第三十七話 足が治った?
俺はアネシスの了承を得ると、早速販売員として業務を教えていく。仕事の吸収も早く、愛想も良い。何よりモフモフのケモ耳美少女が、家の窓から眺めれば外に居る。これはとても癒される。
素晴らしい人材を得た。ただ、セクハラしようものならお兄ちゃん、エーティカが目を光らせているので……手は出せなかった。
客足も増えているようだった。売り上げも前日より好調だ。ただし客層は……気持ち悪い客が増えた気がする。時には脂ぎった小太りの客が「フェ、フェイチキ、十枚ください! あと、握手お願いします!」とか。時には「チェキ一枚!」とか、何を勘違いしているのか分からない奴等が入り浸っていた。なので、明らかに迷惑行為を働いている輩は、俺やエーティカの手で追い払う。
まぁ、だが、お金を落としてくれていっているのだ。余程の客じゃなければ、看過してもいい。アネシスやラフィリアが嫌じゃなければ無視しても問題ないだろう。
そんな生活が数日続き、俺は小金持ちになっていった。店舗の脇にベンチとテーブルを設置したり、ついでに飲み物も販売したりと工夫していく。
什器も足りないと判断し、個数を増やす。結果的に、一日にフェイチキ数千枚の調理が可能となった。
そんなある日、エルフの集団が訪れた。その中にはエルフの族長の姿もあった。
「タチバナじゃったな。頑張っているようじゃのう」
俺は胡乱げな眼差しで見やる。ラクリマを五千万ターラで俺に売りつけた張本人だ。心象は非常に悪いというもの。何しに来たのかと思えば……。
「ホホホ、孫娘が頑張っていると聞いてのう」
「孫?」
族長はそう言ってラフィリアを指さした。当の本人はギクリとした様子で、目を逸らす。
俺がラフィリアに問うと「言ってなかったっけ?」と一言。初耳なのだが……。
冷やかしではなく、エルフは大量にフェイチキを買っていった。その数、三千枚。到底店にある在庫では足りなかったので、後日ハーピィ便で届けると伝えた。
購入されたフェイチキは数日に渡って、近隣のエルフの村に届けられる予定だ。
それから彼らの帰り際、一人のエルフに話しかけられた。「あれ、エルフの飲み薬は飲んでませんの? ちゃんと効きまっせ?」という関西弁。エルフの村――フォルジュの村で露店を開いていた男性だ。そういえばと思い、その日の内に飲んでおいた。味は……苦かった。
「まさかエルフが買いに来るとはな。売り上げに貢献するとは、どういう風の吹き回しなんだろうな」
「エルフは新しいもの、珍しいものが好きなんじゃないですかね?」
俺がボヤくと、アネシスがそう答えた。ミーハーみたいなものだろうか。
ブームには終わりがあるし、今は物珍しさで皆買ってくれている。この先勢いは低下して穏やかになっていくだろうから、チャンスがあるとすれば今だろう。
そして一か月後、売り上げは二十万ターラに達していた。
仕事を終えて帰宅すると、体に異変があった。ラフィリアとアネシスが帰った後の事だ。俺の下半身に変化が生じていたのだ。……決して、海綿体的なものが膨れ上がったとか、そういう話ではない。
下半身は獣のままだが、関節が人間と同じ向きになった。つまり、膝から下が後ろへと曲がる。鳥ではなくなったと言っていい。ちなみに、いつからこうなったのかは分からない。
「おい、見てくれよ、ヴィータ! 足が治った!」
「そんな事より、タッチー、お店がアサーガの広報誌に載っているですよー」
「そんな事って……」
ヴィータは喜ぶ俺を無視して、何やら冊子を読んでいた。彼女はソファに寝転んで、足をばたばたさせる。
キメラの足が治ったわけだが、彼女には関係ないようだ。もしかして、休憩中に飲んだ〈エルフの秘薬〉が効いたのか?
言ってしまうと、治ってはいない。毛に覆われてモサモサのままだ。だけど、これなら個人的には及第点だった。
異世界生活から数か月。神様は俺の働きを見ていてくれたのかもしれない。
「〈人気店の秘密に迫る。看板娘とキメラの店主〉……って書かれてるですよ! キャー、看板娘ですー!」
「どれどれ……?」
嬉しそうにはにかむヴィータ。俺は広報誌を取り上げ、読んでみた。冊子自体は、アサーガで出回っている無料の地元紙みたいなものだろう。
……が、看板娘はヴィータ、お前ではないようだ。ラフィリアか、アネシスだな。掲載された写真にも君は映っていないし。
というのも、摘まみ食いばかりするから仕事は基本させていないんだよね。手伝わせたとしても、買い出しや運搬ぐらいだ。だけど、俺の留守中は店番をさせる事もある。
「俺、明日〈フィガ〉の町に行ってみるわ」
「転生者の件です?」
「それもあるんだけど、タチバナ印のフェイチキ、二号店を設立したい」
俺はヴィータの横に座ると、広報誌を渡した。現在の売り上げ、月に二十万ターラ。単純計算で一年間で二百四十万ターラとなる。
エルフのラクリマを手に入れる為には……二十年近く掛かってしまう。二号店を設立しつつ、俺はラクリマを探索。そして、別の金儲けの算段を整えた方がいいだろう。
俺が宣言すると、ヴィータは薄い反応を示した。明日は一人で行こう。情報収集も兼ねて、フィガの町の散策だ。何より、足の関節がちゃんと曲がる事が嬉しかった。




