ぼくらは、武器――そして、きっと宝物。
夜――
勇者さま達がキャンプをしています。
ぱちぱちと焚き火が燃える中、 いろいろな話をしているみたい。
ぼくら武器たちも、輪になって――
まず、ぼく(剣)が、えいやっと切り出しました。
「えっと……ぼくは、ただの剣です。いちおう、勇者さま専用……になるのかな? でも、ふつうの剣です。ちょっとだけミスリルはいってますけど」
ボクは、そんな風に説明しました。
勇者の剣というよりも、かわいそうな、ただの剣だって。
次に、巨大な戦斧が――
「ボクは、ボクは魔法の斧……
拳吾郎っていうゴリラに振り回されてる、斧の女の子なの。
だから、“斧吾郎”とかいう名前は、マジでやめてぇぇぇぇぇ!」
なんとびっくり、斧ちゃんは、ボクっ娘で女の子でした!
斧ちゃんが、ボロボロ涙するのもしかたがないよ。
斧吾郎はないよなぁ……
こん、こん、と優雅に地面を叩いた音が――
「わたくしは、十字架。
セツドー神父様に仕える、神の武具にございます。
世の平安と愛のため、まものをボッコボコにするのが使命です。
ブラディーナ・クロスとお呼びください!」
にっこり微笑みながら、ブラディーナさんが、なんか怖いことをいいました。
自分で、血まみれ十字架ですって名乗る得物でした。
というか、武器だって自覚があったんだ……
火花がぱちり、と跳ねました。
最後に、どんよりとしたオーラをまとった杖が、こう言いました。
「杖じゃ…………
メメと、いつも、いっしょのな……けひょひょひょ」
見た目に反して、ちょっとしわがれたけど、優し気な感じ。
でも、呪いの武具なのは間違いありません。
だって、よく見ると、髑髏の目が、こっち見てたんだもの。ひぃ。
それから、ぼくたちは、それぞれの主さまのことについて話したり。
どうやって生れてきたのか、勇者さまたちには聞こえない声で話し続けました。
それぞれ、いろんな悲しみや、クセとか、運命を抱えた武器たちでした。
ぼくは、これから、この仲間たちと旅を続けていくんだろうなって、
そんな気がしたんです。
うん、たぶん……無事に済まないだろうけどね。
そんなことを考えていたぼくは、ふと、勇者さまたちを眺めました。
そこでは、焚き火の最後の余熱を囲んで、みんながゆっくりと話していました。
「然るに、各々方、いずれも比類なき武具を携えしと見ゆるなり」
勇者さまが、『ぼくたち』の話を始めました。
武器組のみんなは、興味深そうに耳を傾けます。
「斧吾郎けぇ?」
そう言った拳吾郎さんが、斧をグワしっと掲げました。
だから、斧吾郎はかわいそうだよ……ああ、斧ちゃんがまた泣いてる。
「こいつ、うるせぇんじゃ。いつもメソメソ泣きよるけぇ」
え、拳吾郎さんって、武器の声が聞こえてる?
「結構な長物だからよ、最初はブンブンモンスターに使ってりゃ、やれ血のりが付くのがいやだとから、歯が欠けるとか……面倒くせぇぇ、我ままお嬢ちゃんだわな」
あ、女の子って認識してるのか……なのに斧吾郎……ボクももらい泣きです。
拳吾郎さんは斧を両手で抱えてフンフンフンと振り回して、こう言いました。
「じゃけん、こいつだけは捨てられんのんよ……なんでか言うたら、こいつぁ、俺の兄弟分が……俺をかばうて、死んだ時に残していった、形見なんじゃ」
しん、と、焚き火の音だけが残りました。
そして、拳吾郎さんは懐から布を取り出し――斧を、丁寧に磨きはじめました。
あの豪快な拳吾郎さんにも、背負ってきたものがあるんだなって――
火の音を聞きながら、ぼくは、ただ静かに思いました。
「で、嬢ちゃんのそいつは……そいつァ堅気の道具ちゃうのぉ。なんというか、金筋の貫禄が、しっかり滲み出とるでぇ」
杖の事を言われたメメちゃんは、髑髏の杖をシュっとかざしました。
「この子……ネクラで……いつも、じとじと……だけど、とても大事」
杖からボォォッォワァと、ダークサイドのオーラがにじみ出ました。
ケヒョヒョヒョヒョヒョみたいな危ない笑いも。
「あきらかに、呪われておりますなぁ」
「……浄化はだめ。この子がいないと、私、魔法が使えない」
セツドー神父が杖に目を向けると、メメちゃんは杖をグッと胸に抱えました。
杖はウヒョヒョヒョヒョヒョなどとご満悦です。
「そんなことはいたしませんので、ご安心を……さて、拙僧のこれをご覧あれ」
神父は十字架を神にささげるようにもちあげて――
「天上神ナンムサンが大聖堂……その大十字から削り出した神聖なる執行具。名をブラディーナ……ああ、実に愛おしい」
セツドー神父は、目に狂気的な光を浮かべながら、ほおずりほおずり。
「身共らは一身不可分、天上神の敵を撃つ信徒にして、神罰の代行者――
ナンムサンに徒名すものは、決して許さず、滅して、お清めです!」
ブラディーナさんは「はい! 殺して殺して殺しまくりです!」って……
うん、この二人、狂信者だ、間違いなく。
「して、勇者殿、そちらの剣は……やはり?」
「勇者の剣……すごそう」
「兄貴のドスじゃけぇ。ただの剣で済むわけなかろうが、のぉ?」
皆はトンデモナイ武器のような口ぶりですが、ぼくはただの剣です。
ぶっちゃけ武器組の中で、一番変哲のない、ただの剣です。
少し、間を置いてから――
勇者さまが口を開きました。
「――ただの剣也」
えっ、まさか……そんな風に思っててくれたの⁈
すごく意外どころか、びっくりでした。
そして勇者さまは――
ぼくを手に取り、無言で刃の光を見つめました。
そしてぼくをギュっと握りしめて――
「されど、手に馴染む」
焚き火の光が揺れて、ぼくの刃が淡く光ります。
少し、間を置いて――
「これぞ運命の剣也」
ぽつりと、ひとこと。
それ以上勇者さまは何も言わず、ただ、そっと鞘に戻しました。
――ぼくの胸の中に、じんわりと、何か温かいものが広がりました。
……うん。
やっぱり、ぼくはただの剣かもしれないけど、
でも、勇者さまの剣で、よかったなぁって……思えれば幸せなんだろうなぁ。
ともあれ、そんな夜でした。
ぼくたちは、『道具』かもしれないけど――
きっと、『たからもの』なんだ。
そう思えたら――ほんの少しだけ、明日が楽しみになる気がしたんです。