毎秒記憶喪失なイカれた手術 第26話
「私に提案があります」
カーテンを全開にして入って来たクロリアは、終わった様な重い空気を放つ医者達にそう言う、記憶喪失のクロリアが。
いや馬鹿にしてるつもりはないけど、普通に考えたらそうだろ。
しかし…それはそれで、クロリアが考える提案は気になる。
「すみませんリーダー、コレはいつもみたいにお酒でどうにかなる事案じゃないんです」
「お酒?」
なんでそれは知らないんだよ。
「いや、私が考えたのマックスさんの能力を使えばいけるんじゃないかな、って思って」
「………そう、俺の能力ね………え?今なんて」
俺の能力が使えるって言ったか。
どう使うよ、記憶削除だぞ。
「彼の能力を」
「はい、マックスさんの能力でどうにかなるんじゃないかと」
まじで、なに言ってんだよこいつ、俺の能力が麻酔の代わりになるわけがないだろ。
「あの、どう言う事です」
「マックスさんの記憶削除、もし1秒単位…いや痛みを感じるよりも早く、その人の記憶を消せれば」
「……うん、よくわかんない、どゆことユニティさん」
「え…私に振らないで……まぁつまり、痛いと言う感情が脳に伝わる瞬間にその感情を含む記憶を消す」
「はい、それを毎秒より早いスピードで繰り返すんです」
「…えぇ…(困惑)頭わるわる」
「だけどできそう」
まじで言ってるのかコレを
この頭悪い方法で手術するの…ヤバ。
「ようは毎秒記憶喪失にする事で、痛みを感じた時の記憶が消えるから、その痛みで暴れる事は無くなると」
なんかよくわからないなってきた、つまり…
痛い と感じた瞬間に、その記憶を消すと、『アレ?なにが痛いんだっけ』ってなって。
で、また痛いと感じても、消して、『なんだったけ?』状態にして、また消して『なんだったけ?』消して『なんだったけ?』
を毎秒行い、手術終了まで耐えると……
「…うん、馬鹿だろ、これ本当に言ってる、それ本当にやるの」
「だけど麻酔がない今、やるしかない」
「えぇ…」
「もしかしたら無意識化で暴れ出す可能性があるけど、その無意識すら消せば…」
「消えるかな?」
「消えると思いますよ、今の私も剣の握り方わからないですし」
かなり強引な方法をだな。
と言うか毎秒記憶を消す、しかも数秒ずれたらダメ、って事は俺かなりキツくない。
と言うか毎秒記憶喪失ってなに?
「麻酔がない今、その方法に賭けるしかないですね」
「いや、もう少し考えろ、絶対無理だろ俺の負担も考えて」
「リーダーも少し手伝ってください、皆さん治療方法を伝えます」
マジでやるのコレ。
〜〜1分後〜〜
俺はユニティに渡された手術用の服を上から纏い、患者の頭上に立つ。
「…コレ本当にやるのか、理屈はわかるよ、タンスの角に小指ぶつけた時に、その痛みが治るまで毎秒記憶消して、耐えるんだろ
だけど、どう考えても無理だろ」
「無理でもやる、それが私のモットーです」
「最悪なモットーだな」
でも、やるしかないのか、それに…毎秒記憶を消すとかできるんかな……
「その、練習していいですか、まぁ時間ないぽいんで、答え聞く前にしますけど」
俺は患者の頭に触れ能力を使う。
始めて使った時は理解せずに使ったから全ての記憶が消えたけど、理解した今なら…狙った記憶を消せるはず……多分。
『おいおい、母ちゃん心配するなよ』
何 だ?
