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バイトテロ奇譚 ~人外娘を求めて旅立ったら呪われた~  作者: さっさん
第二章 前門の虎後門の狼
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第六十二話 魚人族の問題

 あり得ない事ってあると思う。宝くじに当たる。宇宙人と遭遇する。アイドルと恋に落ちる。異世界に転生する。下半身が呪われる。それから海賊を退治しに行く。


 森田さんの案内で、一行はフィガの海岸から少し歩いた所にある埠頭(ふとう)へと移動した。

 急に海賊退治が決まり、俺らは焦った。何故なら喧嘩もした事がないし、全員弱そうだし。そもそも、心と体が入れ替わっているのだ。

 今の俺は棒切れみたいにガリガリの爺さんで、歩く度に鼓動がヤバイ。あとはパンイチのおっさん、ナヨナヨしたオカマみたいになった俺(中身は牛宮さん)、それからケンタウロス娘(中身は森田さん)。致命的なほど、弱小チームだ。


 海に向かって続く一本道。この先に、海賊が待ち受けているのだろうか。

 釣りをしているオッサンに手を振り、世間話をしていた森田さん。話を終えたのか、こちらへと戻ってきた。


「どうやら今日もやられたようだ。釣った魚を全部取られたようだな」


 森田さんは先程話をしていた人を指さすと、儂の知り合いだ、と付け足す。


 世間話じゃなかったのね。聞き込みをしていたようだ。となると、あの人は漁師なのかな。

 ……しかし、よく話が通じたよな。だって今の森田さん、完全にケンタウロス娘なんだもの。


「よし、出航しよう。乗れ!」


「え、これッスか!?」


 波止場に停泊していた一隻の船艇に飛び乗ると、森田さんが手招きした。見れば、小さめの船だった。全長三メートルくらい。白色。

 なんというか……数名が趣味で釣りを楽しむ為の、個人的だけど、ちょっと本格的なモーターボートって感じがした。中央には窓と屋根が付いた小部屋が窺える。操縦席だな。

 何だか、サブカルチャーで見る立派なものではないし、四人も乗れるのか、これ?


 サモと牛宮さんが乗ってしまったので、俺も飛び乗った。体が思うように動かず、頭から海中へダイブする所だった。それを、森田さんが支えてくれた。


 ボートから見下ろす波頭と掛けまして、現在の俺の禿げ頭と解きます。

 その心は、どちらも白く輝いているでしょう。


 ……イカンイカン、謎掛けしている場合じゃないな。この体になってから、妙にギャグのセンスが古風になった気がする。魂や人格は間違いなく俺なんだけど、思考も影響されているのだろうか。自分が自分じゃないみたいだ。


 乗ってみると、船体が大きく揺れた。俺は船に乗るのが人生で初めてなのだが、不思議と気持ちが良かった。この体のせいだろうか。船酔いするのでは、と心配していたが、恐らく平気だろう。

 操縦席の横に椅子が設えてあった。助手席みたいな感じか。その後ろには荷物置き兼、座席といった塩梅のスペースがあった。

 森田さんは操縦席に座り、その横の助手席にサモが座る。荷物置き場には牛宮さんが座ってしまったので、俺は船体の後方にある、台みたいな出っ張りに腰を下ろした。と同時、船が急発進した。急に心と体が入れ替わるし、海賊の討伐も急に決まるし、出航も急だし……今日はすげぇ疲れる。


「この体にもようやく慣れてきた! 昔を思い出すのよなァ!」


 キャッホー、という雄叫びをあげる森田さん。恐らくこの爺さんは若い体になって活力が増しているのではないだろうか。

 アスタリスクマークみたいな形状のハンドルを、鼻歌混じりに操作している。

 吹き付ける潮風は最高に気持ちが良かった。何故だか、郷愁を感じて、心が落ち着いた。

 ボートの振動や時折降り注ぐ波しぶき。全てが俺にとっては非日常なのに、デジャヴを感じる。


「ご機嫌やん、森田さん! ちなみにどれくらいの時間、掛かる?」


 モーターの音と、波を切り裂き進んでいく音に負けないよう、俺は声を大にして言った。只でさえ声が掠れて出にくいのだが。

 すると森田さんはこちらを振り返り、ニッと笑った。いつの間にかサングラスをしている。


「海賊に出くわすまで、よな!」


 え、それってどれくらい掛かるの?

 行き当たりばったりで行動しているんじゃね、この爺さん。


「大丈夫クマ、もうすぐ海賊に会えるクマ」


「うわっ、居たのかよ!」


 振り向くとクマアが居た。こいつの存在を忘れていた。クマアも座る場所がないのか、俺の肩のあたりをふわふわと漂っている。

 しかし、もうすぐ会えるとは一体。……あ、そうか。ウンディーネの使いなんだっけ。多分、この辺の事情にも詳しいのだろう。

 こんな小さいボートで戦闘になるのだろうか。そういやババ様に剣を貰っていたんだっけか。

 転生初日に授かった奴だ。目下、タチバナハウスに出没したゴーラ退治に使われているのだが、持ってきておくべきだった。剣術の心得はない。だが、無いよりはマシだ。

 俺が歯噛みしていると、クマアが陽気に口を開いた。


「クマ、船で沖合に出ると大体襲ってくるクマ。奴等、数で攻めてくるから卑怯クマよ!」


 ん、何か複数で襲ってくるみたいな言い方してんだけど。怖いんだけど。


「言っておらんかったが、海賊はヒューマンではなく……」


 森田さんが何かを言おうとした途端、船体が大きく揺れた。腰掛けていた俺は海に落ちそうになり、必死にしがみついた。

 次に物凄い衝撃が船全体に伝わる。座礁でもしたのだろうか。


「なんやねん!?」


「来たクマね!?」


 いや、違う。海賊が来たのだ。海の底から。

 突如水面が激しく盛り上がったかと思うと、波しぶきの狭間から人間の姿をした何かが多数出現した。

 目、耳、鼻、口。パーツこそ人間の容貌だが、肌の色は緑色だったり、水色だったり。服は着ていないようで、全身が鱗に覆われている。

 海賊はマーマンだったんだ。人間ではなく、魚人が人間を襲っていたのだ。でも、何故だ? 森田さんも魚人だ。何故、目の前のコイツらは悪事を働くんだ?

 一つ分かったのは、歓迎ムードって感じではない事だ。

 船を囲まれているようだ。五匹、いや六匹って所だろうか。その中の一人が操縦席の森田さんに向かって言葉を吐いた。


「全員降りろ! このボートは俺達が貰う!」


「な、なんでそんな事しなきゃいけないのよ!」


 食い下がったのは牛宮さんだ。恐怖心がないわけではなさそうで、顔は引き攣っていた。サモに至っては、恐れのあまり失禁しそうな勢いである。


「うるせぇぞ、オカマ! 中古で売って、金にするからだよ!」


 成程。至極当然の理由だった。海賊だもんね。

 このボートを売って金に換えるのか。海賊って盗んだものを売り払って生計を立てているって事か。なんか、当たり前の事なんだけど、今気づいたな。あと、オカマって言うな。


 肝心の森田さんは出方を窺っているのか、黙り込んでいた。サモも駄目、牛宮さんはまだ女子高生。あとはクマアだが……あれ!? クマアが居ない! アイツ……逃げやがった。なんて事だ。畜生、覚えておけよ、あの木偶の坊。


 ……となれば、俺が出るしかないよな。

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