魔人城、突入せよ ~硬すぎる門~
そして――
僕らは、とうとう《魔人の本拠地》に到達した。
思えば、いろいろなことがあった。
拳吾郎さんと斧ちゃんの喧嘩とか。
セツドー神父の信仰全開エクソシズム(物理)やら。
メメちゃんの極大爆裂魔法が山ごと吹き飛ばしたり。
オルフィーナ姫様が、ヒロイン病にかかったのも。
勇者さまが、僕を見捨てなかったことだって。
……今思えば、序章だったんだ。
――なんて、過去を回想してみたけれど。
そういうノリは、今日は一切ありません!
はい、僕は今日も元気です。
そして、決戦の地に――《魔人城》の門前に、立っているんです!
……しっかし、デッカイ城だなぁ。
どす黒い瘴気がビシバシ漏れてる。
そして、デッカイ城には、デッカイ門――
勇者さまが門を睨んで見上げてる。
「魔人の根城に相応しい門構えぞ」
そう呟いた勇者さまは、いつものように正義が顔に浮かんでた。
なんというか、いつも以上に正義が濃くって、それっぽい。
「面白し」
ラスボスの城の前で勇者さまみたいな人が、こんな感じで佇んでいると、とっても絵になるなぁ。
あ、すでに門番はフルボッコで倒してる。
一応、描写するけど――
バキッドカッボコォ!
って感じだから、描写を求めないで。
「魔人の根城に相応しい門構えぞ」
ん? 同じセリフを聞いたような気がするけど、まあいいか。
なにか間違って、なんかのボタンを二度押ししただけだろうね。
さて、目の前のデッカイ門なんですが――
「ウオラァァァァァァァ!」
\バッ、キィィィィィィィィン!/
隣の拳吾郎さんが斧ちゃんで破壊しようとして、残念、ファンブル。
「すまん、兄貴ィ……
こいつは、ちっとばかり骨がおれそうじゃ。
……どこぞで、マイトは売っておらんかのぉ?」
斧ちゃんをギリリと握りながら、門を眺めて唸った。
ニトロセルロースって、甘い香りがするんだってね。
でも、たしかに、これは随分と硬い――
多分、魔鉄とかそういう金属で出来てるに違いない。
「ムムムムム――ン!」
セツドー神父が十字を切った。
これは比喩じゃないよ。
全力前回の十字架フルスイング、アンド、神の奇跡全開――
「ナンムサンッバスター!!」
\バガッ、キィィィィィィィィン!/
「弾かれましたか……むぅ、これは手強い」
セツドー神父のナンムサンバスターが通用しないだって!
すごいな! この門、凄い!
「滅せ……滅せよ……滅びよ、すべて……」
おっと、メメちゃんの最大魔法だ。
避難、避難――
「極大爆裂爆炎魔法――最大出力――」
そして杖を振り上げ――叫んだ。
「みんな、けしとンジャエッ!」
\ドバゴガァァァァァァァァァァァァン!!!/
……やったか?
ごめん、フラグ立てちゃったみたい……
門は平然としていました。
「ヒッサァァァァツ! 姫剣、大、暴、走!
キヤァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
おお、オルフィーナ姫が、猿叫しながら勇者さまの必殺技を――
なんか、手合わせしたら覚えたみたい。
\ガッキョン、ガッキョン、ガッキョン!/
はは、なんだか、昔を思い出すなぁ。
姫様の剣クラリスは、オリハルコン製だから、これで行けるも?
「……か、硬い……なんて硬いの……」
おお、なんという事でしょう。
表面が剥げただけ……
どんだけ、この門強いんだよっ!
まあ、門を物理や魔法でこじ開けようってのが問題なんだけど。
「総員、突撃!」
騎士団――白銀の翼が――
重厚な破城槌を用いての突撃を敢行。
全然騎士団っぽくないけど、それ、ありですよ。
なんていうか、こういうのでいいんだよ。こういうので。
物理で行くなら、質量×速度=破壊力なんだから。
\ドゴォォォォォォォォォォォォン!/
結論――
破城槌の方が壊れました。
まあ、なんとなく予想はしていたけど
「手強し……門、手強し」
勇者さまも感心している。
なんだか、嬉し気な口ぶり。
で、あの、そろそろ突撃なんですよね?
僕は勇者さまの手のひらの中で、そっと柄を震わせてみた。
「門とは審判者に非ず。試されの具なり。解は剣にて示すべし」
久しぶりな気がする、勇者さまの武人言葉による勇者理論の徹底開示って。
へへへ、何かしらの理不尽が起きる魔法の言葉なんだよ!
「推して参る――
我ら、此処にて止まるを許されず。
真の魔を正義により――討滅せんがため――」
はい、勇者さまの詠唱が入りました――!!
これって、タメ技なんですよねぇ。
勇者さまの描写。
「征くぞ。我が剣。
貫け、運命を貫く、真なる一閃――」
完全にテンションMAX全開。
というか、ラスボスに使うような言葉を門に使ってる。
でも、いいんだ。
扉の端にねじ込まれて、バールみたいに使われるより全然剣らしいし。
それに今の僕は――
色見は、黒鉄のごとく鈍く――その表面には、
鋼でも錆でもない“何か”が、這い回るように渦巻いて。
まるで内側から怒りそのものが漏れ出しているような光。
刃は美しいのに、なにかが歪んで、刃筋が通っているようで、荒ぶって。
ただ、斬るために生まれた“何か”が……
偶然この形を取ったに過ぎないという気配。
柄は異様に長く、ごつい手がゴリリと握りしめるのを軽々と受け、
握った者の“願い”を、問答無用で呑み込むような――そんな静けさ。
――なんていう、トンデモウェポンなんだから。
「必殺、我剣、通行“衝”ォォォォォォォォォッ!!」
僕は門に突き刺さって――
\チュドォォォォォォォォォォォォン!/
城門を吹き飛ばしました。
ぼくの先っぽは、そのまま石壁にめり込んでます。
いや、先っぽじゃないな、うん、完全に根本まで、ぶっ刺さってる。
昔の僕だったら、ハハッ、うちの勇者さまって、治安が悪いなァ!
って皮肉ってたかもだけど――
通行証? 僕がそれさ。
ハハッ、僕の、勝ちだね、よく耐えたよ、魔人の城の門。
そんなセリフを不敵な笑みを浮かべて、漏らす余裕があるんだ。
ああ、成長って素晴らしい――
でも、見てくれが、ちょっとばかり悪いのは、どうにかならないかなぁ。