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女優の義妹と声優の義兄の熱愛報道

女優の義妹と熱愛報道!?いや、誤解………じゃない!?

作者: finneces

細かい設定など気になる部分の多いでしょうが読み飛ばしてもらえると幸いです

()()と出会ったのは五歳の頃。

両親に連れられて行った山へのキャンプ。その帰り道。


「お母さん、誰か泣いてるよ」


泣き声に導かれて、道をそれて少し歩いた茂みの奥。

そこにいたのは布に包まれた見るからに生まれたばかりの赤ちゃん。

小さな小さな女の子。


母さんは顔を真っ青にしてケータイでどこかに電話をかけていた。

そんな母さんを横目に、僕は赤ちゃんの顔を覗き込み柔らかい頬を指でつついた。

つつき続けていると赤ちゃんはいつの間にか泣きやみ、俺の指を小さな手でつかみ微笑んだ。


そしてそんなかわいらしい姿はいともたやすく俺の心臓を撃ち抜いた。


その後父が車で僕たちを拾い、警察につくまで赤ちゃんは僕の指を離すことはなかった。

まだ幼かった俺にとって、そんな赤ちゃんの仕草は自分を頼ってくれているようでとてもうれしかった。

また、兄弟がいなかったこともあり妹にしたいと強く思った。


だが、棄児を発見した場合、警察や児童相談所、福祉事務所などに届け出なければならないらしく、電話でそのことを確認した母さんは警察に赤ちゃんを引き渡そうとした。


それに駄々をこねたのが俺だ。「こいつは僕の妹だ!」と警察署の前で泣きわめき、大人たちを困らせた。

勿論そんな駄々が通用するはずもなく、俺の指から赤ちゃんの手ははがされお別れとなった。

赤ちゃん(あいつ)と一緒じゃなきゃ帰らない」と警察署の前からてこでも動かなかった俺を両親は最終的には無理やり引きはがし家路へとついた。

赤ちゃんを連れて帰ることができなかった僕は車の中で泣き続け、困り果てた両親は条件を満たせば赤ちゃんを引き取ってくれるといった。

その時の言葉は今でも覚えている。


「あの子を引き取るということはそれなりの責任が伴うのよ」

「………責任?」

「そう。引き取るからにはあの子を大人になるまで面倒見続けないといけないの。ただごはんと住む場所があればいいというわけじゃない、あの子が将来苦労しないように、いろんなことを教え、愛し、守らなければならない。そのためにはたくさんの時間とお金が必要だわ。そして悠が引き取るというからにはそれを悠が用意しなければならない。それができるの?」

「できる!!」

「本当に?愛情もあの子を育てるお金も悠がすべて用意するのよ」

「うん!!」


五歳の俺は母さんの言葉の半分も理解できていなかったが、彼女を引き取りたい一心で頷いた。

そこからは大変だった。


普通子供がお金を稼ぐことなんてできるはずがない。だが、例外もある。

それが子役だ。

母さんは俺にたくさんの子役オーディションを受けさせた。そして、役を勝ち取りお金を稼がない限りあの子があなたの妹になることはないとも言った。

俺はたくさんのセリフを覚え子役を勝ち取ろうと必死に努力した。

遊ぶ余裕なんてなかった。つらいこともたくさんあった。だが、妹のために弱音を吐くわけにはいかなかった。

何回もオーディションに落ち、落ち込む暇なく新しいオーディションを受けること十数回。

やっとのことで映画の子役を勝ち取った。出演時間は短かったが確かに俺が勝ち取った初めての仕事だった。


そこから人気子役までとはいかないものの少なくない仕事を請け負い務めてきた。

そしてそんな俺の努力を認めてくれたのか、彼女を拾ってから一年後両親はあの子を里親として引き取ることになった。


すぐ引き取らなかったのには訳があり、普通棄児の身柄は、児童相談所の管理下に置かれ、児童相談所長がマスコミにリークしたり近隣の産院、民生委員などに協力を要請し行う実親探しを行う。そして大抵は実親が見つかる。あの子()も例外ではなく実親が判明したそうだが実親と連絡は取れず一年以上が経過したことで養子縁組候補児となったため、俺の覚悟を確認した俺の両親によって引き取られることになった。


