第三十八話 フィガの町へ
翌日。俺はフィガの町へと出発した。アサーガの西にあるらしいが、距離があるため電車を使った。
アロファーガに降り立ってから初めての電車。存在は知っていたが、乗車するのは初めてだ。
駅は日本と然程変わりはない。だが利用者は少なく、殆ど居なかった。何より自動改札機がない。やはり交通手段はあまり発達していないようだ。
窓口に行くと、人間のおじさんが切符を販売していたので、そこでフィガまでの切符を購入。電車に乗った。
車内は空調が効いていて、過ごしやすい。日本に居た時と違って、座席はかなり広かった。一人一人が余裕をもって座れるようシートが大きめに作られているのだ。恐らく様々な種族が利用する事を想定しているのだろう。
窓から見える景色はあまり変わり映えせず、鉄道は山を切り開いた荒野を進んでいく。道中、野生の動物なんかが見れた。乗務員に切符の確認をお願いされたので、先程買った切符を見せて、スタンプを押してもらった。日本では珍しいが、海外の田舎の電車に似ているな、と思った。
やがて電車はフィガに到着する。駅周辺には特に目ぼしいものはない。郵便局や学校、病院などはあるようだが……娯楽や商業施設は一つもないようだ。どちらかというと、ベッドタウンの印象が強い。
さて、ひとまず転生者支援協会に行きたい。フィガの支部がある筈だ。国王に貰った携帯電話を取り出し、検索。俺は目的地まで歩いて向かった。
アサーガよりも過疎化が進んでいる。物寂しい町だ。唯一の名所としては海があるようだ。……そういえば、この世界に来てから海はまだ見ていないな。
海に生息する人外……魚人、マーマンか。ラクリマを持っていたりするだろうか。
転生者支援協会に辿り着く。その外観だが、外も中もアサーガと同じだった。特筆するような所はないな。
俺はアサーガから来た旨を話し、事業計画なんかを伝えてみる。
「フェイチキっていう商品なんですけど」
「あ、知ってますよ! 今ブームですよね!」
どうやら係員の人も知っているようだ。フィガの町はアサーガから大分離れているし、ハーピィ便も展開していない。だというのに、この知名度か。随分と有名になったものだ。
聞けば、食べた事はまだないらしい。詳しく話すと、かなり乗り気で相談に乗ってくれた。ついでに、転生者に関する情報も尋ねる。
「それと、この町にも転生者が居るって聞いたんですけど」
「あー、転生者、ええ……」
係の女性は視線を落として言った。何故だか沈黙してしまったので、俺は聞き返した。ひょっとして、何か言いにくい事情があるのだろうか。
「一人居ますね。サモさんという方で、タチバナさんと同じ地球出身の男性です。ただ、その……」
「……その?」
「呪いを掛けられていて、見た目が……」
言い淀む係員。何かタブーがあるのか。呪いと言えば俺も下半身がキメラになってしまっているし、見た目は大変な事態だ。ついこの間までは関節も逆に曲がっていたくらいだし。
俺はかなり無理を言って係員に転生者の連絡先を開示してもらう。だが、「これ以上は、すみません」とそれ以上、サモとやらの情報は教えてくれなかった。まぁ……個人情報だしね。
分かったのは地球出身の男性で、名前はサモ。俺よりも先にアロファーガに転生している、という事ぐらいか。
もしかしたら、グロテスクな外見になってしまっているのかもしれない。同じ転生者同士、かなり同情できそうだ。この世界で生きていく為にも、お互いに知り合っておいた方が良さそうではある。
協会をお暇した俺は、腹が減っていた。時刻も昼だ。
タチバナ印のフェイチキ、二号店の開業手続きは大体終わったので、後は従業員が確保できればいい。この町に知己は居ない。店で働いてくれる人間は適当に捕まえられればいいだろう。……勿論、雇用や契約はしっかりと責任をもって行う心構えである。前世でブラックバイトに心と体を蹂躙された。だからこそ、労働体制は盤石にして、店員を大切にしたい。




