初めての〇〇〇 第6話
「…な、長かった」
「村長の話は長いの、だから早く出たかったんだけど…」
「察せなくて悪かったな、しかし2時間は喋りすぎじゃないか」
「お爺ちゃんだからね、話したい事が多いの」
村長の長かった長話も終わり、俺は今エルフの里周辺にある森【シャワーフォレスト】に足を踏み入れていた。
わかってた事だが、地面が舗装されておらず、かなり凸凹している、そのせいで歩きづらいたらありゃしない。
慣れていない山道に戸惑う俺をよそに、クロリアは何食わぬ顔をしながら、俺の方を向いた。
「遅いですよマックスさん、喋るのに集中しすぎてるんじゃないんですか」
「これでも全力なんですけどねぇ」
「足が速くなる魔法でも、かけましょうか」
「そこまでしなくていい、俺が頑張るから」
やっぱり故郷だからか、クロリアは当たり前のようにスイスイ進む、こっちはこの時点で疲れてるのに、クロリアは余裕そうだ。
山慣れしてるんだろう、羨ましいよ。
「…と言うかクロリア」
「…………」
「…クロリア?」
「初対面なのに呼び捨てですか、一応私の方が歳上なので、さんをつけてくれます」
「なに?異性からの呼び捨てはむず痒い人」
「いえ、初対面の人に呼び捨てされるのが、むず痒いんです、その…馴れ馴れしい…と言うか…その……慣れてないと言うか……」
「じゃあ…クロリアさん、聞きたいことがある、今のところ変わった所はある」
「え?いや…特にはないです、強いて言うなら…肉食形魔物の跡が少ないぐらいですね」
「どこかの初心者パーティーが無駄に狩りまくったか?」
「いい事じゃないですか」
「確かに人を食う危険性がある魔物とは言え、極端に減ったら生態系が崩れる
肉食系が消えたら、草食系が増えて、森の中を食い荒らす、そして食べれる物がなくなれば、人の居住地に現れ始める」
「…なるほど、そう言う考えもあるんですね、考えたこともなかったです」
「そこら辺の調整は、管理局側で勝手にやってくれるからな、普通に依頼をこなす分には考えなくてもいいだろう」
「そうですか」
しかし、その管理局が管理しているのに、肉食系魔物の数が少ないのは変だな、何かあったのか…それとも地震とかを察知して逃げたか?
「マックスさん、所で…聞きたいことがあるんだけど」
「どうした、俺に答えられる事ならなんでも聞いてくれ…あ、常識内でな」
「マックスさん、どこかのパティーからクビにされたりしましたか」
「え?」
なんでその事知ってんの、確かに追放されたけど、まだ解雇届け出してない。
解雇届けは仕事やパーティを辞めたりクビになったりした時に、1週間以内に出さないといけない書類。
いらない気もするけど…これがないと犯罪が起きたりするらしい。
その解雇届をまだ出してないから、書類上では俺はまだ【イリーザー】に所属しているはず、それなのになんで知ってるんだ…
「…その顔、やっぱり追放されてたんですね」
「まぁ…うんそうだね、しかしそんな事どこで聞いたんだ、書類上では俺はイリーザーに所属しているはずだが?」
「聞いてませんよ?」
「え?じゃあなんでわかった」
「もしかしたら…って思っただけです」
「直感か、なに…今の俺そんなにクビにされてるように見える」
そんなに小汚く見えるのかな、身だしなみには気をつけてるんだけどな。
香水とか買った方がいいかな?あとネイルとかした方がいいかな。
「見た目の話はしてませんよ、マックスさんと初めて会った時、パティー名を言っていなかったので
もしかしたら、と思って聞いたんですけど…」
そう言えば言ってなかったな、これからは気をつけるか。
と言うか、そんな所まで見ての、なんかちょっと怖い。
「なんで追放されたんです」
「それ聞く、それなりにデリケートな話だと思うんだけど」
「コミニケーションは必要だと言われたので」
「…そうだな…方向性の違い?」
「ミュージシャンですか」
「なに?エルフの里にも音楽はあるの」
「バカにしないでください、都会に比べたらチンケかも知れませんけど、立派で楽し…」
俺が住んでる【ダッシュ】は都会なのか、まぁ…福利厚生は整ってるし、いろんなものが街には溢れてる、単純に広い。
謎に行方不明者は多いけど、他の国とか街に比べたら犯罪率は少ない、調べた事ないけど。
「…で、結局なんで追放されたんです」
「スペアリブがうるさかったから」
「お肉が喋るわけないじゃないですKA…」
グゥゥゥウ
「お腹、空いてるの」
俺がそう聞くとクロリアは頬を赤くさせながら、下を向いた。
