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第1章28話 女好きの残念イケメン

「ねえ、君。僕と付き合わないかい?」


活水は真横を通り過ぎた黒髪の少女に声をかけた。


「……は?」


黒髪の少女は怪訝そうな顔をし、活水の顔を凝視すると、何かを思い出したように「あ」と声を漏らした。そこから彼女の動きは早かった。すぐに踵を返すと活水から逃げるように早歩きで教室の中へと姿を消した。


活水はそんな彼女の後姿を少し切なそうな目で見送った後、前髪を掻き上げる。


「またダメだったか……。まあ、いいさ」


先程の活水が声をかけたのはは二組で一番可愛いと噂されている少女だった。以前声をかけたのは入学式の日だっただろうか。あの日も今日と同じような顔をされた。


しかし活水はめげるどころかすぐに気持ちを入れ替える。


この切り替えの早さが長所でもあり短所でもあった。


次に活水は正面にいる銀髪の少女に狙いを定めた。彼女はこちらに向かって歩いて来ているところだった。


彼女の横を通りかかった男は、立ち止まって彼女の顔をじーっと見つめている。更に教室から出てきた髪を巻いた女子二人組も彼女を見るなり歓声を上げて小さく飛び跳ねながらその横顔をチラチラ盗み見る。


歩くだけで男女問わず沈黙を浴びているのは一目瞭然だった。


遠目から見てもわかるさらさらな髪に、艶のある唇、影を落とすほど長い睫毛、毎日外で訓練をしているとは思えないほど透き通っている肌。通り過ぎる人々は必ずしも彼女を二度見する。入学した当日にファンクラブまでできている。今では学年のみならず、学校一の美少女だと言われているのをよく耳にしていた。


活水はそんな彼女の前に立つ。学年一の美少女だろうが何だろうが関係ない。することは同じである。


「ーふうさん、僕と付き合わないかい?」


道をふさがれ立ち止まるしかなかった銀髪の少女ーふうは、空の色をそのまま写したような天色の瞳で活水を見る。元々普通の人よりも大きな目が一層大きくなっていた。その瞳が戸惑いで僅かに揺らいでいる。


「えっと……おはよう。喞筒くん」


活水の言葉を一旦無視して微笑みで返す彼女に活水は前髪をかき上げて見せた。


「おはよう、ふうさん。ところで僕と……」

「昨日もその前も言った気がするけど、ごめんね。今は誰であっても付き合うとか考える気はないんだ」


先程の言葉をもう一度気を取り直して言おうとする活水にふうが被せて来た。素早く断るその姿に慣れを感じる。


それもそのはず。実は活水はふうに毎日欠かさずナンパしているのだ。毎日のように声をかけるのは数人しかいないが何度もナンパし続けているのは勿論、ふうだけではない。


殆どの人はナンパされたか噂を聞き付けたかで活水を見ると避けるように逃げていく。声をかけることに成功しても先程の黒髪の少女のように怪訝な顔をされるのがオチだ。一度断られても何度もナンパし続ける……それが1-1の女好き担当、喞筒活水である。


しかしふうは毎日ナンパし続けているのにも関わらず必ず向き合ってくれている。


「そうか。それなら残念だ」


活水なりのポリシーとして、食い下がることはしない。明日になれば別であるが。


ふうは少し困ったように苦笑いして、活水の横を通り過ぎた。


他のクラスにいる可愛い子にも同じように毎日声をかけていたが、最近は活水がその子を見つける前に隠れられて姿を見ることもなくなっていた。それを考えれば毎日活水に付き合ってくれるふうは相当優しい。そこが更に活水のツボに入って、ナンパを加速させているという負の連鎖である。


「ふぅ……。今日もダメだったか」


ー明日はもう少し別の方法で……


活水が作戦を練っていると、後ろから声をかけられた。


「君、またやってるの?」

「氷野くん!」


活水は声だけでその人物を当てて、満面の笑みで振り返った。

白髪の少年ー雹牙が呆れ顔をしてこちらを見ていた。どうやら先ほどのふうとのやり取りを見ていたらしい。


「懲りないね」


雹牙から率直な感想を述べられる。淡白な言葉を抑揚のない声で告げられたが、そのガラス玉のように曇りも感情もないように思える炎が燃えるように赤い紅緋色の瞳の奥で優しい光が瞬いているのを活水は捉えた。


