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炎上 第8話

「分かってますよマックスさん、そろそろ煙が消えますから、武器があったら構えてください」


 クロリアはそう言いながら、腰に携えた小さな剣を抜き、姿勢を低くする。


 俺がまいた煙はクロリアが言う通り、消えかかっていた、大抵の魔物は煙を見たら逃げ出すか、攻撃されないように暴れ出す。


 だが今回の奴はあまり動かない。


 慎重な性格なのか、それとも暴れる気力がないか、いや暴れる気力はあるな、そう考えると奴はとても慎重な性格なのかもしれない。


「……武器構える前に…ちょっと良いこと思いついた」


 俺がそう呟くとクロリアが振り返る。


「良いこと?」


「アイツを倒す方法だよ」


「倒すって…どうやって、さっきあなたの剣が壊されたばかりでしょ、鉄の剣すら壊す体の硬さですよ」


「鉄じゃないオートマトンだ」


「オートマトン…って鉄より硬いじゃないですか」


「と言うか、どうするんだ、アイツからは逃げられない」


「飽きるまで耐えるしか…」


「耐える?何分いや…何時間だ、それまでアイツと遊ぶってか」


「それ以外に方法はない、さっきのテレポートだって、複数人は無理だし、視界に入ってる場所でしょ」


「俺は同じ魔法を連発できないしな、だからと言って耐久は無理あるぞ

なんならどっちかが囮になって、もう片方が街に戻って援軍呼んだ方がまだいい」


「街まで早くても1時間はかかりますよ」


「だが、飽きるまで耐久はむ…」


『キュるるるる!!』


 魔物の叫び声が静かな森で鳴り響くと、白い煙の中から魔物が飛び出す。


 目にも止まらぬスピードで俺達の目の前に立ち、大きく腕を上げ、今にでも振り下ろそうとしていた。


(シールド)


 俺は咄嗟にシールドを作り頭上に盾を作り出す。


『きゅるぅ…』


 盾を見た魔物は腕を元の位置に戻し、なぜか後ろに引いた。


「なんで…」


「あいつ…壊してもまたテレポートで消える事を理解しているんだ

だから壊さずに様子を見ている、一撃で仕留められるタイミングを探ってるんだ」


 普通の魔物だったら、なんの考えもなしに攻撃する、だがこいつは違う、ちゃんと考えてる。


 知能もパワーもある相手だ、早めに勝負を決めないとキツイな…


「クロリアさん、アイツを倒す作戦がある、と言ったら…どうする」


「倒す作戦?そんな物が」


「話してる暇はない、とにかく時間を稼いでくれないか」


「その間に逃げる、とかじゃないですよね」


「んなわけないだろ、とにかく行くぞ…」


 作り出した盾が自然に消えると同時に、魔物は動き出した。


「時間を稼ぐだけでいいんですよね」


「ああ、頼んだ」


 俺は後ろに下がり、向かってくる魔物はクロリアに任せた。


『きゅるるる!?』


「硬い体だからって、調子に乗らないことね」


 クロリアはポーチから小型ナイフを取り出し、魔物に投げつけ牽制する。


 魔物はそんなナイフに臆することもなく、クロリアに攻撃を仕掛けようとすした。


 それもそうだ、あいつは鋼鉄の皮膚を持っている、小さな鉄ごときでビビる必要はない、そう思っているんだろ。


 だが、ナイフはそう思っているあいつを裏切り、とあるとこに当たった。


ブスッ!?


『きゅらぁぁ!!!』


「ダーツはやった事ないですけど、こう言う時はクリーンヒット、と言うんですかね」


 ナイフは魔物の硬い皮膚ではなく、眼球に直で当たった。


 魔物は苦しみ悶えながら、暴れまくり、近くの木を薙ぎ倒す。


「凄い暴れようだな」


「当たらないように気をつけて」


 時間を稼げとは言ったが、まさか眼球にナイフを突き刺すとは、怖いところあるな、だけどこれ以上のチャンスはない。


「このまま仕留める、収納魔法(アナザースペース)


 俺がそう唱えると、赤い魔法陣が俺の目の前に現れた。


 俺はその魔法陣に手を突っ込み、別の次元に閉まっていた弓と矢を、取り出し暴れる魔物に矢先をむける。


 魔物から離れたクロリアは、矢を構える俺に話しかけた。


「そんな矢で何をする気、目は私が潰したし、ほかに柔らかい所なんて、耳とか口しかないと思うんだけど」


「まあ見てろ、火属性追加(ファイアエンチャント)照準調整(エイムアシスト)


 魔法を唱えると、矢先が赤く燃え始め、矢から赤い射線が映し出される、俺はその射線を暴れる魔物のとある場所に合わせ、弓の糸を引き…息整える。


「なに?緊張してるの」


「実は矢を打った事なくてな」


「…なんで持ってるの?」


「いや、なんかあった、捨てるのも勿体ないし、残してたんだよ、まぁ…心配するな、始めてでも決める時は決めてやる」


『らぁああ!!』


「…今だ」


 俺は弓の糸から手を離す、燃え盛る矢は赤い射線を通り、魔物の鼻の中に矢が入った。


『きゅ?』


バゴーン!?


 爆発音が静かな森で鳴り響き、魔物の鼻が爆発した。


『ギュララァ!!』


 魔物は地面に腕や体を何回も叩きつけ、痛みを紛らわそうと暴れまくる。


「え?なんで爆発したの」


「ほら、さっきクロリアさんが電気当てたら燃えただろ、つまり可燃性なんだよ

で、そんな液体を鼻から出してるって事は…」


「よく…燃えるって事ね、しかし鼻が爆発したのに、まだ暴れるなんて」


 こいつ、どんだけしぶといんだ。


 魔物の中にはとてつもない再生能力を持つ奴もいる、コイツも持ってる可能性がある、眼球潰されても、鼻が燃えても生きてるしな。


 ここは、賭けるしかない。


「ちょっと、何する気暴れる魔物に近づくのは、危険よ」


「少し賭けてくる」


 俺はクロリアの忠告を聞かずに暴れる魔物に走って近づく。


 その足音が聞こえたのか、俺の方を向き、威嚇をしながら腕を伸ばした。


 その腕を縄跳びをする様にバク転して交わし、そっと魔物に触れる。


『きゅる?』


 俺はすぐさまその場を離れ、様子を見る。


「な、何をして…」


 俺の…触れた生物の行動を鈍らせる能力、本当に鈍らせる程度だが、たまに触れた生物が逃げ出す事がある、何故かは知らない


 だけど、ここは逃げ出してくれることを願うしかない。


『キュルルル!!』


「離れてマックス」


「スキル…発動」


 俺に攻撃を仕掛けてきた魔物は、攻撃が当たる寸前のところで攻撃を止めた。


 どうだ…上手くいったか。


 俺のどこからか湧いてくる自信とは裏腹に、心臓の音はドンドン早くなり、自然と呼吸は荒くなる。


 逃げ出す確率はどれほどのものか知らない、確かめたこともないからな、だけど、上手くいく…


「頼むから…行ってくれ……」


 俺は少し後ずさると、魔物は周りを見渡し始め、自分の燃えた鼻を触り、驚いたような表情をすると、大きな叫び声を上げながら、森の中を走って逃げた。


「よかった…上手くいった」


「…何をしたの」


「その前に帰るぞ、あの魔物を本部に報告して、討伐書を出さないと」


「わ、わかりました」


 今起きた謎の現象に、しばらく唖然とするクロリアを連れ、魔物が逃げた方向とは別の方向を歩いた。

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