらい、激しく高鳴っていた。

 観客席に目をやると、そこには、何故か見慣れた顔ぶれがずらりと並んでいた。

『ハルく〜ん♡ 頑張って〜♡』と、特製の応援うちわを振っている美王先生。その隣で、腕を組みながらも、どこかそわそわしている怜士くん。さらには、玖代会長や肆谷副会長をはじめとする、生徒会のメンバーまで。どうやら、美王先生が「ハルくんの晴れ舞台だから♡」と、余計な気を利かせて呼び出したらしい。彼らの視線が、僕の緊張にさらに拍車をかける。

「二人とも、準備はいい?」

 僕たちのリーダー役であるルナさんが、真剣な表情で僕たちに問いかける。

「うん!」

「いつでもよろしくてよ」

 僕たちが頷き合い、ステージへと一歩踏み出そうとした、その瞬間だった。

 突如、ステージの反対側の袖から、まばゆいスポットライトと共に、一人の少女が飛び出してきたのだ。

 ふわふわの金髪ツインテール。レースとリボンで過剰なまでに飾り付けられた、お姫様のような衣装。

 僕たちの誰もが知らない、その少女が、マイクを片手に、満面の笑みで叫んだ。

「みんなー! お待たせ! 陽姫屋麗奈(はるきやれな)だよーっ! 今日は、みんなのために、麗奈が最高のライブをプレゼントしちゃいまーす♡」

「……は?」

 僕たちは、あまりのことに、ただ呆然と立ち尽くす。誰だ、あの子は。これは、僕たちのステージのはずじゃ……。

 だが、僕たちの困惑をよそに、観客たちは、まるで最初から彼女の登場を待っていたかのように、熱狂的な歓声を上げた。

「「「麗奈ちゃーん!!!」」」

「可愛いーっ!!」

 麗奈と名乗った少女が歌い始めると、その熱狂はさらに加速する。彼女の歌声に合わせて、観客たちは完璧に統率されたコールを叫び、ステージは、一瞬にして彼女の独壇場と化した。

 ステージのスタッフたちも、この予期せぬ乱入者に文句を言うどころか、うっとりとした表情で彼女に見惚れ、そのパフォーマンスを賞賛している始末だ。

「な……何が、どうなってるんだ……?」

 僕が呟くと、隣にいたルナさんが、悔しそうに唇を噛み締めていた。

「……麗奈。どうして、あいつがここに……」

 どうやら、二人は知り合いらしい。

「ルナさん。一体彼女は誰なんですか」

「陽姫屋麗奈。うちのライバル事務所の一つに所属しているアイドル。私がアイドル界で台頭したことでクールビューティーブームがアイドル界に起きたせいで、可愛い系で売ってる自分に逆風が吹いたって言って私を憎んでライバル視してる節があったって話は聞いたことある。だけどまさか、こんな強引な手段を取ってくるなんて」

 そうこうしている間にも、麗奈の歌声は、ショッピングモール全体に響き渡り、上階のフロアにいた買い物客たちまでもが、次々とステージの周りに集まってくる。その誰もが、まるで操られているかのように、熱に浮かされた表情で、彼女の名前を叫んでいた。

 このままでは、僕たちのライブどころではない。それどころか、この異常な熱狂は、将棋倒しなどの事故を引き起こしかねない、危険な領域に達しつつあった。

「……これは、只事ではありませんわね」

 杏那さんの声に、ハッと我に返る。この異常な状況。まさか機術……!?

『――その通りよ、杏那』

 インカムから、美王先生の冷静な声が聞こえてきた。

『今、モール内で買い物をしていた真角くんと慧理ちゃんを呼び出したわ。ステージから発信されている、特殊な音波と光波の解析を急がせてる。……あの子、相当ヤバい精神干渉系の機術を使ってるわね』

 僕たちが対応を協議している、その時だった。

「――もう、見てらんない」

 ルナさんが、そう吐き捨てると、僕たちの制止も聞かず、ステージへと飛び出していった。

「麗奈ッ!」

 彼女の鋭い声に、麗奈は一瞬だけ歌うのをやめ、心底迷惑そうな顔で振り返った。

「あら、ルナじゃない。どうしたの? 私のライブの、前座でも務めてくれるのかしら?」

「ふざけないで。人のライブを勝手に奪っておいて、黙っていられるわけないでしょ!」

 ルナさんは、マイクを握りしめ、僕たちの方を振り返ると、不敵な笑みを浮かべて宣言した。

「晴人! 杏那! 私たちの、本当のライブの成果、あいつに見せつけてやるよ!」

 なんと、ルナさんは、この状況で、麗奈にライブバトルを仕掛けたのだ!

「……やるしかない、ってことか」

「ええ。お姉様が解析を終えるまで、なんとか時間を稼ぎませんと」

 杏那さんの言葉に、僕は覚悟を決める。

 このまま、狂信的に麗奈を賞賛する人々が増え続ければ、一体どんなことになるか、分かったものではない。

 それに、僕たちの初ライブを、こんな形で終わらせるなんて、絶対に嫌だ。

 今こそ、僕たちの特訓の成果を、見せる時だ!

