滅殺・お清め完了ですッ! ~ナンムサンのセツドー神父~
とある村の広場で、ぼくらは一人の人物と出会いました。
「おお、あなたは――――神に導かれし勇者に違いない!」
勇者さまを見たその人は、いきなりそんなことを言いました。
ローブに身を包み、穏やかな顔をしたお年を召した神父様でした。
痩せている、というよりは壮健な感じのお方。
両手には立派な銀の十字架を抱えています。
「貴殿は?」
「申し遅れました。
わたくしの名は――セツドー・グラ=クタク。
天上神ナンムサンの信徒にして、
哀れな子羊を、漁る神父でございます」
恭しく頭を下げる神父さま。
やさしい声。ほがらかな笑み。
皺の寄った顔には人生の深みと敬虔さが浮かんでいます。
物腰おだやかで、勇者さま達とは正反対です。
「どうか、拙僧もお供させていただきたい――
神が、そう言っておられるのです。
ただ、世界を救うため――勇者さまのお力に、と」
いきなりの仲間になりたい宣言でした。
え、いいの、この勇者イカれだよッ!?
「忝し(かたじけなし)」
って、勇者さま、即答ですかッ!?
「勇者の渡世に、坊さんは必須じゃからのぉ。
こらもう、義理で断る理由もありゃせんじゃろ。
よろしくな、セツドーの叔父貴」
拳吾郎さんまで、ぺこりと頭を下げました。
あの、オジキって……何ですか?
でも、ちょっと嬉しい。
また、新しい仲間――まともそうな人だもの!
セツドー神父の持つ十字架も、どこか優しげな雰囲気で――
よろしくお願いいたします、なんて言ってくるから。
ぼくや斧にとっては、頼れるお姉さんみたいに思えたんだ。
これで、少しはまともな旅になるかも……そう思った、そのときだった。
ひゅうううん、と冷たい風が吹きこみ――
遠くの山のほうから、バサバサと音を立てて――黒い影が近づいてきた。
真っ黒な体に、大きな翼。血のにおいをまき散らすような、禍々しい気配――
「ま、魔物じゃぁあああッ!!」
と、村の人が叫び声を上げました。
いつも思うんだけど、なんで、勇者さまより索敵能力が高い村人がいるんだろ?
それはともかく、あの魔物、たぶん『魔人』の影響で、呼ばれてきたんです。
魔人のいる場所に近づくほど、こういうのが増えてるんです。
「ガーゴイルですな、魔人の影響でしょう」
セツドー神父もそうだと言ってくれました。
常識のある人と同じ意見だと、なんかホッとしますよね!
そんなセツドー神父は、静かに目を閉じて、十字架を胸に抱いています。
「天上神ナンムサンよ――
われらに光を、迷える魂に赦しを与えたまえ。
この地にて今、汝の名により祈りを捧げん。
罪深きものを清め、暗き影に、終わりの救済を。
おお、父よ。汝の御手により、
悪しき魂に救済の時を与えたまえ」
祈りの言葉をスラスラと紡いだ神父は――
「……ナンムサン(祈りの言葉)」
と天を仰ぎました。
その姿は、まるでどこかの聖堂に立つ聖職者のようでした。
おだやかで、厳かで、しかも光がパァァと差し込んで見えました。
ぼくは思いました。
ああ……これは、ほんとうに……まともなんだ!
魔物が近づいてきてますが、そんなことより、こんな素晴らしい人が仲間になったことが信じられませんでした。
空から魔物が急降下してきます。
ガーゴイルが、広場めがけて突っ込んでくるんです。
その巨体が風を裂き、地鳴りとともに――
――ズドン!!
石畳がめくれ、土煙が舞いあがりました。
キシャァァァァァ!
怪しげな叫び声が響きます。
「拳吾郎殿」
「ああ、わかっとるけん」
勇者さまは腕組みして、それだけ言って仁王立ち。
拳吾郎さんは面白そうにニヤニヤしています。
前衛職のふたりが、まったく動きません。
えっ、ちょっと!?
戦闘職が前にでないと、大変なことになりますよ!
そう思ったときでした。
セツドー神父が、そっと目を閉じたまま――
十字架さんをすこしだけ、かかげ――
「いざ、ナンムサン――!」
空気を、ピリリと裂くような大声、
そのまま、突進。
え、なんで前に――?!
「――神罰をうけよぉぉぉぉっぉッ!!」
ズゴォン!!!!!!
横あいから、おもいっきりの十字架さんフルスイング。
キシャァァァァァァァァァァッ!?
ガーゴイルは、ものすごい音を立てて吹っ飛びました。
回転しながら、建物の壁にめり込みました。
えっ、いまの何? どゆこと!?
とにかく、ガーゴイルはそれでも、まだ立ち上が――
「ええい、まだ終わらぬか、魔物め! ならば――――」
神父が、背後にまわって、魔物の腰をがっちり掴んで――
「とぉ――――――――!」
跳んだぁぁぁぁぁぁ!?!?
「ナンムサン・バックドロップ!!」
ズガァン!!!!! と、石畳に叩き落としました。
地面がめくれ、敷石が粉々になり、ガーゴイルがめり込んでいます。
でも、まだ終わりじゃなかったんです。
ギ、ギ、ギ、ガァァァァァァ……
ガーゴイルが、最後のあがきを見せたときでした。
セツドー神父は、十字架さんを両手で掲げ――――
「天にまします我らが父よ、ナンムサン。
いまここに、子羊は導きを乞う。
汝の御名を称え、御力を仰ぎ、
穢れし者を浄めたまえ、迷える者に道を示したまえ!」
すると、天からサッと光が差し込み、十字架さんもろともキラキラ輝き――
とんでもない、光の渦が――
「奥義・ナンムサンバスター!!」
ドッギャアアアアアン!!!!!!
すべてが終わりました……
地面に、綺麗な十字架の形が残されておわりです。
……今のって、いまの何!? いまのって――ナニィィィィィ!?
セツドー神父は、やさしくほほえみながら――
「お清め、完了しました」
なんということでしょうか。
神父様って、もっとこう……やさしいイメージだったんですけど……
物理攻撃系ッ?!
三人目の仲間は、想像の10倍以上は物理でした。
あと……十字架さんが「ナンムサンの敵は――滅・殺! ですっ!」って大宣言……涙を流して「ああ、かみぃぃぃ、かみぃぃぃっ!!」って叫び始める始末。
ああ、これはモノほんの、ほんものでしたよ!
魔物を漁る、ガチヤバの、本物の狂信者たちだ!
自分でも何をいっているか、ぼく、わかりません。
勇者さま達は、ご満悦でしたけど。
「さあ、次なるお清めの地へ――参りましょう」
勇者はうむりとうなづき、拳吾郎さん親指をおったてて――
3名が肩を並べて、次なる地に向かうのです……
まともって……なんだろう……
神に抗うだけ無駄ですね……
ああ、ナンムサン……(涙)