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運命は僕に微笑む  作者: 安芸
第五章 告白
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三 いまこそ真実の声を

 おまたせ? しました!

 連続告白劇、いきます!

 まずは、ミアンサとルイズのペアをどうぞ!

 

 はじめに口を切ったのはルイズだった。

 つと、視線を外したままのミアンサの肩を両手で鷲掴みにして猛然と食ってかかった。


「君は無謀だ! 無謀すぎる! あんな戦闘真っただ中に首を突っ込むなんて――危険だと思わなかったのか。私がかろうじて間に合ったからよかったようなものの、君のようなか弱い女性などひとたまりもなくやっつけられていたぞ。聞いているのか、ミアンサ!」

「わたくしだって怖かったわ!」

 

 ミアンサは吃とルイズを睨んだ。

 ルイズの腕を振りほどこうともがいたが、それは果たせなかった。


「でも、わたくしの出番でしたのよ、仕方ないでしょう。盗賊団は捕縛され、無事“天使の涙”も王子の手に戻る。わたくしがいなければ物語が進まないではありませんか」

「私は君の身を案じて言っている。なのになぜ、そういつまでも頑なのだ」

「わたくしはこれで普通です」

「嘘をつけ。君はもっと覇気のある女性だろう。なにか言いたいことがあるなら言ったらどうなのだ。あるだろう、色々と。言いなさい、全部聞くから」

 

 不意に、ミアンサの眼に涙が浮かんだので、ルイズは仰天した。


「ど、どうした。な、泣くな。なぜ泣く。私のせいか? 私が悪いのか? なんでも力になるから泣くな。君に泣かれると私は困る。まったく困る。ど、どうすればよいのだ……」

「泣いてなど、おりません」


 ミアンサは手の甲で涙を拭って言った。


「……わたくし、玉砕も覚悟で言わせていただきます。聞いていただけますか」

「……ああ、よかろう。私も君に話がある」

「話? わたくしに? なんですの? お先に伺いますわ」

「いや、君が先でいい」

「いえ、殿下こそお先に」

「君が」

「殿下が」

 

 二人はむっとして口を噤んだ。

 ミアンサは腰に手をあて、ルイズは腕を組み、怒気彷彿として対峙する。


「……どうして君は素直に人の言うことをきかないのだ。私が先にと譲っているのだから、先に話せばよかろう。だいたい君は私を軽んじすぎやしないかね。昨日だって私があれほど他の男と遊びに行くなと言ったのに、訪ねてみれば朝一番に出かけた後で、部屋はもぬけの空。町中探してみても見当たらない。君は私をどれだけ振り回せば気が済むのだ」

「あいにくですが昨日はルカとお祭り見物をしたのです。男性など一緒ではありません」

「え、あ、そうなのか? まあそれならよいが……いや、よくない! もし悪い男に絡まれたり、口説かれたりしたら――危険だ。危険すぎる。想像しただけで眩暈がする。そんな危ない真似をするなんて、君は警戒心が足らないのではないのかね」

「ひとを軽薄そうに言わないでくださいまし。だいたい、わたくしが誰に絡まれようと、口説かれようと、殿下には関係ないでしょう」

「関係ある!」

「なぜ!」

「愛しているからだ!」

「嘘つき!」

「嘘ではない! なぜ信じないのだ」

「そんなこと、簡単に信じられると思いますか。殿下はわたくしのことなんて申しました? 気が強くて口が達者で手が早くて、悪かったですね。慇懃無礼なしたたか者で目敏くて細かくて喧しくて執拗で無礼で短気で愛想がなくて、すみませんでした。他にもまだありました? まあすべて真実でないとは言いませんが、そんな不満はわたくしに直接おっしゃってくださいな。ひと前で中傷なんてされる身にもなってください。わたくしがどれだけ傷ついたと思っているのです」

「悪かった。だが、あれは違うのだ」

「違う? なにがです」

「あれは、君を中傷したわけではなくて、つまり他の男に君のことを褒められるのが嫌だっただけなのだ……悔しかったのだよ、私は」

「……なんですって?」

「だから、エストレーン卿が君の好きな紅茶の銘柄を知っていて、私は知らなくて、聞けば親密に世間話をしているというじゃないか。それで面白くなくなってだな……ついあんなことを言ってしまったのだ。でもあのあとすぐ、君は私の傍を離れてしまって……ものすごく後悔したのだ。すまない。本当に君を傷つけるつもりはなかったのだ」

「ばかばかしい。紅茶の銘柄ですって? そんなこと普通に訊けばよろしいでしょう! それに世間話ぐらい相手がエストレーン卿でなくとも誰とだってしますわよ」

「それが、嫌なのだ」

「なにがです」

「君が他の男と口をきくのが嫌だ。近づくのも嫌だ。肩を並べて歩くのも嫌だ。とにかく嫌だ。嫌なのだ! 君は私の横にいればよい! 君は私のものだ」

「勝手に決めないでください!」

「決める! 君は私の妃になるのだ」

「妃? いきなりなにをおっしゃっているのです」

「君に結婚を申し込んでいるのだ」

「まさか」

「まさかじゃない」

 

 ルイズ、舞台係のひとりに一輪の赤い薔薇を持ってこさせて、ミアンサの右胸に結びつける。

 それから左手をすくい取り、薬指に指輪を嵌めた。


「……少しゆるいか。あとで直させよう。昨夜、急いで見繕ってつくらせたものだから、高価な宝石ではないのだが……君に似合うと思って選んだ石だ。細工は我が国のもの。君の名も彫らせた。ミアンサ・ブリックリーグ・ティラーレと……」


 ルイズはミアンサを見つめて抱き寄せ、白い頬に両手をあて、そっと口づけた。


「……君を愛している。私と結婚して私の妃になれ。嫌とは言うな。さっきも言ったが、君の嫌は聞き飽きた。絶対に言うな。言っても聞かぬ。私には君しかいないのだ」

「いいわ」

「君が素直にはいと言うわけがないのはわかっている。だが君にどんなに罵られようと、私は君を離さないぞ。目の前で他の男のところへ行かれるなどまっぴらだ。二度と許さないからな。だがもしも、君がどうしても私以外の男を選ぶというのならば、目にもの見せてくれる。その男だけじゃない。君にも知らしめてやるぞ。私がどんなに君を好きで、君が欲しいのか、とことん教えてやる。逃してやらん。逃してなどやるものか。それくらいならいっそ」

「だから、いいと言っているでしょう」

「……なにがだ」

「殿下と結婚すると言っているの」

「……本当に?」

「そうよ。だから、その怖い顔も怖い思考もやめて。わたくしはどこにも逃げないわ。だってわたくしも、殿下を愛しているのだもの!」

 

 ミアンサはルイズに飛びついた。

 まさに、飛びついた。

 ルイズはミアンサを掻き抱き、そのまま二人の世界に突入してしまう。

 観客は拍手喝采、大喜びであった。このひと幕が演技なのか真実なのか、判断に迷うものなどひとりもいなかった。これは、まごうかたなき、新しい愛が結ばれた瞬間なのである。


 ルイズ、ヘタレ返上ということで。笑。

 このペアは喧々囂々やりあいながらも、心の動きを繊細に綴ることをおろそかにしないよう、気をつけてきました。私自身、ずばずばと好き放題言い合える相手は大変好ましいと思います。皆様には、そのようなお相手がいるでしょうか? もし傍にいるのでしたら、それは大変幸福なことかと思います。大事になさってくださいね。私もそうします。

 

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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