第四十六話 金ならある
今できる事があるとするならば、情報収集だ。頼もしい事に金なら幾らでもある。情報料にどれだけ金が掛かろうと、湯水のように使えるのだ。
ヴィータが起きてきたら俺は町へ出て、聞き込み調査もすればいいだろう。それまでは、ネットでググっていよう。
「えーと、ラクリマ、ラクリマ……と」
携帯電話の検索機能でラクリマについて調べてみる。何か新たな情報が得られるかもしれない。検索履歴で“裸体 ハーピィ 女”と出てきたのは内緒だ。
情報とは強さだ。博識は得をし、情弱は損をする。無知である事を俺は恥ずかしい事だと思わない。だが、情報に疎い結果、知らず、損をしてしまう事はあるだろう。
買い物をする時なんかはそうだ。ネットでクーポンが発行されているのに知らなかったり、もっと安いモデルがあるのに高いのを買ってしまったり。ライフハックや時短術、生活の知恵、それから会話スキル……どんな分野でも同じ事が言える。アンテナは色々な所に張り巡らせるべきであり、人生という名の情報戦は生まれた瞬間から始まっているのだ。
「お、これは……」
このサーキュレーターいいな。
値段は高い。だが空気清浄機能も付いていて、スイング機能もある。タイマー付き、リモコン操作も可能。
最近暑いしな。買っちゃうか。皆も喜ぶだろう。
……いやいや、何をやっているんだ、俺は。やるべき事があったでしょう。
そう、丁度サンダルが欲しかったんだよね。獣人、有翼人用のが出品されている。これなら俺の足でも履けそうだ。ほほう、カラーバリエーションもたくさん種類がある。黄色にしよう。
サイズは二十六……いや、待てよ。人間だった頃と比べて肥大化しているよな? 当時の俺は足のサイズが二十六センチだったけど、今はもっと大きいんじゃないか?
となると、足のサイズの測り方を調べた方が良さそうだな。地球とは規格が違うかもしれない。足のサイズで検索、と。
……そういえば、ほしいものリストに入れたままになっていた商品が結構あったな。……よし、全部買おう。
「タッチー、おはようですー」
「おう、おはよう」
寝坊助の竜人が起きてきた。ヴィータは徐に扉を閉めると、目を瞑ったまま食卓へ。ふらふらと歩いていき、皿の上のトーストを発見すると、むしゃぶりついた。
俺はその様子を一瞥すると、携帯画面に視線を戻す。
高くても数百ターラ、数千ターラで買えてしまうものが多い。普段なら躊躇うような金額の物もあるが、俺は次から次へとショッピングカートに追加していく。
心配は無用だ。何故なら、金なら幾らでもある。今の俺は海賊王ロジャー並みの金銀財宝を所持しているといっても過言ではない。
買ってみたらちょっとイメージと違ったとか、サイズが合わなかったとか、そんなものは俺にとって杞憂だ。感情すらも最早、過去の遺物。お金が掛かるから倦厭していた、配達の時間帯指定も気にせず行える。
ところで、ヴィータって普段は挙動がのろのろしているんだけど、食が関係する時だけは俊敏なんだよな……。
「ヴィータ、何か欲しいものある?」
丁度良いからコイツにも何か買ってあげるか。食べ物ばっかりだろうけど。
俺はトーストを丸飲みしようとしている竜人に問いかけた。
「えー? 豚骨醤油ラーメン?」
「うん……じゃあ、それ食べよう。他には?」
「あとはハンバーグとドリアと、ジェノベーゼパスタも気になるです」
「うん、もうそれ、全部行こう」
「えっ、いいですか!? あ、じゃあ、ドリアはシーフードがいいです!」
さっきまで寝ぼけて半目になっていたのが、バチバチに目を覚ましたようだ。目をきらきらと輝かせ、嬉しそうに尻尾を揺らしている。
彼女は一瞬で口の中の物を飲み込むと、椅子から立ち上がった。そして俺の肩に背後から飛びつくと、携帯の画面を覗き込んだ。そして高速でタップしていく。カートに入れるボタンの乱れ打ちである。
全くどこのブルジョワだよ。あ、でも、俺って今、ブルジョワジーなんだ。
「これも、あとこれも!」
「ええんちゃう? どんどん行こう」
「じゃ、じゃあこれも、これも!!」
「ハハハ、そんなに注文したらオーバーイーツの人も困っちゃうな」
お察しの通り、出前だ。現在朝九時過ぎ。ファミレスとか喫茶店は既に営業し始めている。ただ、行くのも面倒だし、届けてもらおうという魂胆だ。
朝から豚骨醤油ラーメンをねだるのも恐ろしいが、コイツの食欲がどこから湧いてくるのか。成長したらもっと食べると考えると、鳥肌が立つ。
それに、朝から出前を頼んで金額が千ターラ(四万四千円ほど)ってのも馬鹿げている。もしもコイツが大人になったら、野生に帰してあげなければ……いや、ペットじゃないんだから。勝手に山に放すと生態系が狂うから駄目だ。その辺まで思案してみて、何だか末恐ろしくなってきた。そんな我が家のエンゲル係数は五割を優に超える。
数十分後、自宅のチャイムが鳴りやまなくなった。オーバーイーツの自転車が来るわ来るわで……えらい騒ぎだ。これからロードレースでも始まるのかってくらい、家の前が駐輪場みたいになっていた。
そんな様子を尻目に見ながら、家はヴィータに任せて、俺は早々に退散した。ちょっと恥ずかしかったってのもあるが、情報収集の為に、町を散歩するつもりだ。
ちなみに、配達員には多様な種族が居るようだ。獣人は自慢の脚力を活かして自転車よりも速く、有翼人はその翼で障害物を歯牙にもかけず、タチバナハウスへ届けに来てくれていた。元来、人間に比べたら体力のある彼らだ。こういった肉体労働は向いているのかもしれないな。