「…あ〜悪かった、俺はラブコメが嫌いなんだ、さっきの答えを変える消しゴムで消しといてくれ」
「………ん?ラブコメ?」
「単純に俺の実力が足りてなかった、ただそれだけだ、荷物持ちはいらないそうで…」
「実力?…あの……失礼な事を聞きますけど、ランクはいくつですか」
本当に失礼な事聞くな。
ランクは簡単に言うと格、パーティランクと個人ランクの2種類がある、もちろん高ければ高いほど強いとされている。
が…魔王が現れてから、過度なインフレが起きて、正直に言ってランクは気休め程度にしかなってない。
だから、ランクでマウント取るやつは格下と言う印象が俺の中ではある、俺の中でだけど。
「…正直に言って、ランクはあまり頼りにならんぞ、B以上あれば、大抵の依頼は受けれるし
それ以上のランクなんて気休め程度でしかない」
「そうですか…で、ランクはいくつなです」
「君のA超えたS…を超えその先すら超えたS S Sランクだよ」
俺がそう言うと、クロリアは一瞬首を傾げ、奇妙な表情を浮かべる…いや、なんで顔してるんだよ。
元々居たパーティ自体が最高ランクのZ、って事もあって、俺の個人ランクは地味に高い。
だけど、SSSランクは強いパーティーについて行ってれば、これぐらい簡単に到達できる。
だから自慢する気にもなれない。
「…本当ですかそれ… SSSの冒険者なんて初めてみた」
「じゃあ俺が初めてのSSSと言うわけか、どうだ、初めてのSSSは」
「なんか…パッとしませんね」
「酷い!?もうちょっとさ…こう…なんかあるだろ」
「無いです」
ないのかよ…別に無くてもいいけど。
俺は少しがっかりしながら、周りを見渡す。
「………」
周りを見て思ったが、この森なんか変だ。
倒れている木が多く、果実やマッシュルームなどの食べれる物が多くある。
多いならいいだろう、と思うかもしれないが、その数が多すぎる、普通に考えて森にはそう言った物を食べる生物がいる。
だが、俺達はそう言った生物は1体も見ていない、調査を始めてから1時間は経った、それなのに1体も見てないのは異常だ…
「…クロリアさん、少し変ですよね」
「マックスさんも気づきましたか」
「この森…静かすぎる、動物の鳴き声は愚か、足音すら聞こえない」
俺は耳を澄ませるが、聞こえるのは川の音と風に吹かれる木の音だけで、生物の鳴き声も歩く音も聞こえない。
いくら小さな森とは言え生物がいて、生態系を作ってる
それなのに動物の鳴き声が聞こえないのはおかしい。
これは…確実に生態系が壊れている。
「少し、調べる必要があるな」
「そうですね」
「クロリアさんは心当たりある?」
「ないですが、こう言う生態系が壊れる原因として、別の地域から来た魔物や突然変異型の魔物などが挙げられます
もしかしたら、誰かがこの森に別の地域の魔物を放ったのかもしれません」
別の地域か、たまにあるんだよな、元いた地域に食べる物が無くなった魔物が、別の地域に現れ、その生態系を崩すって事が
今回もそんな感じか、おそらく倒れてる木はその魔物が倒したのだろう。
「…魔力を持っていかれるから、あまり使いたく無かったけど、探知魔法を使う」
「探知魔法…ですか、一応お願いします」
「サーチ…」
俺は生物探知魔法を使い、周囲の状況を調べた、すると50m離れた位置に巨大な魔物が居る反応を見つけた。
こいつだな、かなりデカい反応だ、と言うか…もの凄い勢いで、こっちに向かってきてる。
「…まずいな…何かくるぞ」
「何か見つかったんですか…特にそんな音はしませんけど」
「だがすごい魔力量だ、警戒しろ」
「…わかりました」
そう言うクロリアは厳しい表情に変え、武器を構える。
流石に50mも離れている場所だ、流石にもう少し時間が…
「…ん?あいつの反応が……真上にある」
バザハザ
木が揺れるような音が聞こえ、俺は恐る恐る上を見上げた。
『きゅるるる』
するとそこには、緑の森には似合いそうの無い、茶色の猿にも似た血塗れの巨大な魔物が木の枝にぶら下りながら
こちらを鋭い眼光で見つめていた。
『きゅるるる?』
「な、なに」
馬鹿な、反応が見つかった場所は50m先だぞ、そんなに離れていたのに、もう真上に居るなんて…
「見たことない魔物です、これは一体…」
「わからん…だけど……やる気満々みたいだそ」
『キュるるるる!!』
第6話です、今回は魔物との戦いの前で終わりましたが、次回からは魔物との戦いが始まります、話数的に2話あるんですが、もしかしたら最終確認の際に増える可能性はあります。