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将、刃を振るうとき

 鍛冶の里を離れ、二日。

 勇者さま一行は、魔人の城へと至る峠道を越えた。


 その先に、戦場はあった。


 戦場には、風がなかった。


 草も、鳥も、音を潜める。

 谷を囲む断崖の上に、陽があるだけ。

 それすら、届かぬほどに――空は重たかった。


 ドドドドド――ッ!!

 ギギギギギィ――!!

 ズババァァン! ゴゴゴゴゴゴォッ!!


 軍靴の足音、槍の突撃、鉄火が裂く轟音。

 風も唸り、地も吠え、空すら割れんばかり。


 ――まさに、戦場音楽ウォー・シンフォニーだけがあった。


 軍勢と軍勢のぶつかり合い。


 だが、互角のものではなかった。


 僕らは、魔人直属軍その待ち伏せを受けていたんだ。

 

「囲まれた……!?」

「いかん、これは……!」


 浮足立つ騎士団――白銀のアルジェント・ウィング

 彼らには実戦部隊と典礼用部隊の要素を合わせ持っていたから、このような奇襲には不慣れだ。


「者ども、無様な姿を勇者さまにお見せするな!」


 オルフィーナ殿下が最前線で声を張った。

 純白の軍装が、戦場に眩しく映える。


 剣さばき、指揮ぶり、凛としていて美しかった。

 しかし――空より魔物が急降下――危機が迫る。


「殿下、危ない――!」


 そのときだった。


「憤破――――ッ!!」


 轟ォォ――

 風が唸り、剣が空を裂いた。


 一拍遅れて、魔物たちの身体が宙に散った。

 爆ぜるように、ばらばらと――まるで“斬撃の風”が吹いたかのように。


「下がれ姫御前ッ!! 将たるは采配に専ずべしっ!」


 その声が戦場を揺らした。

 勇者さまだった。


 鋭く、正しく、美しく――

 そして、何よりも、強い。


「……ああ、勇者さまっ……!」


 お姫さまは、思わず、そう呟いていた。

 その声には、自覚すらなかった。

 戦場の只中だというのに、胸の奥が静かに震えていた。


「呆けるな、姫御前ッ!

 第一列を、押し出せッ! 中央に盾を構えて、食い止めよッ!」


「は、はいっ! 盾、前へ! 槍は一歩後ろ、ついてこい!」


 もう、声に迷いはなかった。


 隊列の崩れかけた前衛に叱咤し、自らの手で兵を押し出し、隊列を整える。

 崩れていた布陣が、一枚、殿下の号令ひとつで再び形を取り戻していった。


「ここが支え! 進ませぬ! “盾の誇り”を示せッ!」


 声に応じて、兵たちが一斉に盾を突き立てた。


 それを確かめた勇者さまは――


「姫御前、兵を借りるぞっ!

 左方は拳吾郎殿――、後方神父殿――、メメ殿は中央にて待機ッ!」

 我は――右へと展開旋回する!」


 完全に空気が変わっていた。


 怒号が、指示に変わり。

 混乱が、統率に変わり。

 軍が、“動いた”。


「敵の矢より速く、こちらが叫べば、戦場は我らのものなり。

 抜剣――皆の者、我に――続けェ!」


 その声と同時に、勇者さまが地を蹴った。

 それに騎士の一団が追随。 

 

 ぼくは――構えられた。

 そして――振るわれた。


 速い。


 斬った、というより。

 突っ込んだ、というより。

 ――駆け抜けた、だけ。


 しかも、騎士たちも同時に勇躍前進――

 ぼくと勇者さまと、銀のマントが、轟音とともに、敵陣を突破した。


「全軍、左方へ転進ッ!」 


 最早勇者隊と化した一団が、扇の要をギュルリと旋回ようにして、そのまま前方へと突き進む。


「なんと……まるで、これでは勇者ではなく、勇将……ああ……」


 姫の剣がカタカタと鳴った。

 それは恐れているんじゅない。

 目には――敬意のような、思慕ともつかない、光が宿っていた。


 そして、勇者さまは――前へ出た。


「――前へ進め! ただ前に! 我に続け――ッ!」


 叫ぶやいなや、勇者さまは突撃した。

 敵陣の中心へ、ただの一直線で。


「斬ッッッ!!」


 敵が吹き飛んだ。


 十体、二十体、三十体ッ!

 まとめて空に打ち上げられて、落ちてこないぞ?

 どこへいったのかなぁ……まぁいいさ。


「な、なにごと……!?」

「ぎゃああああああ!?」

「物理で!? 魔法じゃなくて!?」


 魔人軍は、完全に混乱。


「この剣に宿るは、我が“正義”なり!」


 はいはい、それって、僕のことだよね。

 重量100キロはありそうな僕。


「疑念、許されずッ! 信ぜぬは、愚なりッ!!」


 ノールックで、飛んできた矢を叩き落とさないでください。

 ははっ、この人、隙がないなぁ、もう。


「燃えよ、我が剣!」


 ぼくは剣ですから、燃えませんってば。

 いや、剣先がマッハを超えて、摩擦熱で燃えてるじゃん。


「刃よ、割れよ! 敵もろともに!!」


 大丈夫ですよ、もう、 割れませんよ?

 だって、刃の幅が30センチもあればねぇ。


「おのれ勇者――ッ!!」


 魔人軍の将らしき巨大な魔物が襲いかかる!


 炎を纏い、口からは黒い瘴気、禍々しい翼――

 うわぁ、多分中ボスクラスだぁ!


「笑止――そっ首、もらい受けるのみ」


 勇者さまが、ゆるりと歩を進め――


 キィン――


 そして残身――


「……成敗」


 バッガァァァァァァァン!!!!!


 魔物の首が横にごろり、カラダも縦にバタリ。

  

 目で追えないほどの――見事な十文字切り、だねぇ。


 魔物は断末魔すら叫べず崩れ落ちた。


「将、刃を振るえば、合戦は終るるものと知れ」


 えーと、「将たるは采配に専ずべしっ!」じゃなかったっけ?

 超矛盾してるよぉ……って、まあいいか。


 だって、勇者さまかっこいい――! 

 すごく、かっこいいゾッ!

 なんて、僕がそう思う位かっこよかったゾ――ッ!


 だから――


 「ああ、勇者さま……まるで、“戦の王”ですわ……」


 姫様の剣が―― は、はしたないですわ! 口元……よだれが!

 なんて窘めるほどなのさ。


 お姫様の病LVが、まとめて3段階もアップしちゃった。

 どうするんですか! もう責任とってあげなきゃいけないゾォッ!

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