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川が汚れをうつす 第9話

〜森の中〜


 森林調査の依頼中、謎の魔物に襲撃に遭遇し、調査を中断して本部に戻って来た。


…報告書に書くにはコレぐらいでいいだろうか。


 結局あの魔物がなんなのかわからなかった、ただ…分かってるのは、奴はこの森の生態系を壊した、その証拠に調査を進めてから奴以外の生物を見ていない。


 食われたか逃げたかのどちらかだと思う。


「…マックスさん、あの…1つ聞きたい事があります」


「ん?なんだ、言っとくが…近づくなよ」


「はいはい私は今臭いですよ、それに乾いて来たせいで気持ち悪いです、なんかタオルとはありません、最悪水魔法でも…」


「どっちともあるけど…ここでやるか、一応ここ魔物が生息する危険地帯なんだけどな」


「分かってます、だけど今すぐ体を洗いたいんですよ、ベタベタでネチョネチョで、私に効かない毒とは言え、少し気分悪いですし」


「可燃性だから下手したら静電気で燃えるかもだしな」


「…確かに」


 水か…そのままも危険だし……


「そう言えば調査中に見つけた川があったな、一旦そこに行こう、服は俺のなら貸してやる」


「…………」


 クロリアは何か言いたそうに口を閉ざし、その場に立ち止まった。


「なんだよ」


「…女性用の服は……」


「ねぇよ、逆になんであると思ったんだよ、男性用で我慢しろ」


「そうですか…本当にないですか、意外と…女装癖があったりとか」


「ないよ、そんなに男の服が嫌なら、ずっとそのままでいろ」


「…ぐぬぬ、背に腹は替えられぬって奴ですね、すみませんが服を貸してください」


 正直に言って人に服は貸したくないんだが、緊急事態だし仕方ない。


「わかった、だから川に行くなら早く行こう、俺も休みたいし」


「やっとこのネバネバから解放される」


 クロリアはホッとした表情を浮かべると、少し小走り気味に川の方角まで走った。


 走りたくなる気持ちはわからなくもないが、少し後ろの人の事も考えて欲しい、森の中で全力ダッシュされると、それを追うのも疲れる。




◼︎



 クロリアのダッシュを全力で追っていると、5分ぐらいで目的の川に着いた。


 濁りはなく透明感がある、こんなに綺麗な川は初めて見るかもしれない、ただ…綺麗すぎて魚が全然いない


 清いだけの水に魚は住まず、と言う言葉があるが…おそらくこの事を言うんだろう、つまり綺麗なだけの川。


「あの…マックスさん」


 ネバネバのクロリアが頬を少し赤らめさせながら、喋りかけてきた。


「なんだ」


「そこの岩の裏に居てくれませんか、流石に…あなたより長く生きていても、裸を見られるのは…恥ずかしいと言うか……」


 エルフの…裸か……


 ま、まぁ、気にならないと言えば嘘になる、俺まだ22歳だし、童貞だし逆に気にならないわけがない。


 できれば見てみたいが…


けど…それで変な噂を広げられるのは嫌だ

うん…ここはクロリアの要求に従おう。

 