「――いくよ、二人とも!」

 ルナさんの掛け声と共に、僕と杏那さんもステージへと駆け上がる。

 僕たちのユニット、『アステリズム』の、最初で、そして、おそらくは最も過酷なステージが、今、その幕を開けた。

「――聴いてください! 私たちのデビュー曲、『Starlight Dreamer』!」

 ルナさんの力強いシャウトを合図に、僕たちの、最初で最後の反撃が始まった。

 イントロが流れ出す。それは、僕たちがこの日のために、血の滲むような努力を重ねて練習してきた、たった一つのオリジナル曲。

 ステージの片隅では、麗奈が、まだ自分一人の独壇場だと信じ込み、甘ったるい歌声を響かせている。観客のほとんどは、依然として彼女の機術の虜となり、その名前を狂信的に叫び続けていた。

 だが、僕たちは、負けるわけにはいかない。

『――大丈夫よ、ハルくん、杏那、ルナちゃん!』

 インカムから、美王先生の激励が飛ぶ。『あの子の機術は、観客の脳に直接「麗奈が一番輝いて見える」って、嘘の情報を上書きしてるだけ! なら、こっちは、その嘘を上回る、本物の輝きを見せつけてやればいいのよ!』

 その言葉を、信じる。

 僕たちは、目を合わせた。練習してきた通りに。心を、一つにする。

 歌い出しは、僕のソロパート。震える唇を必死に抑え、僕は、マイクに向かって、ありったけの想いを込めて歌い始めた。

 ステージに立った恐怖も、観客たちの異様な熱気も、今はもう、関係ない。

 ただ、届けたい。僕たちの、本物の歌を。

 僕の歌声に、杏那さんの優しく、そして芯のあるハーモニーが重なる。

 そして、ルナさんの、全てを貫くような、パワフルなボーカルが、僕たち二人をリードしていく。

 ステップを踏む。ターンを決める。

 何度も、何度も、繰り返した振り付け。身体が、覚えている。

 僕たちの歌とダンスは、最初は、麗奈を崇拝する巨大なコールの中に、虚しく吸い込まれていくようだった。

 観客のほとんどは、僕たちに見向きもしない。

 それでも、僕たちは、歌い続けた。踊り続けた。

 すると、その時だった。

 狂信的な「麗奈コール」の嵐の中に、ほんの僅かだが、違う声が混じり始めたのだ。

「……あれ? なんか、あっちの子たちも、すごい……」

「……なんだろう。あの子たちの歌、心に、直接……」

 その声は、最初は、ささやかな囁きに過ぎなかった。

 だが、僕たちのパフォーマンスがサビの最高潮に達した瞬間、その囁きは、確かな「声援」へと変わった。

「頑張れーっ! そっちの三人組ー!」

「俺は……俺は、アステリズムの方が、好きだーっ!!」

 一人の男性客が、まるで呪縛から解き放たれたかのように、僕たちに向かって叫んだ。

 その声が、引き金だった。

 一人、また一人と、麗奈の洗脳から覚醒し始めた観客たちが、僕たち『アステリズム』に、本物の声援を送り始めたのだ。

 僕たちの、本物の輝きが、彼女の偽りの輝きを、凌駕し始めた瞬間だった。

 その光景を目の当たりにした麗奈の顔から、完璧なアイドルの笑顔が、音を立てて崩れ落ちた。

「……なんで?」

 その瞳には、信じられないものを見たという、驚愕と、焦りが浮かんでいた。

「なんでよ……? なんで、私を見ないの……? 私の方が、ずっと可愛いのに! ずっと、頑張ってきたのに!」

 自分の信者たちが、次々と敵に「寝返って」いく。その耐えがたい現実に、ついに、彼女の精神は限界を超えた。

「いやあああああああああっ!!」

 彼女の甲高い絶叫が、ステージに響き渡る。

「もっと私を見てよ! 私だけを好きになってよおおおおおおおっ!!」

 その歪んだ承認欲求が、彼女の持つ『マス・デバイス』の出力を、危険な領域へと暴走させる。

 ステージの照明が、禍々しいほどの光量で明滅し、音響スピーカーからは、鼓膜を突き破るような、不協和音が鳴り響いた。

 そして、麗奈の機術の虜となっていた、まだ正気を失っている観客たちが、一斉に、僕たちや、僕たちを応援し始めたファンの方へと、その敵意を向けた。

「裏切り者……!」

「麗奈ちゃんを悲しませるな!」

 彼らは、ゾンビのように、虚ろな目で、僕たちに襲いかかってこようとする。

 まずい、このままでは、客同士で、乱闘が始まってしまう!

「――そこまでです!」

 その時、ステージの袖から、凛とした声が響いた。

 そこに現れたのは、鍔井真角くんと、襟間慧理会計だった。彼らの手には、美王先生が急造したであろう、大型のジャミング装置が握られている。

「――彼女が使用している、精神干渉波の解析、完了しました。これより、無力化プログラムを起動します」

 真角くんが冷静に告げると、装置から、人間には聞こえない、特殊なパルス波が放たれる。

 その瞬間、僕たちに襲いかかろうとしていた観客たちの動きが、ぴたりと止まった。彼らの瞳から、狂信的な光が消え、我に返ったように、きょろきょろと周囲を見回している。

「……あれ? 俺、何を……?」

 全ての観客が、正気を取り戻したのだ。

 麗奈の、偽りの王国は、完全に崩壊した。

「……なんで。なんで、みんな、私の言うことを聞いてくれないの……」

 観客も、照明も、音響も、全てを失い、ステージの中央で、彼女はただ一人、呆然と立ち尽くす。

 そして、その絶望は、ついに、最後の引き金を引いた。

「……みんながやってくれないなら」

 彼女は、僕たち――アステリズムの三人を、そして、その隣で得意げな顔をしている真角くんたちを、心の底からの憎悪を込めて、睨みつけた。

「――私が、この手で、めちゃくちゃにしてやるんだから……!」

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