勇者の剣、ふたたび
こうして、ぼく(剣)は、無事(?)に復活しました。
「ナリャァァァアアアッッッ!!」
……大騒ぎしてみたいだけど、
余熱が落ち着くと同時に、気持ちも、もう落ち着いて――
「おかえり……剣くん」
「うん、ただいま……」
斧ちゃんの微笑みに、ちゃんと応えられたんだ。
彼女の気持ちを、感じられるほどに――
「おかえりなさいまし、剣くん」
「よくぞ戻った勇者の剣よ」
ブラディーナさんと杖のじいちゃんも話しかけてきた。
穏やかで――逆に怖いくらいの笑みを浮かべて。
「……ああ、久方ぶりに目にしましたわ。
これほどまでに、凄絶で、美しい、“異形”――」
ええと、何を言ってるんですか、ブラディーナねえさん。
「今宵の虎徹は血に飢えておる……そんな感じじゃな。けひょひょひょひょ!」
杖のじいちゃん、虎徹ってなんですか?
「しらばっくれても無駄じゃい」
「わかっているのでしょう?」
……うん。それはそう。
今の僕……
刃渡りは、波打つような妖光をまとい、黒金に染まっていた。
刃文は不規則に揺れ、光を呑んでは返し、まるで生き物のよう。
そのほか諸々、前の僕とはまったく別物――
いや、理由は聞きたくない。
問題は結果なんだ――
「お前、見たところ――」
杖のじいちゃんが、髑髏の目を光らせて、こう言った。
「血に酔うた魔剣――
ひと振りで十万の怨嗟を吸い込んだとされる、“喰魂剣”……
持ち主の心すら喰らったとも言われる――その第三形態あたりに近い」
杖のじいちゃんが、けひょひょひょひょひょひょと、高笑い。
場が、ぐらりと揺れた気がした。
ブラディーナさんもこう言った。
「今のあなた――
あの《呪いの至宝・破戒のつるぎ》に、そっくりですわ」
そう、触れた者の“理”を壊し、正気と名を奪った……忌まわしく、美しい剣」
「……は、はかいのつるぎって……?」
「南方戦線、王都地下に広がる“第五魔窟”で、かつて発掘された一本の剣――」
「決して抜けず、決して折れず」
「そして触れた者は、みな“自分が剣だ”と狂いて……」
「言葉を忘れ、名前を忘れ、そして自我を“封”じるように、ただそこに立ち尽くす」
「やがてそのまま、誰からも忘れられ」
「……そう、まるで、“最初から剣だったもの”のように」
「正気を壊し、理を壊し――」
「使い手の、名を奪う――――《破戒のつるぎ》
忌まわしく、美しく……本当に、うっとりするほど」
あのですね、淡々と、狂気のポエムを刻むの、やめてください!
「ええと……ふぇぇぇ……」
ぼく(剣)は泣きたくなった。
泣いてもいいはずだよね?
だって。
もう一度、自分の姿を見つめなおしたら――
僕はもう、剣というより、“禍”だった。
黒く鈍い輝きの中に、怒りと呪いが渦を巻き、
ただ斬るためだけに存在する、“形を持った暴力”。
そんなふうに見えた。
「……どうしてこうなった?」
生まれ返ったことを後悔するような……
そんな思いが、刃の奥に通って……
もう僕はただの剣じゃない……
誰か助けて……
ああ……
……泣いていい?
でも――
斧ちゃんが、ぽつりと言った。
「君は、剣くんだよ」
顔は――
いつものように、涙にぬれていたけど。
「見てくれは、変だけど……」
そして、キュっと涙をぬぐった斧ちゃんは――
「どれだけ姿が変わったって……
ボクには、わかるんだ……
君が……勇者さまの……剣だ……って」
そう言ってくれたんだ。
「うむ、お前は勇者さまの剣として蘇った」
「はい、それは間違いありません。あなたは勇者の剣です」
杖と十字架も、そう言ってくれたんだ。
胸の奥で、何かが、トン、と鳴った。
うん、僕は剣だ。
姿形は変わっても、そうなんだ。
勇者の剣――
僕は――
勇者の剣なんだ!
……なお、心の奥で「今だったらドラゴンも一撃で……」とか言ってた何かは、とりあえず黙らせた。