努力が実り自分の元へと戻ってきてくれた妹を俺は大層かわいがった。

言い方は悪いが俺にとって妹はつらい思いをして手に入れたお宝のようなものだった。

時に厳しく時にやさしく、長男として、責任あるものとして彼女と接し、愛し、時を重ねた。


小学校へ行っても学校から寄り道することなくまっすぐ家に帰り、柚との交流に時間を注いだ。

柚の養育費は実際は親が全額払っていたのだが、そうとは知らない俺はお金を稼ぐため子役の仕事も続けていたため学校での友達は少なかったが不満はなかった。

柚が小学校に上がってきたときはそれがうれしくて、一年の教室へ何回も押しかけたりもした。


中学生になると、学校が違うことや勉強のためなどで柚との交流は減ってしまったがそれでも週末になれば家族で旅行へ行ったりと楽しい時間を過ごした。

このころになると子役の仕事はなくなり、俳優として働こうにもなかなか仕事を獲得できず苦労した。


高校生になると柚と俺の交流はめっきりと減った。

事務所に勧められた映画の吹き替えを務めたところ、声が良いと監督に褒められ、声優としての仕事が増えていったことや、柚自身の友達交流や部活などで触れ合う機会が減ったのもそうだが、反抗期か柚が俺を避けるようになってしまったのだ。

反抗期を迎えるほど成長したことに感慨深さを感じるとともに、ちゃんと話してくれない柚に悲しくなったりもした。


そしてある日柚がびしょ濡れになって帰ってきた。

何があったのか問いかけても答えてくれず、部屋にこもってしまったので、俺は様々なつてを使い柚の状況を調べた。

そして柚がいじめられていることを知った。


柚は身内びいきなしに美しく綺麗な女性になった。始まりはその美しさをねたんだ部活の先輩だったそうだ。そこから徐々に広がり柚は孤立していったのだと、呼び出した柚の友達が申し訳なさそうに話した。

俺は猛烈に怒った。柚を虐めたやつらにではない。反抗期だからと柚との交流を怠り、柚につらい思いをさせている自分にだ。

俺は話を聞いた次の日に柚の中学校へ乗り込み、教師や柚を虐めていたやつらに怒鳴り暴れまわった。

その大立ち回りの結果警察まで巻き込む大事になってしまい、事務所の人や親に相当怒られたが後悔はしていない。

柚はこの一件の後怒りと恥ずかしさからかしばらくの間一切口をきいてもらえなかったが、真摯な謝罪を続けた結果。今まで以上に交流が増えた。


そして高校を卒業した後、大学には進まず声優業に専念し、一人暮らしを始めた。

柚もあの(いじめ)一件の後、更に磨いたその美貌を見初められモデルとしてスカウトされ、中学三年生の頃に映画の主演を務め人気が急上昇。

高校生になるとなぜか俺の家に転がり込み、女優業に専念。今や映画ドラマに引っ張りだこの若手人気女優へと成長した……のだが。


「………なあ」

「なあに、お兄ちゃん」

「暑苦しい」

「可愛い妹のスキンシップを暑苦しいってひどくない?」


もう夏も間近だというのに、俺の膝の上に座り俺の体を背もたれにして台本を読む柚に文句を垂れる。

最近というかこの家に住むようになってから柚は隙さえあれば俺にくっつくようになった。

俺が一人暮らしを始めてから柚が家に転がり込んでくるまでの二年間に何があったんだってくらい俺と柚の距離が近い。

距離が近くなったことはうれしいのだが、如何せん近すぎる。

今や日本一の人気を誇らんとするその美貌と、時折見せる艶めかしい姿、シャンプーの匂いがまじかに迫り俺の心臓に悪い。

妹だから興奮することはないのだが、台本に集中できなくて困る。


「そんなこと言うと明日の料理全部お兄ちゃんの嫌いなナス料理にするよ」

「いや、それはマジ勘弁」


だからと言って無理矢理どかすこともできない。

我が家の台所は全部主権をわが妹に握られており、料理の決定権はすべてわが妹にある。

逆らうとその日の料理はすべて俺の嫌いな料理のオンパレードになってしまうのだ。

今や俺より稼いでいて仕事も多い柚は当然忙しい。だが、どんなに忙しくても台所の主導権は譲ってくれないのでほとほと困り果てている。


仕方なく俺は柚をどかすのを諦め練習を再開する。

今請け負っているのは洋画の吹き替え。アメリカン俳優の口に合わせてセリフを言うのが難しくもうすでに三時間以上練習している。


「お兄ちゃんテレビ見たい」

「すまん、本番明日だからそれまでに完璧にしておきたいんだ。見たい番組あるなら録画しといてくれ」


そして、絵を見て練習するため必然的にテレビを独占してしまうことになる。

柚には申し訳なく思うものの本番は明日なので譲るわけにもいかない。


「ん、分かった」


こういう時柚は聞き分けが良い。流石自慢の妹。

柚はテレビを見るのを諦め、台本の読み込みを再開する。

声優と違って俳優はセリフを覚えないといけないから大変だ。柚は記憶力が良いからセリフを覚えるのに苦労しているのをあまり見たことがないが、俺は苦労した記憶しかない。これも俳優としての仕事が減った理由の一端かもしれない。


