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バイトテロ奇譚 ~人外娘を求めて旅立ったら呪われた~  作者: さっさん
第二章 前門の虎後門の狼
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第五十五話 トンブリ

 この世界に来てから、どこかで江戸弁を聞いた覚えがあった。思い出したんだけど、和田君にタチバナハウスを譲り受けた日の夜、偶然入ったバーに居たフクロウのバーテンダーだ。


 ドワーフのおっさん、トンブリは「さて、そんじゃあやるか」と、腕をぐるぐると回していた。こうやって見ると、悪い奴ではなさそう。


「え、もう始める感じ?」


 俺の口から言葉が漏れる。それも当然の筈で、仕事を依頼していなければ、料金体系とか、一切そういう話をしていない。


「おうよ、小難しい話は後。さっさと畳んじまうぜぇ!」


 うーん。国選って事はアサーガの御用達って事だよな。信頼はしたい。だけど、第一印象は変な小さいハゲのおっさんで、今の第二印象は中々のバカだ。


 職人気質と表現していいのか分からないが、大丈夫なのだろうか。えらい金額を吹っ掛けられたりとか……まぁ、和田君の紹介だから平気だと思うけど。

 俺が疑念を抱いていると、トンブリはそそくさと庭へと出ていった。後を追ってみると、成程。庭先に軽トラが停まっていたのだ。彼はそこから工具や木材を運び出していく。その傍ら、肩に電話を挟んで誰かと通話しているようだった。

 それから、白い紙を取り出すと、家の間取りや図をペンで書き込んでいく。信じられないのだが、定規を一切使っていない。道具を使って計測しないのだ。目で見ただけで分かるようで、それはトンブリという職人の凄さを如実に物語っていた。


 暫くするとどこからか、応援のドワーフが三人ほど現れた。見た目はほぼ同じで俺には区別がつかない。あの小さな体で、彼らは石膏ボード数枚を軽々と持ち上げ、運んでいった。正直、とんでもない化け物だ。俺が呆然としているうちに、木造の下地が出来上がってしまった。

 それから断熱材や防音材、壁紙などをせっせと運び入れ、電動工具を用いて、留めていく。


「タッチー、何の音です?」


「おお、リフォームしてもらってるんだけど……」


 インパクトドライバーの駆動音を聞いてか、ヴィータもリビングへとやってくる。何故ハゲのおっさんが集結しているのか、経緯を説明しておく。彼女は工事する様子を興味深げに観察していた。――新しいドアを填め込み、配線を直し、エアコンを取り付け、換気扇を取り付け……着手から数時間。リフォームが完成してしまった。


「出来たぜ、旦那ぁ!」


 家が建つ時って、少なくても数か月は掛かるくね?

 しかも、前より綺麗になっているのは気のせいだろうか。


「旦那、店舗って事で、防炎・耐熱用の素材にしといたぜ。あと床はモルタル、床暖房付きでい」


 トンブリは壁と床を指さし、そう言った。彼は腕を組んで得意げに話を続ける。

 正直、素材の話をされても俺には分からない。だが、なんか床がテカっていて綺麗なのは分かる。それに耐久性も高そうだ。


「それからよぉ、エアコンとかは最新モデルに変えちまったけど、いいか?」


「あ、ああ……構わないけど、すごいな」


 以前の内装をベースにしているが、これはレベチだ。元から屋敷や豪邸といった感じだったが……リビングの変わりようが凄い。

 床はテカテカしていて、硬い。壁とか天井も燃えにくい材質に変えてくれたようだ。照明もカフェのようにお洒落になってしまって……自宅という雰囲気は消え去っていた。


「これで終わりだけどよぉ、何か質問はねぇか?」


「ん、あー、そうだな。話は変わるんだけど……」


 質問があるとすれば、リフォーム費用なんだが……

 そういや、ドワーフと話した事って今まで無かった気がする。各種族の長が持つと言われるグランド・ラクリマ。もしかすれば……と思い、俺は聞いてみる事にしたのだ。だが、トンブリは首を傾げた。


「いや、あっしらは職人でさぁ。わかんねぇな……」


 ドワーフと言うと、物を作る種族のイメージがある。有力な種族でもあり、先ほどの手際と膂力、それから類稀な能力。それらを加味して、ラクリマを持っていても何ら不思議ではないと感じたのだが、持っていないのかもしれない。

 それにしても、僅か数時間で家をリフォームしてしまうなんて、感謝の念で一杯だ。俺とヴィータは礼を述べる。トンブリと再度、握手を交わした。


「そんじゃ、後は請求書を送っとくんで、あばよ、またな!」


 そう告げると、ドワーフ集団は帰っていく。来るのも早いが、帰るのも早い。電光石火とはまさにこの事だ。数台の軽トラと共に、彼らは真夏の蜃気楼のように消えていった。

 凄すぎると、人ってリアクションが取れないんだな。感嘆の言葉は漏れていたけど、何か凄すぎて……これが国選レベルの業者の腕前なのか。


「タッチー、良かったですー」


「せやな、この世界に来て驚きの連続やで」


 俺はテーブルに置いてあったリモコンを手に取り、スイッチを入れる。涼しい風が肌を撫でた。二十七度設定なのに、割と広いリビング全域がひんやりとしていた。壊れてしまった電子レンジやトースターは後で注文しておこう。今度は過熱して火災が起きないよう、停止プログラムが入っているかどうかを留意しなければな。

 ドワーフという種族について色々聞きたかったのだが、仕事中にペラペラ話しかけるのも申し訳ないから自重していた。いつかゆっくり話がしたいものだ。仲良くなれた気がするし、トンブリとはまたどこかで会う、そんな気がする。




 後日、郵送で請求書が送られてきた。紙面を広げて見てみると、金額の欄があった。


 ――下記の通り、ご請求申し上げます。900,000ターラ(税込)


 日本円にして、約四千万円の出費である。

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