「これは僕にとっては挨拶みたいなものなのさ」

「そっか」


肩をすくめて見せる活水を雹牙一瞥すると歩き出した。


「待ってくれよ、氷野くん。どこに行くんだい?」


活水は雹牙の腕を引っ張った。軽い雹牙の体は簡単に引き寄せられて活水の大きな体とぶつかった。


「どこって……トイレだよ」


首を限界まで倒して活水を見上げながら離してくれと雹牙は言う。少しむっとしているようなその顔が可愛くて思わず笑みをこぼした。


「僕もついていくよ」

「……は?」


雹牙はその笑顔に対して低い声で返して来た。僅かに眉間にしわが寄っている。それは思わず出てしまった表情と声らしく、雹牙は慌ててぎこちない笑顔を作る。


「トイレだよ?」

「ああ、トイレだ」

「いや、だから今から僕はトイレで用を足すんだ」

「ああ、知ってるさ」

「一人で行けるから行かせてくれないかな?」

「僕のことは気にしないでくれ」

「いや、だからトイレだって」

「ああ、トイレだ」


雹牙と活水は不毛な会話を続ける。しばらく繰り返した後、雹牙の方が折れた。


雹牙はあきらめたようにため息交じりの声を出す。


「分かったよ。来ていいから、早く行かせて……」


活水はその言葉を聞いて満足して、雹牙を離してその後ろをついていく。


少し疲れている様子の雹牙に活水は声をかけた。


「氷野くん、疲れているみたいだが大丈夫かい?」

「いや、君のせいだからね」


雹牙は即答する。少し活水を睨んだ後、ため息をついて表情を緩めた。


「君はなんでこんなに僕に構うのさ?男子には興味ないって自己紹介の時言ってたでしょ?」


雹牙が活水の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。


活水は目を逸らした。確かに活水は男に全く興味がない。クラスメイトでさえも必要最低限の会話しかした記憶はない。

活水が男に興味がないのは、活水自身の恋愛対象に男は入っていないからである。活水は恋愛に発展しないのならば、会話をしても意味がないと思っている。


しかし、雹牙だけは例外だった。


雹牙が恋愛対象に入っているというわけではない。

恋愛とは全く関係なしに雹牙とは接している。それには、理由があった。


「それは、君がー」


理由を言いかけて、その言葉を一旦飲み込んだ。雹牙の瞳をしっかりと見つめ直す。冷たいガラス玉の奥に燃える優しい炎が確かにその奥には宿っていた。活水の口角が緩む。


「君が僕を救ってくれたからだよ」


雹牙は少しの間の後首をかしげる。


「僕が、君を?」

「ああ」


雹牙は心当たりがないというように首を振った。


「そんな事をした覚えはないよ。申し訳ないんだけど……」

「いや、確かに君は僕を救ってくれたんだよ」


活水は戸惑いのあまりにゆらゆらと視線が定まらない雹牙を見て、目を細める。


ー記憶になくて、いいんだ。君の何気ない一言が僕を救ってくれた。何気ない一言だからこそ、僕は救われたんだよ


記憶の隅から隅まで探っても答えが見つからなかったようで雹牙は申し訳なさそうにもう一度首をゆっくり振った。


「人違い、じゃないかな?」


頑なに受け入れようとしない雹牙。活水は立ち止まって、彼に背を向けた。肩越しに雹牙を見る。


「そうだね、僕の勘違いかもしれない。でも、それでもいいのさ」


用事を思い出したから先に教室に戻ると雹牙に告げて活水は歩き出す。


「え……?」


投げかけられた疑問符には答えずに、活水は歩き続ける。


ー君は知らなくてもいい。僕が君に救ってもらった記憶は、僕の頭の中だけにあればいいんだ。


雹牙に救ってもらったあの日の出来事を思い出す活水の横を茶髪のボブカットの少女が通り過ぎる。

活水は歩みを止めた。


「ねえ、君僕とー」

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