「それ、新しい台本か?今までの奴と違うよな」

「うん、これは新しいドラマの台本。前撮っていた映画のは明日完成披露試写会」

「流石人気女優。もう新しい仕事決まってんのか」

「うん」


流石大人気女優だ。兄として妹に仕事も稼ぎも負けているのは情けない話だが、同時にうれしくもある。


「そういえば今日帰るときケータイ繋がらなかったけど……電源切ってるの?」

「ああ、違う。さっき帰り道でうっかり落として水没させちゃったんだよ。なんか聞きたいことあったのか?」

「ううん、そんな大事なことじゃないから気にしなくて大丈夫」

「そうか、まあ不便だから明日には買いに行くよ」


そうそう緊急の連絡なんてないが、妹と連絡を取れないのは非常に困る。

妹に何かあったときすぐに駆け付けられるようにしたい。

中学校の時のようないじめとかはもうないだろうが、事故とか誘拐とかないとも限らない。

うん、不安になってきた。明日仕事終わったら速攻買いに行くことにしよう。


明日そんな余裕がなくなることも知らず、俺は心のメモ帳に『すぐケータイ買う』と大きく書き込んだのだった。



**



翌日、完成披露試写会へと向かう柚を見送り、ぎりぎりまでセリフ合わせの練習をした後あらかじめ指示されていたスタジオへと向かう。

いつもと同じスタジオなため迷うことなくたどり着き、スタジオへと入る。


「お願いしまーす………って何ですか皆さんそんな顔をして」


スタジオに入るとすでに集まっていた仕事仲間が驚きと困惑と動揺が入り混じった視線を向けてきた。

具体的にはお前ここにいて大丈夫なのか的な視線だ。


「いや、何ですかって知らないのか?お前今熱愛報道で周り騒がしいだろ?」

「はあ!?熱愛報道!?誰と誰が?」


いや、俺と誰かなんだろうけど。でも、俺の身近に付き合っている女性はいないし熱愛報道されるほどとなればなおさらだ。


「お前とあの青井柚だよ!いつの間にあんな有名女優と知り合ったんだよ!!」


そういって同期の声優が見せてくるスマホの画面。そこには『人気若手女優青井柚に熱愛報道!お相手は声優の赤坂悠』とでかでかと見出しがあり、その下に「今月中ごろ週刊誌の記者がこの二人が同じ部屋へと入っていく姿を目撃し………と続いていた。


「いや、柚とかよ!」


確かに俺と柚は兄妹関係を正式に公表した記憶はない。ただ隠しているわけでもないのですでに周知の事実と思い込んでいたのだが、知らない人のほうが多いのか。


「下の名前を呼ぶほどの仲なのか!?」

「いや、妹だよ。心配して損したわ」

「妹!?でも名前が違うじゃねえか」

「青井柚は芸名。青井は母方の旧姓なんだよ。本名のまま出るのを柚が嫌がったから旧姓を使ったんだ」


唖然とする同僚をよそに、記事を読み進める。

既に同棲しておりとか、結婚秒読みかとか、流石ネットニュース。大げさに書きすぎだ。

その下に続くコメントには「高校生に手を出すとかアウト」「柚ちゃんと同棲とか滅びろ」「脅してるんじゃねえのか」とか俺のことをさんざんに書いてある。まあ、柚に対する誹謗中傷は見当たらないから良しとしよう。


その後駆け込んできた事務所の人にも先ほどと同様の説明をして納得してもらう。どうやら昨日から電話が鳴りやまなかったようで、かといってケータイを壊していたため連絡がつかずほとほと困り果てていたようだ。誠に申し訳ないことをした。


