一 王と王妃のお茶会
第三章開始です。
それぞれの恋が激しく? 動きはじめます。
「シノン王子が実はシノン王女だというのは本当ですか?」
薔薇園の一角でひろげられた、午後のお茶の席でのこと。
うららかな暖かい日和だった。
喧騒と執務から離れ、午後のひとときをゆったりと愉しむためにしつらえた席で、王と王妃は、揃ってアンティーク・カップをテーブルに落とした。
白いレースのクロスが汚れ、ティー・スプーンが足元に転がる。
傍に控えていた執事長カグセヴァは無言でこれを拾い、テーブル上のティー・セット一式をいったんワゴンに下げ、さっと真新しいクロスを敷き直し、改めて二度目のセッティングを整える。
お茶を淹れ、砂糖とミルクを添え、桃のケーキをカッティングし、白いケーキ皿に生クリームとアプリコット・ジャムとクラッカーを一緒に盛りつける。
王と王妃の茶席の近くをたまたま通りかかったセラは、招待されるがまま笑顔でこれを受けた。
そして一番はじめの言葉が冒頭である。
すっかり動転した王は、銀のフォークでお茶をガチャガチャとかき混ぜた。
「な、なにを、そ、そんな、荒唐無稽なことを」
「単なる噂です。それとも事実なのですか」
「どこからそんな噂が――」
言いながら、王妃は砂糖壺の中身をすべてケーキの上にまけた。
「どこからともなく、です」
セラは人当たりのいい微笑を浮かべた。
「そんなことが、あるわけなかろう」
は、は、は、と王はそっくりかえって笑った。
そっくりかえりすぎて後ろにひっくり返り、これをカグセヴァが丁寧に起こした。
「そうですよねぇ」
「そうですとも」
セラと王妃は微笑みを交わしあう。
王妃はミルク壺を掴み、それに手を添え、呷った。
次の瞬間噎せてしまい、ナプキンを探して手が泳ぎ、代わりにクロスを引っ張った。
今度はカグセヴァが執り成しのしようもないほど――ポットもカップもスプーンも取り皿もケーキやクリームすべてが――引きずり落とされて、全部が台無しになった。
間があった。
セラはこの悲惨な有様には目もくれず、膝の上のナプキンをたたみ、優雅に席を立った。
「どうやらお茶会は終わりのようですので、これで失礼させていただきます。ごちそうさまでした。またこのような機会があればぜひお誘いください」
「うむ――」
「もちろん――」
と、王と王妃は虚ろに首を縦に振った。
いったん背を向けいきかけたセラだったが、途中、「ああそうだ」と、いかにもいましがた思い出したかのように振り返った。
びくびくする国王夫妻に向かい、にっこり笑いかける。
「これはまだ先の話ですが、来春、シノン王子を我が国にご招待したいのです。その際にはどうかご快諾いただけるよう、なにとぞ、よろしくお願い致します」
セラは軽やかにお辞儀をして、その場を退場した。
ぽかんとする王と王妃の後ろで、カグセヴァは黙々と後片付けにかかった。
王と王妃のお茶会です。このペア、大好きー。
ほのぼの担当です。が、繰り広げられるのは、牽制という名の冷たい戦争。
カグセヴァの心中いかに!?
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。