第四十話 白ブリーフの男
俺が家に帰ると、パンツ一丁の男が軒先で待っていた。
――な、何を言っているのかわからねーと思うが、ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺はフィガの町で転生者支援協会に行き、俺以外の転生者の情報をゲットした。そのあと喫茶ツカ・エネーナで昼飯を食べていたら巨女が尻で店を潰して……
悲しみに暮れる塚さんをフェイチキ二号店の店長として雇う事に成功した。
そして、電車で帰ってきたら玄関に知らないおっさんが立っていた。……しかも、パンイチで。
「お、おお……落ち着け、俺。まずは警察だ。アサーガ警察は優秀だからすぐに……」
「ちょと、待ってください! サモす! あっし、サモです!」
片言でサモと名乗った不審者は慌てた様子で俺に詰め寄る。身の潔白を必死に訴えようとするのだが、説得力はない。潔白なのは……そのパンツの色だけだ。
「何やねん、自分! 人ん家の敷地に裸の男が居ったらアカンて!」
何だ、こいつは。新手のセールスか!? ならば、せめてスーツを着てこい! そんな外見で引っ掛からねーぞ!
「ああ、スミマセンす! まさか、話が行ってないとはツユ知らず。転生者のサモす!」
「サモ……?」
あれ、どこかで聞き覚えのある名前だ。
「フィガの町で転生者支援協会に行ったすね? あっしの所にも連絡来て、タチバナサン、会ってみたかったすよ」
そういえば俺が会おうとしていた転生者の名前はサモだっけ。という事は何か。目の前の変態野郎が俺の探していた人物って事か。……悪い冗談だろう。
そんな未来は認めない。俺は軽く彼をあしらい、家の中に入ろうとする。
「待ってくださーい! サモも困ってるすよ! このままだと大変な事になるすよ!?」
まともに取り合おうとしない俺に対し、サモもまた食い下がった。
……協会の係の人が「呪いを掛けられていて、見た目が……」って言っていたけど、こいつがほぼ全裸なのは呪いと何か関係があるのだろうか。
某ホラー番組のキャッチフレーズみたいな事を言われて気分が悪くなった俺は、一度この男の話を聞いてみる事にした。差し当たって、家の中に案内する。
「タチバナ、おかえり――って、キャアアアアアッ!!!!」
すると、ラフィリアがお邪魔していたようで、パンイチの男を見て泡を吹いて倒れた。
仕方ないので椅子に座らせたまま、起きるのを待つことにしよう。
ヴィータはというと、明らかに狼狽えている様子だ。あまり近寄りたくないのか、ドア越しにこちらを警戒していた。
「で、お互いの事はある程度知っているとして……本当に地球出身の転生者なの?」
「そうすよ。地球す。名前はサモ・マーロー」
その割に、片言なんだよな。アロファーガに転生した際、言語の不一致みたいなのは解消されている筈なんだけど。なんせ、行き交う人々誰とでも、俺はちゃんと話せているからな。
それに、サモ・マーロー……浅黒い肌に、分厚い唇。どこの国の人だろう。名前からして日本ではないようだけど。
歳も俺より二十は上なのではないかと思える。……ようはおっさんだ。で、そのおっさんが――
「何でパンイチなの?」
どうしてか。これが聞きたかった。確かに今はアロファーガも夏本番。暑いけど……ヒューマンが下着姿で歩くのは法律的にアウトのようなのだ。獣人は良いみたいだけどね。
「これは呪いす! パンツ一丁で居ないと死ぬという、呪いに掛かっているんす――」
呪い……? 転生者支援協会でも度々耳にしたけどさ。
そういえば、ババ様も初めて俺と会った時に言っていた。お主、呪われているぞ、とか。
「――タチバナサンもそうでしょ? キメラ男の噂、届いてました。あなたも呪われてる! このままだと、きっとマズイ事になるすよ!」
俺の場合はこの下半身が呪われているって事になるのか。呪いっていうか……ガブリエルの馬鹿が転生をトチったせいだよね?
齟齬が生じているようなのだが……呪いかどうかは一先ず置いておく。俺はエルフの飲み薬を飲んだら、呪いとやらもちょっと緩和されたし。
だが気になるのはサモの言う「このままだとマズイ事になる」という、呪いには続きがあるかのような言い方だった。
「最初は服を着れない呪いでした。だけど、徐々に進行していったっす。上着が着れなくなり、靴が履けなくなり……今ではパンツだけ。冬の日は凍えて死にそうす」
「服を着ようとすると、どうなるの?」
「心肺停止で、救急車で運ばれたす。心臓を握り潰されるような感覚でしたすね……」
うーん、壮大なドッキリって事はないだろう。流石に。
聞けば、どうやらサモの症状は時間経過で変化があるようだ。転生した当初は夢の異世界生活に期待を膨らませていたらしい。だがすぐに異変に気付き、徐々に呪いが深刻化し、今に至る……と。なるほど、なるほど……。