唐突に脳内に存在しない記憶が溢れ出したぞ。
『旅行なんだろう、お母さん心配だわ』
『心配されるほどの年じゃないだろ、それに友達もいるし』
『そうかい』
『そうそう、だから俺行ってくるよ』
もしかしてコレは患者の記憶か、もしかして記憶削除の能力って…消す過程で人の記憶を覗けるのか。
「なるほど、大体わかった」
「わかったなら、練習は終わりでいい?」
「いやもう少し時間をください」
俺はもう一度患者の頭に触れる。
『俺は…俺は死ぬのか、なんか麻酔なしで肺を縫うとか聞こえたぞ』
記憶を覗けるから、そのついでに数秒前に考えた事もわかるんだな、で俺は今からその記憶を秒単位で消すと。
…不安しかない、まず本当に上手くいくのか。
「今より手術を行います、まず邪魔にならないよう木を切ります」
「肺の縫合は?いくら浅いとは言え、一度患者の体を切らんとならんぞ」
「安心してください、私の能力は透過です、物質をすり抜ける力、これがあれば切らずに直接縫合できます」
「なるほどな」
「と言っても木は体には突き刺さったままで行います、無理に抜けば血が流れますからね」
「おけおけ」
「では、手術を行いますマイさん、メタルを」
やばい、手術が始まった。
まずは体の一部を鉄に変える魔法を使い、手術の都合上邪魔な木を手術に邪魔にならない範囲で切り始めた。
しかし…なんだろう……
『痛い!!アレ?なんで俺はこんな所… 痛い!! アレ? 痛い!! アレ? 痛い!! アレ?』
なんだろう、毎秒消すのは良いけど、消すたびに声が聞こえてくるから若干うざい。
なんかおんなじ事ばかり考えてるから、頭おかしくなりそう。
早く終わってくれ…
「心拍数は」
「ちゃんと聞こえています、ただ…安定はしてません」
「だろうね」
聴力を強化する魔法を使って、患者の心拍数を聞いているのか、索敵ぐらいしか使い所ないと思ってたけど、こんな事にも使えるんだ。
死んだふりをよくする魔物が出たら、今後使ってみよ。
「よし、今から傷口の縫合を行います、モナさんは血を回収してください」
「わかってる…が……型が合わない」
「早く探してください、他の方は血をタオルで止めてください」
ユニティは患者の服を切りながら、モスキートヒューマンのモナに命令を飛ばす。
モスキートヒューマン、蚊の力を持つ種族で、空を飛び生物の血を吸う。
この種族を見るのは始めてだが、医療現場では当たり前らしい、血の…輸血ができるのはこう言う種族でないとできないとか。
モナは蚊を操ることができ、その蚊を使って血を集めているそうだ、なんか…手術のあと全身が痒くなりそうだな。
「よし、次は肺です、気をつけて慎重に木を取り除いて……ん?」
「どうしたユニ」
「いや、なんか…この人のお腹が動いたような……」
【グゥゥゥウ】
腹の音にも似た異様な音が、患者の腹から鳴り響いた、こんな時にお腹が鳴るとか、緊張感が無くなるな。
と言うか鳴るもんかね、こんな状況で…
【グゥゥゥウ】
「……異様だな」
「ですね、とても手術中とは思えない」
「それに、患者が微妙にびくびく動いてる、本当に大丈夫なのか」
「モナさん手術中ですよ、集中してください」
「わかってる、今血を探してるんだ、その間俺は暇なんでな」
「…待ってください、患者の内部に生命体の呼吸音を探知しました」
患者の心音を聞いて来た医者が突然そんな事を言い出した、患者の内部に生命体の呼吸音って、ネズミの踊り食いでもしたのか。
と言うか…内部に生命体………なにか嫌な予感がする。
「ユニティさん手術を中断してください」
俺はふとエーゼが言った魔物の事を思い出し、手術を止める様に言う。
「なに言ってるの、こんな状態で中断できるわけが…」
【グルルルルルル!!!】
患者の腹から聞こえる声は酷くなる。
バグ バグ バグ バグ
【グラララァ!!】
患者の腹に小さな穴が空き、その穴から小さな子龍が飛び出した、10cmほどの小さな子龍だが、まるで大人の龍のように威嚇する。
「な、なんだこいつ」
「患者の中に龍が!!」
「まさか、デストサイト」
【グルルルル】




