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運命は僕に微笑む  作者: 安芸
第四章 赤い薔薇結びの祭り
20/43

二 もつれた関係

 この小話も好き。

 切なめ。

     

 看板発表のあと、出演者全員が舞台上に揃った。

 拍手と応援の声が浴びせられる。

 十三名の出演者たちは笑顔で観衆に応えつつ、手を振りながら次々と壇上を降りていった。

 混乱を避けるために用意された関係者専用の連絡通路は、王宮一階来客控室横に設けられた、祭りの執行部室に通じていた。

 通路には憲兵が幾人も立ち、勝手に他の部屋や回廊への出入りができぬよう見張っている。

 ルイズは先に壇を降りたミアンサを捜した。

 急いで通路を駆け、ちょうど角を折れて姿を消そうとするミアンサの後ろ姿をとらえる。


「ミアンサ! 待ちたまえ」

 

 ミアンサは待たなかった。

 聞こえないふりをして、さっと姿をくらまそうとした。

 だがルイズの足の方が速かった。 


「待てと言うのに! なぜ逃げるのだ」

「逃げてなどおりません。急いでいるだけですわ」

 

 久しぶりに見るミアンサは少しやつれて見えた。


「……少し、痩せたか? 顔色があまりよくないな」

「……お話がないのなら、失礼させていただきます」

「どうしてそうそっけないのだ。君は逃げていないと言うが、この二週間というもの徹底的に私を避けているだろう」

「気のせいです」

「気のせいなものか! 私が近づけば踵を返す、待ち伏せれば出てこない、呼び出してもなしのつぶて、手紙を出しても返事は来ない、やっと偶然見かけたかと思えば脱兎の如く逃げ去って――この二週間、私がどれだけ君を追いかけ回したと思っている!」

 

 ミアンサは侮蔑をこめたまなざしをルイズに向けた。


「……ここは人目があります。少し通路の端に寄りましょう」

「そんなことはどうでもよい」

「皆の邪魔だと申し上げているのです。いいからこっちへ来てください」

 

 問答無用でミアンサは、二階に続く大階段の踊り場下にルイズを引っ張り込んだ。


「で、なんです」

「だから、なぜ私から逃げるのかと訊いている。わ、私の非礼を詫びようにも、君にそうあからさまに逃げ続けられては、詫びようがないではないか」

「……わたくしを気に食わないとおっしゃったのは、殿下ではございませんか」

「そうだ。だが傍にいないのはもっと気に食わぬ」

「わけがわからないことをおっしゃらないで。わたくし、急いでいますの。待ち合わせに遅れそうですので、失礼させていただきます」

 

 咄嗟に、ルイズはミアンサの前に腕を突き出した。

 ミアンサが身体の向きを変えたので、動きを封じるために壁に手をついて、ミアンサを懐に囲い込む。


「……なんの真似です」


 睨んでくるミアンサを、ルイズは睨み返しながら問うた。


「待ち合わせの相手は」

「答える必要ございません」

「……まったく君という女性はいちいち癇に障る」

「だったらかまわなければいいでしょう」

「気になるのだから仕方あるまい。いいから答えたまえ。男か」

「エスコートは男性がするものです。そこを退いてください」

「行くな」

 

 ルイズはミアンサの手首を掴んだ。

 その華奢さにひどく驚く。

「手をお放しください」

「行くなと言っているだろう」

「……殿下。いえ、ルイズ王女。いい加減になさいませんと、わたくし怒りますわよ」

「王女ではない」

 

 ルイズは低く怒号した。

 得体の知れない怒りに胸の内が熱く滾っていた。


「王女では、ない。私は王子だ……ティラーレ王家の掟に則り、成人するまで性別を偽るはめになってしまっただけで、私は王子だ。もうとうの昔に成人して、然るべき申請さえすればいつでも王子を名乗れる。対外的に王女のままなのは、シノン殿の成人を待っていたためで、他意はない。だから……私は……」

「王女でないから、どうだと言うのです。なにがおっしゃりたいのです」


 ミアンサの冷静な熱のない追及に、とうとうルイズの理性がぶち切れた。


「ええい、だいたい、怒っているのは私の方だ! 二週間も私を放ったらかしにしておきながら、君は他の男をかまうと言う。許せるものか!」

「殿下の許しなど必要ありません。だいたい、シノン王子のことにせよ、ウィンストーン卿のことにせよ、いかがなされるおつもりです」

 

 ルイズは、返答に窮した。

 ミアンサは、物憂げに眼を伏せ、それでも口調は毅然としたまま先を続けた。


「……わたくしは、劇の相手役と言うだけです。ただ、それだけ」

「……それだけではなかろう?」

「それだけです。わたくしのことよりも、セリフは憶えたのですか? この劇は役名ではなく本名をそのまま使いますので、役と役者の顔と名前を一致させなければ、ひどい恥をかきますわよ。失敗などしてシノン様の顔に泥を塗るような真似は、わたくし許しませんわ……」

 

 ルイズは苦しげに吐息して、ミアンサを見つめた。


「……シノン殿のことも、ウィンストーン卿のことも、きちんと考えて答えを出すつもりだ」

 

 ミアンサは無言で首肯した。

 それから拘束されたままの腕をじっと見つめる。

 ルイズはその視線の訴えるものに抗い、ミアンサをそっと引き寄せ、抱きしめた。


「……君は他の男と遊んでいる暇などなかろう。私と劇の練習をしなければならん……」

「……練習など不要です。この劇は、王子と町娘が結ばれることは絶対必須条件ですが、他の三組については当事者に任されているのです」

「と、言うと……?」

「つまり、出演者の気持ち次第で、結末が違うのです。無論、わたくしたちの場合は、恋が実るなんてありえません。友人役二名はその使命を無事全うして、それだけで終わるでしょう。わたくしはそのつもりです」

「私が嫌だと言ったら?」

 

 ミアンサはルイズの胸を軽く衝いて、離れた。

 ルイズは、ミアンサの瞳が涙で濡れているように見えた。


「……あなたさまにとっては迷惑で、うるさかったのかも知れませんが、わたくしは真剣にお世話しておりました。見知らぬ異国で不自由がないようにと、思いつく限りのことをしました。罵詈雑言並べ立てたこともございましたが、悪意はありませんでした。もちろん悪気がなければすべてが許されるわけではないでしょうけど」

「ミアンサ――」

「とにかく、わたくしに詫びなど不要です。むしろわたくしがお詫びしなければならないのでしょう。二週間、いらぬお手間をかけさせてしまい申し訳ありませんでした……」

 

 踵を返したミアンサの寂しげな背を見て、はじめてルイズは気がついた。

 ミアンサは怒っていたわけではない。

 傷ついていたのだと。

 そう、知った。



 活動報告アップしました~。

 お気が向かれた方は覗いてみてください。

 次の更新はちょっと先です。仕事いってきまーす。

 

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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