先手必勝! 兎追いしかの原、かばね築くかの丘
※このおはなしには、ちょっぴりきけんなシーンがふくまれています。
かわいいうさぎさんたちがたいへんなことになるので、
小さいおともだちは、おうちのひとといっしょによんでね!
覚悟はきまりましたか?
あとは自己責任ですよ?
【はい】 ← 選択肢は動かない!
【いいえ】
それでは、地獄へようこそ――――――――――――――――――――――――
ある森を抜けた先、草原――
雲一つない、気持ちの良い青空が広がっていました。
一面に広がる緑の絨毯に、小さな花々が賑やかに咲いてました。
そんなところに、ぽつんと一匹、白いウサギさんが座っていました。
ふわふわの毛並み。
きょとんとした赤いおめめ。
ぴくぴく動く、ちいさなお鼻。
ふんわり丸いお耳は、春風にふわふわ揺れて。
ころころと小さな身体は、まるで雪玉みたいに真っ白です。
わぁ、かわいいなぁ。
おててをすり合わせるしぐさなんか、
まるで絵本の中から飛び出してきたみたいでした。
そしてウサギさんが――
ぴょん、ぴょん、ぴょんぴょこぴょん。
可愛らしくこちらに跳ねて来るんだ。
人慣れしてるんだな、可愛いなぁ。
などと思っていると――
拳吾郎さんが――
「先手必勝じゃあッ!」
いきなり飛び出し、ドガァン!!
全開喧嘩キックをかまされたウサギさんは、くるくると回転しながら、空高く吹き飛んでいきました……
えっ、えええええええ!? な、なにこの仕打ち!?
あんなかわいいウサギさんを……
ぼくが絶句していると、
勇者さまはすっと目を細め、静かに言いました。
「見事なり」
えぇぇぇぇ!? 褒めるところなのっ!?
そんなぼくの心の叫びもむなしく、
草原には、ただ春の風がそよぐばかりでした。
ぼくは、空の青さがやけに憎たらしく思いながら、
おっきなため息をひとつ、つくのですが――
勇者さまは、こうも言うのです。
「あれは恐怖の首狩りウサギなり。
笑みの裏に牙を隠し、柔らかき毛皮に毒を宿す、魔物」
ええ、アレって……魔物だったんだ……
あ、でも、まてよ、勇者さまがそう言うなら……
ぴょこん!
え…………ッ!?
すこし灰色がかったウサギさんだ!
こんがり茶色のウサギさんも!
さらには真っ黒なウサギさんまで!
いろんな色のウサギさんたちが、どんどんどんどん、草原に湧いてきました。
ふわふわの毛並み。
きょとんとした赤いおめめ。
ぴくぴく動く、ちいさなお鼻。
でも、そいつらは、見た目はとても可愛いのに……
よくよく見ると……
目に『首寄こせ、首置いてけ』みたいな――
『殺意の色』が、ありありと浮かんでました(涙)
ぴょん、ぴょんぴょんぴょん――!
うわわ、迫ってくるぅぅぅぅぅぅ!
「兄弟、油断しとったら、首、モゲてまうで……!」
「諒――この世に、無垢なる敵など存在せず。
武を知る者、万象に備え、常に心砥ぐべし」
(戦闘シーンは自主規制されました)
そして、当然――
首のないウサギ。
胴体がねじれたウサギ。
半分にへしゃげたウサギ。
積みあがった、死屍累々。
牧歌的な草原は、まるで、昔語りの軍記物に出てくる、
もの悲しい“ハンバーグの丘”になってしまいました。
なんでウサギだけで丘ができるのさっ!?
あと、拳吾郎さん、拳に付いた血を嬉しそうに舐めないで……
だけど、ぼくはこう思いました。
見た目にだまされてはいけないのだと。
大変、得難い教訓でした。
そして、こうも思うのです。
(……こんなおはなし、子どもに読ませちゃ絶対ダメだよ!!!)
返り血と脂にベットリまみれながら、ぼくは切実に、そう願ったのです。
なお、今回も斧吾郎……いえ、斧ちゃんは、使われませんでした。
泣かないで、斧ちゃん……。