これから柚が出演している映画の完成披露試写会が行われるということで、事務所の人が持ってきた小型テレビにみんな釘付けだ。

既に収録を始めている時間なのだが、話題の渦中にいる俺がいるため始めるにはじめられず、とりあえず柚側の対応を見てから収録しようということになったのだ。


試写会にはたくさんのキャストと監督が登壇しているはずだが、どこの局も写しているのは柚一人だ。

大人気女優の熱愛報道。やっぱり大きなネタなのだろう。

結果がただの兄妹でしたというのはなんか逆に申し訳なく感じる。


試写会は順調に進み記者からの質問を受け付ける時間となる。

質問されることは映画そっちのけで柚のことだ。

映画制作側にも影響を与えていることを考えると申し訳なく感じるが、柚がすぐ誤解を解いて映画の話題に戻ると信じたい。


「柚さんが同棲しているというのは事実なのですか」

「はい。ですがどちらかというと同棲というより同居ですね」

「では赤坂悠さんと同居していることは親御さんは知っているのですか」

「はい。流石に親の許可なく転がり込めません」

「転がり込むといいましたが、柚さん自ら悠さんの下へ行ったということでしょうか」

「はい」


違う!誤解が広まってる!

嘘は言ってないが本当のことも言ってない。何故兄妹であることを明かさない!

それを明かせばこの騒動も終わるのに!

記者の皆さんどよめいてないで質問して!肝心な質問が出てないよ!!同居同棲以前に関係について言及しようぜ!!


「同居はいつごろからでしょうか」

「高校に上がった時からなのでもう三年になります」

「赤坂悠さんとはいつ頃知り合ったのでしょうか」

「生まれた時からです。なのでもう18年の付き合いになりますね」


会場のどよめきがさらに強くなる。

柚をとらえるカメラがさらに増え、ほかの出演者はもはや蚊帳の外だ。


「生まれた時からということはお二人は幼馴染だったということでしょうか」

「いえ?幼馴染でなく兄妹です」


会場の時が止まった。


どよめきが一瞬にして静まり返り、だれもが動きを止める。

そりゃそうだ。恋人関係かと思っていたらただの兄妹だったのだから。


「……兄、妹ですか?」

「はい、青井柚は芸名で本名は赤坂柚です。赤坂悠とは兄弟関係にあります」


思考停止から復帰した記者が戸惑いながら質問を重ねる。

まあ、これで一安心だろ。誤解も解け質問も映画関連の質問へと移行していくはずだ。

小型テレビの前で安堵の溜息を吐き、仕事に戻ろうと促そうとし―――


「では、お二人の間に恋愛関係はないということですか?」

「いえ?ありますよ。私の一方的な片思いですが」


今度は会場だけでなく。このスタジオの時まで止まった。

聞こえてきた言葉に耳を疑い、頭を疑い、電波を疑った。

いやまさか、そんなはずは――


「は、はい?で、でもお二人は兄妹関係なのでは?」

「はい。でも血はつながってませんので」


聞き間違えじゃなかったあああああああああ!!

どういうこと!?柚が俺のこと好き!?異性として!?

その前になんで俺と柚の血がつながっていないことを柚が知ってんの!?

柚が物心つく前の家族会議で、本当の家族として扱うために血がつながっていないことは内緒にするって決めたはずだ。

だから血がつながっていないことを知りうるはずがないんだけど。


「繋がっていない、ですか?」

「はい。私は養子縁組候補児として今の両親に引き取ってもらったのです。兄も両親も血がつながっていないことを教えるつもりはなかったようですが、両親の血液型がA型とO型なのに私がAB型である理由を問いただしたところあっさり教えてもらいました」


まさかの血液型あああああ!!

確かにA型とO型の両親からAB型が生まれてくることはまずないが、そんなところでばれるとは。

盲点!


