私の中の彼女が死んだ 第11話
「さあ、最初で最後の戦いを始めよう」
魔王を名乗る人形のスライムは走り出した。
「これが里を襲った魔王」
「クロリアさん、ボーッとしてる場合じゃないですよ」
くそ、旅行に来ただけなのに魔王と戦うことになるとか…
「どんな不幸だよ」
俺は剣を抜き、近づいてきた魔王を切る…が……まるで流れる滝を切ってるように、剣は魔王の体をすり抜ける。
「嘘だろ」
見た目通り体が水でできてるせいで、全然切れない。
「残念だったな、こい 海神伝剣」
ワルスSがそう言うと手の日から、三又槍を作り出し握った。
「盾」
俺は一歩下がりながら魔法で盾を作り、魔王の攻撃を防ごうとした、だが盾は1撃で破壊され、ガラスのように散らばった。
「マジかよ…」
「頼りない盾だな」
「う、テレポート」
テレポートで魔王の攻撃を回避し、魔王の背後に移動する。
「(もらった)」
俺はそう思いながら、背後を切り裂こうと剣を振るった瞬間に、魔王の姿が消えた。
「なに!?どこに行った」
テレポートか、だとしたらどこに…
「危ないマックスさん」
焦るようなクロリアの叫びに、反射的にテレポートを使い、クロリアの真横に移動する。
「くそ…仕留め損なったか」
「あ、危なかった…」
さっきまで俺が居た所に魔王が居る、あのままテレポートを使わなかったら、容赦なく切られてた。
やっぱり魔王ってだけある、一筋縄ではいかなさそうだ。
「…コレが魔王の力ですか」
「体が水だから攻撃は全て無効化される、多分火の魔法なんかもってのほかだろうな」
「物分かりがいいな、だから諦めて降参しろ!!」
ワルスSは体を液状に変えると、地面に潜った。
地面に潜るのは卑怯だろ。
「クソ…元々攻撃できないのに、もっとしにくくなった」
「マックスさん…少しジャンプしてください」
「え?なに、こんなタイミングで」
「いいから早く20秒ぐらいでいいですから」
「いや、20秒は無理だって」
「いいからジャンプ!!ジャンプ!!」
せめて作戦を教えてくれよ。
だけど何か考えがあってのことだ、大人しく従おう。
「…ハイジャンプ、落下速度低下」
俺は魔法でジャンプ力を強化して、5mぐらい高い所までとんだ、そして落ちるスピードも下げたため、枝から落ちる葉っぱ並みのスピードで落下する。
しかし、久しぶりに使ったからか、凄い気持ち悪い、後なんか下にいるクロリアが『そんなこともできるんだ』みたいな表情で俺を見てくる。
「よしこれで…エレキウェブ」
クロリアが地面に手をつけると、電気がまるで蜘蛛の糸のように地面に広がった。
魔王の体は水で出来てる、だから電気を使えば水が水素と酸素に分解されて、かなりのダメージを与えられる。
それで俺に飛べって命令したのか。
バチバチバチ!!
「痛ってェェェェェェ!!」
地面の電気に魔王が引っかかり、地面の中から現れ、急いで電気の範囲外に逃げる。
やっぱりアイツ電気が苦手なんだ。
「危ねぇ、死ぬ所だった」
「逃がさない、ライトニング」
クロリアの手のひらに魔法陣が浮かり、その魔法陣から雷が飛び出し、背中を見せる魔王に追撃する。
「舐めやがって…海神伝剣」
魔王は急いで三又槍を作り出し、クロリアの雷を弾く。
「チッ」
惜しい…あのまま当たってたら上手くいっただろうに。
だけど今のアイツ隙だらけだ。
「テレポート」
「あ?」
俺は上空から魔王の懐に移動し、魔王が握りる三又槍を弾き飛ばす。
コレで防ぐ武器は消えた、このままコイツを…
「武器が無くなったらって、テメェは攻撃できねえだろう」
それができるんだよな…
「凍結」
俺は氷の魔法を使い、ワルスSの腕を凍らせ、その腕を切断する。
「なに!?」
やっぱり…コイツの体は水で普通の攻撃は効かない、だけど水と同様に電気で分解できるし、魔法で凍らせれる。
体が水で攻撃が効かないと思っていたが、ちゃんと効いてよかった。
「…腕が…俺の腕が……」
無くなった腕を見たワルスSは驚き、凍った切れ目に触れる。
俺はその間に下がっとこう、一応…人の体内に入って操れるしな。
「やりますねマックスさん、魔王をここまで追い詰めるなんて」
「クロリアさんも」
だが、ここで終わる気はしない、魔王だしもしかしたら本気を出してない、なんか…そんな気がする。
こいつは、まだ何かを隠してる。
「痛てて…って痛覚無いんだけどな」
「電気で苦しんでなかった」
「電気は痛いんだよ」
やっぱり電気は効くんだな、しかし…
「ウグゥ」
「た、助けてクレェ」
「誰かこの子を」
このまま戦ったら今倒れている人を救助できない。
この戦いが長引けば、怪我が広がり治癒魔法ではどうにもできなくなる、そうなったら…まだ治療できてない人は死ぬ。
「………なあ魔王よ、ここは一旦引いてくれないか」
「な!?何を言ってるのマックス」
俺が助けた人は全体に比べればごく僅か、全員を救うためには…魔王と戦ってる場合じゃない、今すぐに治療しないと死ぬ。
ここは引いてくれる事を…祈るしか……
「どう言う意図だ?テメェらはこのままいけば……俺を殺せる」
やっぱりコイツ…何か企んでる。
その企みが何かわからないが、このまま戦うのは危険だ。
「このまま戦えば、救える命も救えない、それに…本気で殺せるとは思ってもない」
「ほう?どう言う意味だ」
「お前…何か企んでるだろ」
俺がそう効くとワルスSは鼻で笑いながら、不気味な笑みを浮かべる。
やっぱりそうか…
「実はな…俺は体温を自在に操れるんだよ、で体温を高温にすれば、凍った腕だって元に戻る」
「俺の凍結は効かないってか」
となると…クロリアに任せて、俺は援護に回った方がいいな、電気系の魔王は覚えてない、数年前に雷に当たってからのトラウマで。
「効かないのにわざわざリアクションを取ってくれるなんて、優しい所があるんだな」
「俺は優しいぜ、嘘だけどな」
「だろうな」
「と言うかいいのか、切り落とされた腕は分離されたんだぜ」
「それがな…まさか」
「アガ!?」
後ろからクロリアの叫び声が聞こえ、後ろを振り向くと、謎の液体がクロリアの体内に入っていくのが見えた。
なんだアレ…いや違う、アレまさか…俺が切った魔王の腕!!
「やっぱり俺は非戦闘向きだわ、こう言う操って殺し合いをさせる方が割に合ってる」
「お前!!」
「ア!?頭が…」
クロリアは頭を抱えながら、獣のような唸り声をあげ、悶え苦しみ、5秒もしないうちに、パタリと動きが止まった。
そして虚な目をさせながら、腕をダランとさせ天を見る。
「く、クロリア…」
虚な目をしたクロリアがポタポタと唾液を出しながら、俺に剣先を向け、ゆっくりと近づく。
「さてと、クロリア」
「…は…………い…」




