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第45話 TAKE ME HIGHER

 ウーリーンは宿泊所におり、イサドの要請に応じてマトリの所までやって来た。


「空からドラゴンで奇襲……ですって?! 無茶なこと考えますねぇ!!」


 話を聞いたウーリーンは目を丸くする。そこをどうにか、と晴明は頼み込んだ。


「無茶は百も承知だ。だがヤツに接近するにはもうそれくらいしか手段が無い。協力してもらえないだろうか」

「ふっふっふっふ。いいですとも!!」


 胸をどんと叩いてウーリーンはにやりと笑った。


「そういう無茶な作戦、私は大好きですよぉ。やりましょう!」

「本当ですかウーリーンさん、受けてくれるんですか?! 頼んでおいて何なんですが」


 ミシェルが驚くが、ウーリーンは余裕の笑みだ。


「うちのドラゴンはアトルム最速ですから」


 それは信頼と度胸が合わさった無敵の笑顔だった。


「しかし、どうやって戦うつもりなんです? 飛竜というのは呪詛にとても弱いんですよ。目の前まで接近していたら流石に気づかれ、そしてやられてしまうと思うのですが」


 ウーリーンの質問に晴明が答える。

 

「作戦はシンプルです。ドラゴンに私を乗せ、上空から急降下していただきたい。そして地上から500メートリアの高さから私だけが飛び降りる。飛び降りながら私は北斗を呼び出す。北斗の背に掴まりながら、私はジャイルズに雷撃をぶちかます。ヤツがひるんでいるスキに、他の者がジャイルズの腕を切り落とす。これだけです」


 「すんごい作戦」とアリアネルが呟いた。


「晴明さん本当に大丈夫? 500メートリアから飛び降りるって、普通に死ぬ高さですよ?」

「恐らく問題ない。北斗は着地も上手い奴だからな」

「……もし万が一失敗してしまったらどうするのよ?」

「そうなったら終わりだろうな。私がしくじったら、その瞬間負けが確定するだろう」


 アリアネルやミシェルの質問に、涼しい顔で晴明は答える。本気なのか軽口なのか周囲には判別できない。ウーリーンだけがワッハッハと笑っている。


「いいですねー、晴明さん! 度胸のある男はノルトミッツでモテますよ!」

「ははは。それは嬉しいですね」


 周囲では騎士達が弓矢や魔道具の装備を整えていた。晴明が急降下するのを悟られないように遠距離から攻撃する手段をかき集めている。


 晴明は真面目な顔で言った。


「言うまでもないが、私は失敗をするつもりなどない。全身全霊で成功率を引き上げる努力を払う。信じてくれ、と言うしかない」


 この作戦以上のものは無かった。皆、その言葉を信じるしかない。

 

