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最悪は押し寄せる物 第23話

「あぁあ…あ…」

「痛ぇ…痛ぇよ……」

「血が 血が…」


 事件発生から5時間が経過した、それなのにこの緊急治療所には怪我人が運ばれてくる。


 よっぽど人手が足りないんだろうか…医療経験全くないど素人の俺が、傷口を縫合したりしている、大丈夫なのかこれ。


 いや、タオルを洗うぐらいならわかるけど、傷口の縫合とかプロがやらないといけない事なのでは……


「まぁ、緊急自体だから文句は言えないけど」


「マックスさん、口じゃなくて手を動かしてください」


「あ、はい」


 怒られた。


 こう言う時は治療魔法とか使いたい所だけど、使われている人間は限られているし、強力な回復魔法を使うやつはその分お金が高い。


 下手に強力な上位薬(ハイポーション)を使ったら、中毒になる可能性もあるし単純に高い。


 そのため、こう言った魔法や薬は使わず、手術をする…らしい、こう言う現場始めてくるから良くは知らないけど。


「それぐらいで良いです、次は頭に冷えたタオルを置いて…」


「痛テェよぉ……痛ぇ…」


「待ってください、今……」


バン!? 「緊急治療所と言うのはここか!!」


 緊急治療所の入り口を鎧を纏った騎士が開き、怪我人を運び込んできた。


 怪我人は貴族服を見に纏うエルフ、頭から血が流れていて、至る所がボロボロだ、服を見る限りそれなりに偉い人に見える。


「また!?」


 ユニティは俺に命令を飛ばしながら、怪我人の治療を進めつつ、運ばれてきた怪我人を運ぶ。


 随分前からこんな感じだ、5時間ぶっ通しでやってるから、俺もそろそろ休みたいんだが……そんな事言える状況でもないな。


 とっとと火傷に冷えたタオルを置いて次の人に移ろう。


「冷ッテ…」


「我慢しろ、ユニティさん次は…」


「えっと次はね…」



「おい、この者はどこに」


「その人は…えっとえっと、ベッドの上に」


 ベッドって…


 俺は気になったことがあり、当たりを見渡す、やっぱりそうだ、これは不味くないか。


「ユニティさん、ベッドもう無いです」


「え!?もう」


 まずいな、もうベッドが足りない、それに運ばれてる人はエルフだから、俺の収納魔法(アナザースペース)で送れない。


 想像はしてたけど、本当に起こるなんて、早く援軍と言うかそう言うのは来ないのか…


「そんな、じゃ…じゃ敷マットは」


「ないです」


「マットもないの、し、仕方ないですね、その人を地面に」


「ふざ…けん……な……俺が地面で、なんでそいつらがベッド…なん……だよ」


「それは……」


 こいつ、こんな状況で何言ってだ。


「俺は怪我人なんだぞ……なんで…」


「あまり動かないでください、その傷では…」


「だったら!!ベッドを用意しろ!!」


 ガシャン!?


「ヒッ」


 怪我人はユニティを睨みつけながら、医療道具が置かれた机を蹴り飛ばした。


 あいつ…この状況がわかんないのかよ、確かに大きな怪我なのはわかるけど、ベッドは足りないし、殆どの人がベッドが必要な状況でユニティも忙しい。


 そんな事見ればわかるだろうに……


「いい…から……早くベッドを用意しろ!!」


「そのですね……足りない状況でして」


 こいつこんな時に…


「ママ…寒いよぉ」

「お医者様、この子の様子が」


「アガガガガが」

「やべぇよユニ、洗脳されてる奴が目ぇ覚ましやがった」

「手が空いてる人!!こっちに」


「おい!!しっかりしろ」

「ダメだぁ……もう無理だ」

「ふざけるなよ、旅行の終わりで死ぬとか、そんな展開誰も望んでねぇんだぞ!!」


 なんだ…これ、いきなり緊急治療所が騒がしくなった、と言うかコレ…かなりヤバい状況だろ。


 どうするんだコレ、ユニティは貴族を対処してるのに、殆どの人が危険な状況で人手が足りてない。


 こうなったら俺が動くしか無い。


「誰か来てくれ」


「わ、わかっ…」


「こっちも来てくれ」


「やばいよこの子、心臓の音が弱まってる」


「兄貴の兄貴の様子が!!」


 いや、待てよ、俺は…どこに行けばいいんだ。


 暴れてる洗脳者の所?

 腕がない子供の所?

 目から血を流す女の所?

 膝に矢が刺さった騎士の所?

 さっきから目を開かない老人の所?


 旅行者?少女?赤子?妊婦?障がい者?貴族?猫?俺は一体どこに行って、誰を救えばいいんだ。 


「早く…早くベッドを……」


「で、ですから」


「俺はフェルト家の長男だぞ…」


 いや、よく考えろ、医療経験がない俺が、行ったら時間がかかる、だったら……俺が今やることは…


「お前!!いい加減しろよ」


 俺は止まっていた足を動かし、その貴族に近づく。


 この行動が今自分がするべき事なのか分からないけど、突っ立って見てるよりマシだし、こいつをどうにかしないと。


「なん…だ……貴様…」


「お前、この状況がわかんないのかよ、こんな現場は初めてな俺でも、この状況は危険な事ぐらいはわかる」


「マックスさん」


「黙れぇ…俺は怪我人だ」


「怪我人なら何してもいいのかよ」


「この……俺に…逆らう気か……この俺はフェルト家の……」


「そんな偉い人なら、周りをよく見て考えろよ、お前に人手を使ってる場合じゃないんだ、下手したら人が死ぬんだぞ」


「…黙れ……そんなクソ…より…も……俺の命の方が上だ!」


「お前ッ!!」


 俺は拳を握りフェルト家長男を殴ろうとしたが、殴る途中でそいつの怪我が視界に入り、俺は拳を当たる寸前で止めた。


 よく考えろ俺、こいつも怪我人なんだ、ここで殴ったら怪我が悪化するかもしれない、そうなれば俺の責任だ。


「き、ききき…貴様……この俺に……暴力を振るおうとしたな…許さんぞ貴様……」


 許さないって、こいつどの立場で言ってるんだよ、それに『そんなクソどもより俺の命の方が上』って貴族が言うセリフかよ。


「…おい騎士!!この…男を殺せ……」


「は?何言ってんだ」


「俺の…命令が……聞けんのか……俺は…次期長候補のフェルト・チップだぞ!!」


 知らない。


…まぁ、こんなだけ威張るってことは、普通に偉い人なのだろう、それなのに事件発生から5時間後に騎士に運ばれたって事は、召使いとかに置き去りにされ感じか


 そうだったら、こいつ普段からこんな感じなのか、だったらヤベェな。


「…この俺を…コケに……しやがって……」



「くそ、こいつ静かに」

「アガガガガガ!!!!!!!!!」

「誰か早く拘束具を!!」


「あぁあ…あ…」

「痛ぇ…痛ぇよ……」

「血が 血が…」


「え…えっと……あわあわあわ……」


 気のせいか、緊急治療所がさっきより酷くなってる、ユニティの動きが止まって、的確な指示が出ないから状況が悪化したのか。


 まずいまずい、どうする、ユニティはあわあわしてどうにもならないし、他の人は忙しそうだし……


   トントン トントン


 最悪な状況でも、更なる最悪は訪れるようで、緊急治療所の入口には、見るからにヤバい傷をしている患者を抱えるクロリアの姿があった。


 患者の流れる血は酷く、抱えているクロリアも血だらけになるほどだ。


「すみません、この方の治療をお願いします」

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