「赤坂悠さんは柚さんの恋愛感情を容認したうえで一緒に住んでいるのですか?」

「いえ、恋愛感情以前に私が血がつながってない事実に気づいていることすら知らないと思います。あくまで妹としてしか接してくれないので」

「では赤坂さんとの―――」


質問がヒートアップする。

あまりの衝撃に固まっていた記者たちがペンを片手に質問の雨を柚にそそぐ。


「おい、大丈夫か」

「大丈夫じゃない」


そして、画面のこちら側では気まずい雰囲気が流れていた。

憐れみとからかいの表情を浮かべた同僚に構っていられないほど衝撃的すぎた。

同僚もそんな俺の様子を見て、今はそっとしておくべきだと判断したのか視線を小型テレビへとそっと戻す。

画面の先では収拾つかない会場に司会の人が右往左往していた。

そんな中、柚が記者に対する回答をいったんやめすっと右手を上げる。

新たな挙動に記者も口を噤ぎ、カメラは彼女の一挙手一投足を取り損ねないようその動きをとらえる。


「まず、先に映画関係者の皆さん、披露試写会をこのような状況にしてしまい申し訳ありません。貴重なお時間をこのような私事に付き合わせてしまい、恐縮の体でございます」


カメラが映画関係者をとらえる。キャストの人や監督は苦笑いだ。まあ折角の映画の宣伝が恋愛騒動に早変わりしたのだから苦笑いを浮かべるのも致し方ないだろう。


「そして、ファンの皆様。この度はお騒がせしてしまい申し訳ありません。ただ、一つこの場を通して伝えたいことがあります。今回兄はただ巻き込まれただけです。ネットの記事やコメントで兄を悪しく書く内容が多く見受けられましたが、そのような誹謗中傷は避けてください。兄のことなので私の誹謗中傷がなければいいと、自分の誹謗中傷は気にも留めていないと思います。兄は、捨てられ死んでしまうかもしれなかった私を見つけて拾ってくれた。拾った責任を取ろうと子役業まではじめ毎日必死に私のために頑張ってくれました。つらいことのほうが多かったはずなのに私のために弱音を一切吐かず努力し続けるそんな人です。私がどんなに冷たい態度をとっても変わらぬ愛情で接し、私がいじめられた時には学校にまで乗り込んで私を守ってくれた。そんな偉大で尊敬できる素晴らしい兄です。兄がいなければ私は今この場にいなかったと思います。決していわれなき誹謗中傷を受けるようなそんな人ではありません。どうか兄を悪く言わないでくださいお願いします」


画面の向こうで柚が静かに頭を下げる。


「愛されているねえ」

「………勘弁してくれ」


恥ずかしい。無茶苦茶恥ずかしい。

すごい褒め殺しだ。偉大で尊敬できる素晴らしい兄って俺はそんな立派な人物じゃないのに。

そしてスタジオにいる周りの人のからかいを含んだ視線が余計に羞恥心をあおる。

うれしいけど。うれしいんだけどね。


そうこうしているうちに時間の関係上から柚への質問はあと一個だけということになった。

流石に恋愛騒動に質問の時間すべてを使うわけにいかないからこその措置だろう。

もともと映画の完成披露試写会だし。


「では、最後にお兄さんに伝えたい事ってありますか?」


最後の質問に指名された記者は嬉しそうに質問を投げかける。

嫌な予感しかしない。もっと別の質問はなかったのだろうか。

柚は少し考えた後。満面の笑みを浮かべる。


「お兄ちゃん。大好きです。結婚してください」


突然のプロポーズ。

会場はその宣言にヒートアップし今日一番の盛り上がりを見せる。

勿論、俺のテンションは今日一番の盛り下がりだ。

宣言通り最後の質問だったのか、その後は映画に関する質問へと移行していった。

だが、こっち(スタジオ)の雰囲気は最悪だ。

いや、雰囲気が最悪なのは俺だけか。

同僚やほかの人はニヤニヤを隠しきれていない。もはや人の不幸を笑う第三者だ。

因みに。そのあとの収録は練習の成果が一切活きず、失敗続きで別の日に撮り直しとなった。


この会見の後、柚の宣言はいっそ清々しいとファンからなぜか賞賛の嵐で、新たなファンも急増。映画は相当な売り上げを記録したそうだ。

俺との恋路は見守るといったスタンスで、応援クラブみたいのもできているようだ。


また、俺も『兄の鑑』などと賞賛をうけファンが急増。仕事の依頼も増えた。ただその多くが誰かの兄役であったのだが、今回の件と関係ないことだと思いたい。


そして、あの宣言以降。柚に遠慮はなくなった。さらには妹がいるからと合コンには誘われなくなるわ、殺気のこもった視線を向けられるわで日々大変だ。

唯一の頼みの綱である両親は妹がすでに買収済み。

外堀は完全に埋められた状況。だが、柚は妹だ。


猛攻に抵抗する俺と、その抵抗を切り崩さんとする柚のさらなる猛攻。

果たして屈するのは一体どちらなのか。



……結果は見えたようなもんだね。


お読みいただきありがとうございます!


評価よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 後日談から周回しに来ました。 学校に乗り込んだ時、なかなかに凄いことしてますよねw あと二周ほどしてきます
[一言] 神はここにいた……
[一言] この作品、とても気に入ってまして、久しぶりに読み返しに来ました。最高でした。
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