「……晴明さん。お願いですから死なないでくださいよ」


 不安そうにアリアネルが晴明に言った。その肩を叩きながら晴明は笑いかける。


「案ずるな。きっと大丈夫だ。頭の中ではうまくいっている」

「本当に? 信じていいです?」

「もちろんだ。この安倍晴明は40歳で一人前の陰陽師になった遅咲きの男だ。だが仕事の出来はいつだって一流だったのだよ。自分で言うことではないがな」

「……そうですよね。晴明さんは凄腕ですもんね!」


 アリアネルはようやく笑顔を見せた。すると晴明は目をつぶる。


「正直なことを言うとな。この私にも恐怖心はある。なにしろ上空から急降下するのだからな。さすがの私も、急降下の経験はあまりない」


 とても軽い口調で、晴明は己の心を打ち明けていた。


「だがそれでもなお、この私を突き動かすものがある。それが、友である君たちだ。君たちは私を必死に助けてくれた。ならば私も命を賭けて戦わねばなるまいよ」


 そのストレートな言い方にアリアネル達3人は目を丸くするが、それが本音であることはすぐに分かった。


「……しくじんなよ、晴明」

「生きて帰りなさいよ」

「そうですよ! 勝手にくたばったら許しませんからね!」


 ブルーセ、ミシェル、アリアネルは、晴明の背中を叩いて励ました。


 その時、イサドが部屋に駆けこみ、声を張った。


「ドラゴンの準備、万端に整いましたわ。いつでも行けますわよ!」


 その場にいる全員が、ぴりりと引き締まった。


「出番だな」


 晴明は立ち上がる。周囲にいる者はその顔を見つめ、ゆっくりと頷いた。


 騎士達は弓や魔道具を携え、次々に建物から出ていく。その中の一人が晴明に話しかけた。


「我々は晴明殿の存在を気づかれないよう、遠距離からジャイルズを攻撃いたします。ご武運を!」

「そうか。十分に気を付けてくれ。冗談抜きで危険だぞ」

「付かず離れずの距離を保ちますとも。こちらはお任せください!」


 頼もしい言葉を残し、騎士は外へと向かっていく。


 すると、イサドがマトリの4人に向かって声をかけた。


「皆さん。もし……作戦が上手くいったら、まずはジャイルズに降伏するよう言ってほしいのです」

「ほう?」

「捕らえられるものなら捕らえたいんですの。もし仲間や呪物を隠し持っているなら、その情報を聞き出したいんです。だけど……少しでも抵抗したり逃げ出すような素振りを見せたら、その時は躊躇なく命を奪いなさい」


 マトリ達は頷いた。


「──では行こうか。一世一代の大勝負だ」


 晴明が外に出ると晴れ渡った空が見えた。飛翔するにはうってつけの、気持ちのいい青空だった。



 ◆◆◆



「さあ~行きますよ晴明さん。準備はよろしいです?」

「いつでも大丈夫だ」


 ドラゴンの上にウーリーンと晴明がまたがる。ばさり、ばさりという羽の音と共にドラゴンは宙へ浮かび、前進していく。


「このままいったん雲の上まで行きますよぉ! そこから一息に真っすぐ急降下!!」

「よろしく頼む!」

「ふふん、このドラゴン……エルマーボリスはベテランですからね! 大丈夫、大船に乗った気でいてください!!」


 エルマーボリス。晴明はその名に聞き覚えがあった。


「……そうか。これは競竜の時、ブルーセが賭けたドラゴンだったな」


 青と黄のまだらの竜が、逆転勝利を収めたのを晴明も覚えている。


「いいだろう。私もお前に賭けよう、エルマーボリス」


 晴明が呟いた瞬間、ドラゴンは一気に上空へと上がっていった。


 ひょう──と風を切る音が耳に響く。気づくと全ての景色は眼下へ置き去りとなり、目の前にあるのは空と雲だけだ。


 みるみるうちにドラゴンは雲の高さまで上昇する。


 家が、山が、川が、道が、すべてのものが豆粒のように小さく見える。


「さあ行きますよ。飛び降りるタイミングはこっちで教えます。気を付けてくださいね!」

「頼む!」


 ドラゴンが一直線に下降する。晴明の内臓がぶわりと浮き上がるような感覚にとらわれる。体中に風がぶつかり、全身に鳥肌が立った。


(そういえば、私がこの世界にやってきた時もこんな感じだった)


 そう思った。「空の穴」からこの世界にやって来た時、晴明は落下してやってきた。


 だがあの時と今は違う。


 あの時の晴明に意志はなく、驚き、混乱しながら落下していた。だが今の晴明には意志があり、決意がある。


「今です! 晴明さん!」


 ウーリーンの声と共に、晴明はドラゴンから身を投げ出した。


「来い! 北斗!」


 落下しながら、式神である北斗を呼び出し、背中にまたがる。滑り落ちないようにしがみつきながら、迫る地面に目を向ける。


 そこにはジャイルズの姿があった。


 遠くにいる騎士は絶妙な距離から弓や魔法で攻撃を行い、ジャイルズは虐殺呪詛でそれらを迎え撃っていた。


「雷威雷動! 急々如律令!!」


 晴明は叫んだ。その刹那、紫色の雷がジャイルズの体を幾重にも貫いた。


「なん、だと……ッ?!」


 ジャイルズのうめき声が上がる。晴明と北斗が着地するのと同時に建物の陰から声が響いた。


「今だ!! 行くぜお前ら!!」


 ブルーセ、ミシェル、アリアネルが矢のように飛び出して行った。


「氷結術・槍衾(やりぶすま)!!」


 ミシェルが魔法で作った細い氷の槍を飛ばす。針のように細い氷を、ジャイルズは必死に腕で振り払う。


 ジャイルズが苦しみの声を上げながら片膝を突いた。ブルーセとアリアネルはサーベルを構える。


「行くぜアリアネル!」

「合点了解です!!」


 走り抜けながら、二人はジャイルズの腕を一刀両断した。


「────────!!!」


 ジャイルズが気が付いた時には、両の腕は地に落ち、全ては決着していたのだった。それを見つめながら晴明が声を張った。


「終わりだ、ジャイルズ・パラポネラ。降伏しろ! 我々の勝利だ!!」

読んでくださりありがとございます。もう少しだけ続きます

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