「わかった、さっきの奴が生態系を壊したとは言え、魔物はまだいる可能性があるから、声が聞こえる所にいる」


「…覗きませんよね」


「…………」


「…ん?」


「の、覗くわけないだろ」


「だったらなんですか、その間は」


「覗いた所で、この先何もないだろ、あったとしても俺の信頼度が下がるだけで、上がらない」


「…そう言うなら……信じますよ」


「おう信じろ信じろ」


 クロリアはそう言うと1人でに服を脱ぎ出した、俺はあらぬ噂を撒かれぬよう目を瞑り、近くの岩の後ろに隠れた。


 なんかの間違いで、一緒に入れたりしないかな。



 しかし…なんだろう……


「……………空が青いな…」


 こう言う待ち時間は暇なんだよな、別に戦いの日々を望んでるわけじゃないけど。


「……」


「大き〜な森わ〜〜♪涙を超えて♪」


 岩の後ろからクロリアが楽しそうに歌っている声と水飛沫の音が聞こえる、凄い…楽しそう。


「…その歌、エルフの里に代々伝わる歌?」


「いえ、なぜか気づいたら歌えるようななっていまして」


「ふ〜ん、いい歌だね」


「そう…ですか、あ、そう言えば聞きたいことがあります」


「なんかあるのか」


「なんでさっきの魔物にトドメを刺さなかったんです」


 トドメか…


「いや、刺せないだろ、魔物の皮膚は鉄よりも硬いオートマトンの剣すら効かなかった、あれ以上の強度を持つ剣は持ってない」


「そうですか、しかし…大丈夫でしょうか、もしあの魔物が人里に降りて、その里の人達を襲ってたりしていたら」


「そうだったら大変だが、それは別の話で俺達の話じゃない」


「そうですけど…だけど……」


 バシャ バシャ


 クロリアが水で遊ぶような音が聞こえる、楽しそう……でもないな、自分の怒りや不安を水にぶつけている感じの音た。


 おそらく、あの魔物が自分の住む里を襲撃している事を考えたんだろう…多分……


 いや…思考が読めるわけじゃないから、必ずそう思っているとは…言えない、けど多分思ってる。


 こう言う時に気の利いたセリフが言える男が、いい男なんだろうけど、何にも浮かばない。


「…なんでしょうか……その……」


「…もう終わった事だ、これ以上考えても意味がない、どう頑張っても魔物は倒せなかったし、俺達は頑張った

森林調査としては大成果だ、俺達がここで奴の存在を調べなかったら、もっと酷い被害が出てた」


「そう…ですかね」


「ああ、俺達がこの依頼をやったから、奴の調査ができる、調査が進めばその内倒し方がわかる

俺達が生きて帰ってこなかったら、その調査すら出来ず、倒し方も分からなかった」


「…そう言うものなんですかね、私そう言うのあまりわからないと言うか…」


 まぁ、わりかし嘘ではない、かつて森林調査をサボっていた国があり、その国は突然現れた巨大な龍に壊され、国民は全滅したと言う。


 調査をちゃんと行い、その龍をいち早く見つけていれば、国が無くならずに済んだ

 とまでは言わないが、全滅は無かったと言われている。


 今回俺達が見つけられた事で、さっき言った国みたいに全滅する可能性が比較的少なくなった。


「うん、俺達はいい仕事をした、だから早く報告しに行こう」


「そうですね」


 もう体を洗い終わった所か、そろそろタオルと服を出すか。


収納魔法(アナザースペース)


 俺の手元に魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣に顔を突っ込み、別の次元に閉まったアイテムを見る。


「どこかな…」


「また、その魔術ですか、思ったんですけど…それ禁止になってる魔術じゃないんですか、確か…不法侵入に使えるとかなんかで」


「それは、別の魔術だよ…これは前々から描いてある魔法陣と、こうやって作り出した魔法陣の間の空間を繋ぐ魔術

まぁ…アレだよ、その…なんだ、例えが出てこなかった」


「よくわかりませんけど、違法じゃないんだすね…いや、ちょっと待ってください、それ使えば逃げれたじゃないですか」


「制限があるんだって、それに遠い所に魔法陣があるし、1箇所しか作れないとか、いろんな制限がある」


「それで、逃げなかったんですね」


「そうそう、別の次元にあるからな」


 まぁ、別の次元…って言ってるけど、単純に自宅に繋がってるだけなんだけど。


 と言うか、使ってる俺の姿が見えてるって事は、こいつ…いや、考えるな今俺の真横に全裸の女が居るとか。


「さて、服服ふ…ん?…アレは……」


 魔法陣の先にある、俺の部屋には、箒や雑巾で部屋の掃除をしているカノンさんの姿があった。


 そう言えば…掃除係の人を派遣するって言ってたな。


 なのになんで、カノンさんが掃除してるんだ、まぁ別にいいか俺の部屋だし、カノンさんなら任せられるし。


「へい、カノンさん」


「ひゃん!?」


 話しかけられた事に驚いたカノンさんは、ビックリして手に持っていたバケツをひっくり返し、その水を頭から被った。


 …どうしてそうなった。


「…痛てて…って、誰かと思ったらマックスさんですか、いきなり驚かさないでくださいよ」


「いや、驚かすつもりはなかった、だけどなんかごめん」


 俺はゆっくりと話すため、魔法陣を乗り越えて自分の部屋に入った。


「あ、掃除したばかりなのに、土足でごめん」


「いいですよ、わざとじゃ無ければ」


「アハハ…それよりなんでカノンさんがここに、掃除は係の人に任せるんじゃないの」


「私の手が空いてましたから、掃除係の人にお金払うよりも安く済みますから」


「…大丈夫それ、お金払おうか」


「構いませんよ、で何か用ですか」


「いや、ちょっとね、向こうで出会ったパーティの子が少し…濡れてと言うか…ネバネバと言うか……」


 そう言うとカンナさんの目つきが鋭くなった、え、何かした俺…


「問題起こしてませんよね」


「いや、起こしてないですよ、少し返り血を浴びたというか、そんな感じで服が必要なんですよ」


「そう言う事でしたか、私てっきりマックスさんが水をかけたのかと」


「流石にそんな事しないよ」


「わかってますよ、言ってみただけです、で…服でしたよね、少し待ってください」


 カンナさんはそう言うと、俺の部屋を我が物顔で歩き、奥の棚から明らかに俺が着ないような、女性用の服を取り出した。


 え…なに…あの服。


「…こちらですね」


 そう言うと、その服を綺麗に畳み、俺に渡してきた、が…俺はその服に心当たりがない、もしかしてカンナさんの服かな。


「あの…別にカンナさんの服じゃなくてもいいんですよ」


「え?私の服じゃないですよ」


「じゃあ、誰の」


「マックスさんの物じゃないんですか、棚の中にありましたから、私てっきり」


「いや、全く心当たりないんだが……」


「でしたら、元彼女さんとかじゃないですか、それか…悪質なストーカーとか」


 ストーカーか…心当たりは全くないけど、服はかなりいい物だし、俺が着るわけじゃないから、別にいいか。


 少し怖いけど……


「一応念のために、設備を強化しておきますね」


「ありがとうございます、せっかくのオフなのに、隅々まで…」


 俺は服を受け取り深々とお辞儀をした。


 川で全裸のクロリアが待っているから、早く戻ろうと思ったが、魔物の報告の方を早めにしておいた方がいいと思い、カンナさんに今回の魔物について報告した。


 これで、あの魔物の調査依頼が国から出るはず、それを誰かがやって、倒し方が開発されれば、大きな被害を防げる。


 オフのカンナさんに仕事を増やしてしまったのは悪いが、魔物の報告を任せ、川に繋がっている魔法陣の中に飛び込んだ。

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