お嬢様②
遅くなりました
『ご、誤解だ!』
何が誤解だ……
『でも、今シフォンケーキに話しかけて……』
『それは……』
なぜ、俺は今シフォンケーキへの愛を隠した……
自分の気持ちに嘘をつき
そして、シフォンケーキの気持ちを裏切るのか……?
俺たちの絆は
愛は、その程度だったのか……
『俺はシフォンケーキが好きだ』
藍ちゃんは、俯いていて表情が見えない
『そんなことは知って…』
『食べ物としてではなく
恋愛対象としてだ』
『れんあいたいしょう……』
『俺とシフォンケーキは付き合っている』
藍ちゃんは一体今どんな顔をしているのだろうか
ドン引きだろうな
『戟、相談があるのよ』
関係は無いが、母親たちの影響だろうか?
俺は藍ちゃんに戟と呼び捨てで呼ばれている
藍ちゃんが俺の正面に立つ
『モンブラン』
そう言って、藍ちゃんがどこからか取り出したモンブランに、口付けをする
まさか……
『お呼びですかな
お嬢様』
どこからか声が聞こえるが声の主は見つからない
俺がキョロキョロしているのに気づいたのか藍ちゃんが助け舟を出す
『ここなのよ』
そこでようやく、俺は藍ちゃんの肩に乗った小さな男を目でとらえることが出来た
藍ちゃんが肩に乗った男を指に載せる
『初めまして、私はモンブラン
藍お嬢様の忠実な執事にございます
戟様ですね?以後お見知り置きを』
短く整えられた白髪、シワひとつない執事服、年齢を感じさせない背筋
サイズを除けばこれぞ執事というような風貌の男だった
いやはや、まさかこんな身近に能力使いがいるとは……
『で、相談って……』
『爺やっ!!!』
そう言って、藍ちゃんは執事に頬ずりをする
『お、お嬢様!戟様の前ではしたないですぞ!』
しかし、そんな言葉は藍ちゃんに届かない
『えぇ……』
10分後、藍ちゃんは何とか落ち着いた
『コホンッ、待たせてしまったかしら?』
『まぁ、別にいいけども……』
俺は暇なのだ
『戟様申し訳ございません』
『で?相談って?』
『2週間前、蘭は突然モンブランの声が聞こえるようになったのよ』
『はぁ、』
やはりか……
2週間前
今日のオヤツは、週に一度のモンブランなのよ!
モンブラン、名前を聞いただけで心がワクワクしてくるかしら
あぁ、モンブラン、モンブラン
あなたはどうしてそんなにかっこいいのかしら……
そんなことを考えながら、少女は時計を見る
『2時57分……』
あと3分……
蔓部家では、3時がおやつの時間と定められていた
コンコンッとドアがノックされ、一人のメイドが入室する
『藍お嬢様、おやつをお持ち致しました』
『そうかしら』
あくまで、平然を装う
『ここに置いておきますので』
そう言って、少女がいつも使用している小さめの机にモンブランが乗った皿を置く
『では、』
そう聞こえた時には既にメイドはいなかった
『これで、邪魔者は居なくなったのよ』
そう言って、少し笑ってみる
『さてと、食べるのよ』
(お嬢様!)
聞きなれない声がしたのよ
初めは新しい執事でも来たのかと思ったけどそれは、半分正解で半分間違っていたかしら
声の主は、モンブラン
『モンブラン……?あなたが?』
(そうですとも!お嬢様
私はモンブラン、あなたの忠実な執事にございます)
『バトラー……
爺や?』
(どうぞお好きなようにお呼びください)
恐る恐る藍が1口口付けしてみると、小さな執事が飛び出した
『爺やー!』
そう言って少女は執事に頬ずりをする
『で?何が問題なんだ?』
俺は、話をさえぎった
惚気話なんて聞いてられない
自分が彼女との話を話すのはいいが聞くのは嫌なお年頃なのだ
羨ましいとは思うが、勝手にイチャイチャしてろと俺は思う
そして、一体何が問題なのか……
『母様や、父様には爺やが見えないようなの
どういうことかしら』
あぁ、そういう事か
『そいつは、能力によって具現化された存在だ
能力の結晶のようなもの
能力は、能力使いにしか見えないのさ』
俺は、自分が1番かっこよく見える角度で藍ちゃんを見ながら言い放った
『ぐげんか……?けっしょう……?』
やれやれ、9歳には難しかったようだ
次は、多分あのキャラが再登場します