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副業冒険者

 いつものように与えられた部屋で生徒に出した課題の答え合わせをする。魔法に関する問題だが、あまり正答率が良くない。見た目だけそれっぽいが本質を理解していないような回答が多い。仕組みが分からなくても魔法が使えてしまうのだから、必然的にそういう人が増えてしまうものなのかもしれない。

 そこに突然扉をノックされる。


 「どうぞ」


 1人の女学生がなかにはいってくる。私の魔法の授業をとっている生徒の1人で、縁あって最近よく絡まれる。


 「先生がSランクの仮面の冒険者だって証拠もってきました」

 「先生は冒険者じゃないのでそんな証拠ありません」


 作業は止めず、あくまで相手をしていないふりをして答えた。


 「これ見てください。仮面の冒険者の活動記録と先生の勤務記録です」


 2枚の紙をこちらの視界を遮るように置いてくる。どこでこんなもの手に入れたのだろうか?


「7月26日私が助けられた事件の日です。夏休みでした。先生は実家に帰省するとかで1週間休みをとっています」

「それが何か?」

「嘘ですね。先生の実家に確認しましたが、帰省はしていなかったです」

 

 そこまで調べたのかよと内心ツッコミを入れてしまう。


 「次に9月20日彼は功績が認められて、領主から勲章が式典で与えられました。先生はこの日、午後の授業だけ休講でした。これは言い逃れできないんじゃないですか?」 


 勝ち誇ったような顔でこちらを見下ろしてくる。悪いがその程度の対策はしている。甘かったなと、こちらもあらかじめ用意していた回答をする。

 

「日程の話をするなら、4月21日この日は平日で出勤してましたね。この日とこの日もそうですね。それと彼は剣術の達人みたいですね。先生は自慢ではないですが、剣はほとんど触ったことないです」

「それなんですよ。彼が先生だとすると辻褄が合わないところあるんです」

「だから違うんですって」

「気づいたんです。彼のことを調べてると、時々逸話が一致しない時があるんです。剣の達人かと思えば、魔法しか使わない日もある。もしかして2人いるんじゃないかって。だから顔を隠してる。私を助けたのは先生だった、違いますか?」

「違います。例えあなたが言っていることが正しかったとして、私が彼だという証拠としては不十分ですね」

「もう先生諦めてください」

「諦めるのはあなたですよ。そもそも何で私だと決めつけるんですか?」


 助けた時だって顔は見られてないし、声も仮面ごしならばれないと高を括っていた。


「彼が魔法使うところを見たんです。術式が完璧でした。他のどんな魔法使いだって真似できないです」

「それはかいかぶりすぎですよ」


 良くできる子だと思っていたが、そこまで理解できているとは正直驚いた。このまま学び続ければ将来有望だろう。


「そういえば聞きましたよ。冒険者になるって言い出したみたいですね。担当の教諭が困ってましたよ」

「彼みたいになりたいなーと思って」

「あなたは貴族の令嬢なんですから、思い付いた言葉をそのまま出していたら駄目ですよ。それに、冒険者なんてそんないいもんじゃないですよ」

「知ってるような口振りですね」

「いや全く知らないので想像ですけどね」

「親の言う通りに生きるしかないのかな」


 明るい彼女がいつにもなく落ち込んだ様子で、独り言のように呟いた。才能ある18歳の女の子に人生を選ぶ権利がないのは気の毒だが、それも貴族生まれの運命。私がどうこうすることでもない。目を背けるように再び答案の丸つけをすることにした。


「そうだいいこと思い付いた。仮面の彼のお嫁さんになろうかな」


 再び顔をあげるとさっきの落ち込んだ様子はなくこちらを見てニヤついてしている。これは人をおちょくっている時の顔だ。落ち込んでるのも嘘だったのかもしれない。


 「得体の知れない冒険者と、貴族の娘のあなたの婚姻が許されるわけないでしょ」

「あれだけ勲章持ってたらいけそうじゃないですか?」

「馬鹿なこと言ってる元気があるんだったらさっさと出ていってください。先生は忙しいので」


 暇潰しのために友人と共同でやっていた冒険者も未来ある生徒を救えたと思えば意味のあることだったのかもしれない。退屈な作業だった丸つけも少しはやる気がわいた気がした。

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