三 華麗なる遊戯
明日はイブですね。
クリスマスには完結させたいです。
「リカール! セラ殿! ケインウェイ! 出かけるぞ、ついてきたまえ」
いつかも同じセリフを言ったシノンである。
だが前回と異なるのは、そこにカグセヴァが加わっていることだ。
「よし、全員揃ったな。では、皆、仕事にかかってくれ!」
待機していた侍女の集団がぬっと現れ、怯む彼らをそれぞれ個室に連れ去った。
そして二十分後、再び集結した。
「……なんだこの恰好は」
「まさかこのような派手な身なりで外を練り歩くつもりではありませんよね」
「そのまさかさ」
にやりと笑ったシノンに、セラ、ケインウェイ、カグセヴァから猛反発の声が上がる。
「嫌です」と、セラ。
「お断りだ! こっ恥ずかしい!」と、ケインウェイ。
「仕事に戻っていいですか」と、カグセヴァ。
「では俺と二人きりで行くか」
と言って、さりげなくリカールがシノンの肩を抱き寄せた。
「俺は別にそれでも一向に構わん」
すると、三人の態度が豹変した。
「……参りますよ」
「わかったよ、行くよ、行く」
「お供させていただきます」
「だそうだ。よかったな、シノン」
余裕綽々と笑んでシノンの肩から手を離したリカールを、セラはうろんげに見た。
「リカール殿は、少しこう、雰囲気が変わられたのではないですか。なにか、以前より手強い気がしますね……」
「そうか?」
そこへシノンの叱咤がかかる。
「なにをこそこそやっている。行くぞ、さっさと来い!」
シノンを真ん中に囲いつつ、王宮を出て、城下町に一歩入るなり、騒動が起きた。
「きゃあっ。シノン王子様よ!」
「素敵! あれって“クライドディラー義賊”の装束だわ!」
途端、殺到する群衆――。
シノン以外の全員が圧死も覚悟をした瞬間、突進する人々に向かい、威勢のいい伸びやかな挨拶が届いた。
「まあ落ち着いて、そこで止まりなさい。最高の祭り日和だな、諸君! 愉しんでいるかな」
わあっと一斉に湧き起こる元気のいい返答。
「結構! 存分に盛り上げてくれたまえ! さて、僕はいまから中央広場で皆の挑戦を受けようかと思う。なに、今冬舞台で観た“クライドディラー義賊の冒険”が気に入ったのでね、ちょっと扮してみたんだ。彼らのようにうまくは立ちまわれないだろうが、そこはご愛嬌と言うことで、勘弁願おう。さあ、いざ行かん!」
瞬く間に広場は大観衆で埋め尽くされた。
中央にスプーンで掬ったような空白があり、そこに、シノン及び他四名がいた。
鮮やかな蒼い衣装に蒼い長いマント、蒼いブーツ、蒼い被りもの、黒い手袋、黒い眼帯、腰に佩いた細身の剣と、皆お揃いである。
シノンは義賊クライドディラーの如く、蒼いマントをざっと振り払い、すらりと剣を鞘から抜き放ち、高々と天空を突き刺した。
「余興だ! さあ我に挑む勇気ある者は誰か! 見事我から一本取ったあかつきには最終日“赤い薔薇結びの劇”の最前列特等席にご招待申し上げる! いざ、かかってきたまえ!」
シノンはあらかじめ用意してあった勝負用の木刀を持ち出して、一人目の挑戦者に渡した。声援が飛び交う中、剣戟が開始され、あっさりと勝負が決する。
シノンの立ち振る舞いは役者顔負けの堂々たるものだった。
そのしぐさ、笑い方、颯爽とした身のこなし、どこかひょうきんな雰囲気までもよく似ていた。
そして手並の強さ。
次から次へと挑戦者を負かしてゆくその姿は、惚れ惚れするほど恰好いい。
はじめははらはらと心配していたカグセヴァ他三名も、それが杞憂だと知ると、それぞれ顔を見合わせた。
「シノンにばかりいい恰好をさせると言うのもな」
「俺、剣術には自信があるぜ」
「我々がシノン殿に劣るわけにはいきますまい」
「ちょうど木刀も余っていることですし、行きますか」
男たちは揃ってマントを脱ぎ捨てた。
悠然と登場し、観客の意気を煽り、血気盛んなる挑戦者たちを片っ端から蹴散らして行く。
この派手な大立ち回りは大いに祭りの初日を盛り上げた。
結局参加者の誰ひとりとして一本取れるものはいなかったのだが、敢闘賞として何名かに招待状が贈られた。
最後は“義賊クライドディラー一家”の恰好よさに夢中になった少年少女が押し寄せて、和気あいあいと歓談の場が設けられ、正午の鐘が鳴ると同時に、おひらきとなった。
シノンは他四名と一緒にそのままダウジ・パンプ・ルームにいって着替えをした。
今度はまともにフロック・コート姿である。
それからそのまま二階の個室に移動し、クラブ・サンドイッチとフルーツサラダの食事をとり、食後の珈琲を頼んだ。
二杯目のおかわりをして、シノンはセラに話しかけた。
「ところで、あなたとルネーラとはうまくいっているようですね」
「噂通りですよ」
「噂通りだと、あなたとスライエンは彼女に夢中で、歪な三角関係だということですが」
「ええ。シノン殿の台本通りでしょう?」
「なるほど。手を加えず、脱線せずに演じてくださっていると、そういうわけですか」
「はい」
「しかし、もうひとつの台本には手を加えた」
セラは口をつけていたカップをソーサーに戻し、浅い微笑のまま、すっとぼけた。
「さて、なんのことでしょう」
シノンは微笑み返しをして、とぼけても無駄だというふうに断言した。
「僕が決めた劇の配役を、僕の名を使い勝手に変更したのは、あなただ」
活劇、好きなんです。
仮面も好き。眼帯も好き。ここまでいったらわかりますよね?
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。