表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイトテロ奇譚 ~人外娘を求めて旅立ったら呪われた~  作者: さっさん
第二章 前門の虎後門の狼
51/64

第五十一話 刺激的ビフォーアフター

 こちらは密かに買い集めていた異世界産コミック。依頼人は「読んでも前巻の内容を忘れてしまう」とお悩みでした。

 それが……なんという事でしょう。今では邪教徒の聖典のようです。どのページを捲っても黒一色。もう内容を忘れる心配はありません。


 それからベッド。国王に用意させた高級布団も匠のアイデアで、そう……無骨なフレームが剥き出しです。寝苦しい真夏の夜も、快適に過ごす事が出来ます。

 天井も無くなり、いつでもお星様がこんにちは。一人ぼっちの寂しい夜にサヨナラですね。


 こちらは玄関。部屋数が多く、移動が大変との事でした。ですが、もう心配要りません。

 なんと、匠の大胆な発想によって壁という壁を焼き払い、解放感溢れるワンルームへと変貌を遂げました。

 壁の焼け跡がワイルドさを引き立てていますね。ひしゃげた電子レンジのようなオブジェも、とってもお洒落です。


 最後に、依頼人が大切に保管していた、うめえ棒。家計を逼迫しないように……と同居人への配慮から購入したものでした。

 それが、ご覧ください。なんと、馬糞に早変わり!

 ペットの居ない依頼人宅に、素敵な癒し空間を演出してくれます――


「って、ちがああああぁぁうッッ!!!!」


 大絶叫を上げる俺。隣のヴィータがびくりと体を震わせた。

 目下、俺とヴィータはリビングに居合わせている。幾つかの家具は黒焦げになり、まだ異臭が残っている。俺もヴィータも茫然と立ち尽くしたままだ。

 台所に飾ってあったラクリマは不思議な事に傷が一つも付いていなかった。変形、変色もしておらず、グランド・ラクリマという物体の異質さを顕現しているようだ。一体、どんな材質で出来ているのだろうか。ますます興味が湧く。だが、今は等閑に付しておくべき。些末な問題だ。


「ちょっと、一旦座ろか……」


 ヴィータに座るよう言葉をかける。

 彼女は……何か思い当たる節があるのだろうか。俺と目を合わそうとしない。暫らくの間、剣呑な空気が流れた。


「ヴィータ、あの火事の中、寝ていたの?」


「暖かくて、なんだかノスタルジーを感じて、気付いたら寝ちゃったです……」


 ……パードゥン?

 お前の故郷って、どうなってんだよ。ま、まぁ、でも、竜族って火を吐いたりするからな……。山火事とか日常茶飯事だったのかな。


 落ち着け、まずは状況整理からだ。

 テーブルは無事。真っ黒になっているけど、まだ使えそうだ。それから今座っているソファ。こちらも無事だ。火は上に昇っていくからなのか、それとも火元が遠かったからなのかは分からない。

 まぁ、なんたって、和田国王が用意した一級品だからな。……和田君、俺は何て弁解したらいいんだい。


 リビングを見渡すと、やたらと焦げている一角があった。電子レンジの上である。

 俺は立ち上がり、キッチンへと移動した。電子レンジから柱状に火が昇っていったような……?

 俺はなんとなく電子レンジの扉部を開けてみた。すると、中から黒色の暗黒物質(ダークマター)が出てきた。


「おまっ……どんだけやったらこんな事になるんだよ!」


「き、気付いたらメラメラ燃えてたですー」


 これは一体何なのだろうか。いや、何だったのだろうか。

 黒よりも暗い、ダーカーザンブラック。形状からしてハンバーグ……? 買い置きしてあった冷凍食品だろうか。

 俺は咎めるようにヴィータを睨む。物凄い目が泳いでいた。


 何分も自動で温めないとこうはならんぞ……。

 出火元はリビング、家電……原因はどうやら電子レンジ火災だったようだ。食品を加熱しすぎると、発火するらしい。

 大体のモデルには、発火したり爆発したりしないよう、自動停止するプログラムが入っている筈なのだが……地球と同じと誰が決めた。慢心だ。地球の電子レンジと微妙に差異があるのかもしれない。アロファーガの全ての電子レンジがそうなのか、それとも購入したモデルやメーカーが良くなかったのかは分からない。……全焼はしていないが、失ったものは大きい。

 俺は椅子に座るヴィータの真横に立つと、「なぁ、ヴィータ」と前置きしてから、彼女の肩を掴んだ。


「……なんて事してくれてんねん!」


「す、すみませんです……」


 表情を強張らせるヴィータ。どうやら竜人にも罪の念はあるらしい。罰の悪そうな顔をしているし、尻尾も項垂れている。反省しているようだ。


 以前から思っていたのだが、ヴィータはドジっ娘だ。ただし、ドジっ娘と認められる為には条件が必要だ。それは「いたた、転んじゃった」とか「きゃっ、クリームがほっぺたに付いちゃった!」とか、失敗の程度が比較的易しいものでなければならない、という事だ。

 ドジっ娘は愛される為に、可愛らしいものでなければならない。そう、全日本ドジっ娘保護団体が制定している。そう、実害を被るレベルであってはいけないのだ。ましてや、今回の一件は災禍(カタストロフ)級ではないか。

 フィガの町へ行った時、巨女がケツで店を踏み潰した。ツカさんの喫茶店が一瞬の瓦礫の山になったのを覚えている。この世界の女の子は皆そうなのか?


「どないするん、これ?」


「ふぇ……」


 追及する俺に、ヴィータは目尻に涙を浮かばせた。まだ幼いから難しいかもしれないが、自分がやってしまった事の大きさを理解してほしい。

 別に、責めてはいるが、俺は怒ってはいないのだ。理不尽に怒りをぶつけるのではなく、ではどうしたらよいのか、それをヴィータに考えてほしいのだ。

 何が良くなかったのか、今後はどうしたら良いのか、それに気付いてほしい。もう燃えちゃったし、直らない。だけど、ヴィータが自分自身の在り方を見つめ直す切っ掛けになってくれればいいかな、と思う。


「これはアカンて。フェイチキ販売もやけど、和田君に、皆に何て説明したら――」


「び、びーーーーッ!! びえーッ!! びええーーーー!!」


 大量の涙が彼女の目から流れ落ちる。口を大きく開け、彼女は泣き出してしまった。

 可哀想だけど、こういう時はしっかり向き合わないと駄目だと思う。


 いや、言わなきゃダメだよな……? あれ、俺の教育って間違ってる……?


 あー、もう。何でこうなるのか……。女の子を泣かせたくないし、女の子の涙は見たくない。だというに、ヴィータはぼろぼろと泣き続けている。

 ラクリマをゲットして大金もゲットして、ちょっと浮かれた瞬間にこれだ。宝くじには当たらない。セレノに振られる。パン屋を出禁になる。家は火事になる。期待と絶望の差し引きはゼロってか?


「ふぇ、ぐす……ズビビ」


 怒られたヴィータは手で涙を拭いながら、リビングを出て行ってしまった。自室に向かったようだ。暫く引き籠もるのだろう。

 今日は転生して一番の厄日かもしれない。俺は大きく嘆息すると、ソファにひっくり返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