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運命は僕に微笑む  作者: 安芸
第四章 赤い薔薇結びの祭り
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五 すれ違う心

 まさかの破局?

       

「今日はありがとうございました。退屈ではありませんでしたか」

「そんな。ご一緒できて楽しかったですわ」

 

 丁寧に礼を述べるエストレーン卿に、ルネーラははしゃいだ笑みを添えた。


「本当に、こんなに楽しいお祭りははじめてでした。花まで頂戴して……わたくしもなにかお礼ができればよろしいのですけれど」

「いえいえ。セラ殿やスライエン殿、他の誰の誘いでもなく、私を選んでいただいただけで十分です。しかし、このような祝いの日にあなたを放っておかれるとは、お二方ともさぞ大変な御用があったのでしょうね」

「セラ殿はシノン――いえ、シノン王子の呼び出しがありまして、スライエン殿はお仕事が。これからちょうど彼の舞台がありますの。よろしければご一緒いたしませんか」

「……私を連れて行ってもよろしいのですか? あなたの隣に私を見ては、スライエン殿はあまりいい気分がしないのではないのですか?」

「そんなことは――あら、スライエン殿だわ。まあ、なんてひどい恰好」

 

 ルネーラは絡めていたエストレーン卿の腕を放して、小走りにスライエンに駆け寄った。


「なんですの、そのお姿は。滅茶苦茶ではありませんか」

「はあ。音楽堂に行きたくて急いでいたんですけど、ひとごみにもまれて、あちこち流されたらこうなったんです」

「ちょっとじっとしていらして」

 

 スライエンはおとなしく言うことをきいた。

 ルネーラはかいがいしく、スライエンの身だしなみを整える。

 それを複雑な面持ちでエストレーン卿は眺めていた。


「そうだ。『絶対断られない大勢の前での求婚』はまた失敗です。ルネーラ殿は嘘つきですー」

「ん、もう、動かないでくださいな」

「嘘つきですー。嘘つき、嘘つきー。絶対大丈夫って言ったじゃないですかー」

「たぶんと申し上げたのです。でも、お気持ちが足りていたら、通じるはずですわよ?」

「ううう」

「さ、できました。ところで、そろそろ出番ではなくて? 急がなくてよろしいの?」

「あ、そうだった。わあ、遅刻だ」

 

 ありがとうございますー、と言いながらばたばた走っていくスライエンは高名な宮廷楽士とはとても思えなかった。

 くすくす笑いながらエストレーン卿を振り返ったルネーラは、卿が寂しげに佇んでいるのに気がついた。


「……どうかなさいまして?」

「あなたはスライエン殿に既に求婚されていたのですか……」

「え? なんておっしゃいましたの?」

 

 エストレーン卿は肩を落とし、しばらく黙ってルネーラに気まずい思いをさせたあと、ようやく口を利いた。


「私たちの縁談はなかったことにいたしましょう」


 ルネーラの思考回路は停止した。


「……え……?」


 視界は真っ白、徐々に、意識も白濁していく。


「あなたのご両親には私から直接お話しいたします。王にも非礼をお詫びに参上いたします。私も両親にその旨を――」


 ここまでで一切の音が寸断される。

 エストレーン卿はなにか気難しい顔でまだ喋っていたが、ルネーラには届いていなかった。

 

 『縁談はなかったことに――』。

 

 衝撃は、胸の真ん中を抉った。

 穴があく、とはこのことだわ、とおかしく納得しながらルネーラは胸をさすった。

 エストレーン卿のこの言葉が耳から離れず、いつまでも心を占めて、ルネーラは眠れない夜を過ごした。




 映画は会話のリズムの勉強になります。字幕専門だけど……。

 無理のない、流暢な会話を心がけています。ものすごく苦心して……この未熟者。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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