エピローグ
魔人は、滅んだ。
勇者さまの仲間たちは、かろうじて、生き延びることができた。
武器の仲間も、大分痛んでいたけど修理すれば問題ナッシング。
勇者さまは、修羅化の影響が残って、角と牙が生えてたけど……
「いかにも、邪魔よ」
バキッ!
えええええ、それってなんかヤバイ代償とかじゃなかったのっ!?
折れば済むってことなのぉぉぉぉぉっ?!
「土に還るが良い」
あの、その、植木みたいに地面にぶっ刺すのは、どうかと……
それ知らないうちに、芽が出て、成長したりしませんよねっ?!
ふぅ、ひさりぶりのツッコミは、心からの者でした。
さて――
「……兄貴、あんたと一緒にもっと冒険したいんじゃが、ワシ、ちょっと野暮用があるけん。ここでお別れじゃ」
「拳吾郎――いずこで修行や?」
「はっ! 兄貴には敵わんのぉ。ちょいと山籠もりして鍛え直してきまっさ」
――斧ちゃんが泣いてる。
「剣くんと、お別れ、したくないよォォオォォォォォッォツ!」
「泣かないで、また、会えると思うよ」
「そんなの、どーしてわかるんだよぉぉぉぉっ!」
「だって、この世界、まだまだ魔物がいるじゃない。勇者さまと拳吾郎さんが一緒に活躍する機会はあるはずさ」
……多分メイビーではなく、絶対。
この世界を創った神さまって、創意と悪意に満ちてるから。
拳吾郎さんは、斧ちゃんを背負って、
道の真ん中を堂々と、肩を切りながら、
どっかの山に歩いてった。
これぞ漢の生きざまって感じ――
それが流儀というか、“正義”なんだろうね。
「さて、拙僧もこれにて、次の任務がございますれば」
セツドー神父は、朗らかな笑みを浮かべてた。
「いずれ、またお会いできますかな、勇者さま?」
「御神の御導あらば、いずれの折に、セツドー殿」
「左様ですな……ナンムサンの御心のままに」
――ブラディーナ姉さんが聖歌を歌ってる。
「ハーレルヤ、ハーレルッヤ!」
「なんか、テンション高いですね……」
「はい、次の任務は、邪教集団の撲殺――いえ、お清めと言うありがたいものなのです! このブラディーナ、血が滾ってたまりません! ああ、ナンムサン!」
「……あ、そういう事なんだ」
うちの勇者さまもブレないけれど、神父と十字架の二人もブレないなぁ。
セツドー神父はそのまま、十字架ねえさんを片手にお清めの旅――
という名の、地獄街道へまっしぐら。それは凄く嬉しそうに。
……たぶん、次に会うときは、血まみれで笑ってそうだなぁ。
でも、それでいいんだろうな、それがあの人たちの正義だから。
「私も、帰る……」
メメちゃんは、ちょこちょこっと近づいてきて――
「ご自宅は北の国であったな?」
「うん。凄い勉強に、なったから……戻っていろいろ研究するの」
「うむ、達者でな、メメ殿」
――杖のじいちゃんがいつもどおり、けひょひょ――
「勇者の剣よ、おぬしとの旅、めちゃんこ収穫があったぞい」
「ええと、それってどういう事?」
「珍しいタイプの勇者病患者を見れたこととな、武器も成長するってこと――じゃのぉ。まあ、ワシも武器としては10歳くらいじゃから、学ばねばならんのぉ」
「冗談じゃなくて……本当に、メメちゃんのお爺ちゃんだったんだねぇ」
人間由来の武器ってありえるんだなぁ。
禁断の人格転移魔法でこの世に自分を縛り付けてるみたいだけれど――
まあ、それも武器の在り方なのかもね。
そして、メメちゃんは杖を抱くようにして、おうちに帰ったんだ。
後ろ姿が小さくなるまで、勇者さまはじっと見送ってた。
きっと、あの子もまた――“誰かのための正義”になるんだと思う。
「……ところで、勇者さま」
ハルコンネン王国の姫様、オルフィーナ殿下が、すっと勇者さまの前に立った。
「私……これからも、勇者さまについていきます」
「……なっ、何故……
姫御前……我は修羅なりぞ?」
これには勇者さまもビックリ、ほんの少し語尾がブレた。
僕も……えって感じ。
「勇者さまのお供――武人としての力量を上げられますので、
ああ、旅の資金も、装備も、全部ご用意いたします。
あと、護衛は《白銀の翼》を百名、随行いたします。
あと、勇者さまの生活全般は、わたくしがすべて――」
「……なんと、酔狂な……」
「酔狂――そうかもしれません。
でも、それが私の正義なのですっ!」
「……せ、正義?」
勇者さまの頭が混乱しているだとっ?!
僕は思わず叫んだ。
あのさ、もう戦い終わったよね!? 解散しようよ!?
この人、勇者なんだけど、修羅なんだよ?
そもそも、お姫様がついてくるなんて、そんなん許されるわけが――
――そんな僕に、姫剣クラリスが話しかけて来た。
「剣様――ごらんなさい、あの姫様の顔。大変に嬉しそうですわ。
強きものに従う、これぞ武人の本懐なのですわ――」
「ええとさ、姫様は、武人の前に、姫様じゃないの?」
「ああ、これは失礼。言葉が不足しておりましたわ。
オルフィーナ様は、姫様で、武人でありますけれど」
クラリスはコホンと一つ咳ばらいをしてから――
「まごう事なき、“乙女”なんですのよ?
ヒロインからは逃げられませんのよ?
おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!」
「し、システム上の仕様……勇者病とヒロイン病」
僕がそんなよくわからない言葉を漏らしたんだけど――
勇者さまが、はっきり言ったんだ。
「勇者とは狂気の者ぞ。狂気とはすなわち正義!
されば――我こそ正義なりィィィィッッ!!!」
そして僕を抱えて駆け出した。
いや、逃げた。
最後の最後で勇者らしくなかったけれど。
僕も同感だったから、問題ないね。
だって、正義なんだもん。
(終)