寝言は記憶にありません……。
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草木も眠る丑三つ時。
「痛ってぇ!」
静かな闇の中、寝ていた俺の顔面にパンチが繰り出され驚いて上半身を起こすと、暗がりの中で左右の間近に小学生の息子二人が眠っているのが薄く見えた。
(あぁ。今日はこいつらと寝ていて——ってか、布団は三つ並べてあんのに何で三人が一枚の布団でギチギチになっているんだよ! サンドイッチの具になってんぞ俺……)
普段から我が家は夫婦別室で寝ている。
仲が悪いわけではなく、互いに一人でないとよく眠れない体質なのでそうしているのだが、子供達はと言うと酒臭い父親と一緒に寝ようという強者が誰もいない為、毎夜自然と妻の寝室に集合していた。
しかしその妻がどうにも体調が悪そうに見えたので、嫌がりながら殴り蹴り飛ばしてくる息子達を強引に説得して、今夜は俺の部屋で寝てもらう事にしたのだが。
「子供達は寝相が悪いし寝言もあるから、無理だと思ったら必ず夜中でも代わってね」
ちょっとした物音でもゴル○のようにすぐ起きてしまう眠りの浅い俺を心配して、妻はそう言い残していったのだった。
(いや、まだ対策はある)
俺は慎重に息子達の身体をそれぞれの場所に戻して布団をかけてやると、余った毛布を細長く丸めて敷布団の境界線にそれぞれ置いた。
(よし!)
安心して寝転ぶと入れ違いに左の息子がムクリと上半身を起こしたのが見えた。
「ねえ、アレは? アレどこやった?」
ゴソゴソと動きながら問いかけられたので不思議に思う。
「アレって何だよ?」
「アレだって! どこやったの⁉︎」
「はぁ? 知らんて、いきなりキレるな——」
喚き出した左の息子に焦っていたら、
「……ぐふっ、ウフフ……アハアハ」
急に右の息子が寝ながら笑い出している。
(まさかコレ、全部寝言なのか⁈)
眠いのに息子二人はさらに追い討ちをかけてくる。
「何でアレないの⁈ うがぁーー‼︎」
「落ち着け! だからアレって何だ⁉︎」
「ブフッ! グフグフ……ハハハ——」
「そしてお前は何の夢を見ている⁈」
このように夜中何度も起こされた俺は寝不足の夜明けを迎えたのだった。
「え〜? そんな事言うわけないじゃん」
「パパの夢だよ。アハハ! 行ってきま〜す」
朝にそう言って元気に遠ざかってゆくランドセルを驚愕して見送ったその夜、酒の代わりに俺は労いを詰め込んで妻へ買ってきたハーブティーを皆で一緒に飲んだのだった。
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